私が「タイミングは今」と考える理由

 そして、これとは逆に、「今」(遅くとも、2018年前半まで)が正常化に動くタイミングだという考えもあります。 実はこれは私の考えです。
 その理由は、連載第一回でも述べましたが、日本の経済が、現在、非常に好調だからです。
 企業業績は過去最高を更新し、人手不足の状態にあります。株価ももはや、2012年までの安すぎる水準にはありません。こうしたこの上なく恵まれた状況の「今」こそが、金融緩和の規模を縮小して、将来の景気後退に備える絶好の機会といえるのです。

 逆に、五輪特需や更新投資(老朽化した設備などを取り換える投資)が一段落する2019年頃からは、日本の景気が後退する兆しが現れる可能性があります。そうなれば、2020年の五輪終了後には明確に景気が後退することが予想されます。
 また、2019年には、消費税率の10%への引き上げも予定されています。実施されれば、ますます景気の減速が加速する可能性があります。
 そのとき、景気浮揚を図るための金融緩和が十分に実行し得る余地を残すには、今のうちにできるだけ金融緩和の規模を縮小し、将来のそうした事態に備えておくべきなのです。
 そうでなければ、実際に日本が次の景気後退に陥ったとき、日銀にはほとんど打つ手がなくなってしまいかねません。

2%の目標達成には程遠い、
今の日本のインフレ率

 では、シンポジウムでは、「正常化」のタイミングについて、どのような議論が交わされたのでしょうか。
 「日銀は、『今』、正常化に動くべきだ」という意見が出る一方、「インフレ率2%を実現するまで動くべきではない」という日銀の見方を支持する意見もありました。
 さらには、「日銀が掲げるインフレ率2%を実現する必要はないが、『コアインフレ率』(エネルギーと食料など変動の大きい項目を除いたインフレ率)が1%程度を安定的に実現したタイミングで、正常化に動き出すべき」という意見なども出されました。つまり、この意見も「今は動くべきでない」という考えです。

 ただ、日銀は、4年8カ月以上もの間、大胆な金融緩和を続けてきましたが、コアインフレ率が1%に達したことはありませんし、結局のところ、日銀が本来望む形でのインフレにもなってはいません。そして、今後もそうしたインフレは、なかなか起きにくいと私は感じています。
 ちなみに、「日銀が本来望む形でのインフレ」とは、需要が企業の供給能力を超えてどんどん拡大して、インフレ率を押し上げる、というものです。
 しかし、現実に日本で起こっているインフレの中心は、円安の影響や、エネルギー、食料の価格の上昇などによって起こる輸入物価の上昇によるものです。現在のインフレ率は0.7%ですが(2017年9月現在)、エネルギーと食料を除くコアインフレ率は0%程度だということが、この事実を物語っています。
 そしてこの数字から、インフレ率2%などはほど遠いことも理解いただけると思います。