2017年は、北朝鮮問題や、サウジアラビアの外交と内政での緊迫、アメリカ政府によるエルサレムのイスラエル首都認定、そして年末からはイランでの反政府デモなど、世界中で政治リスク・地政学リスクが非常に高まった年でした。
 一方、世界経済は、そうしたリスクが高まったにもかかわらず好調で、日本においても、その追い風を受け、景気拡大が続き、また、株式市場においても、日経平均株価がバブル崩壊後の最高値を更新するなど、好調な状況が続いています。

 では、2018年も、こうした好調な経済が続くのでしょうか。
 そこで、昨年末の12月27日(水)、寺島実郎先生(一般財団法人日本総合研究所・会長)にお目にかかり、世界中でくすぶるさまざまな政治・地政学リスクがどう展開する可能性があるのか、さらにそれぞれの世界経済への影響についてのお考えなどを伺ってきました。
 今回は2018年最初の回ということで、その時の寺島先生へのインタビューをお伝えします。
【対談日:12月27日(水)・寺島文庫にて】

2018年、北朝鮮へのアメリカの軍事行動は
あり得るか?

 2017年の年初に、アメリカの政治学者で、ユーラシアグループ社長のイアン・ブレマー氏が、世界の10大リスクとして、地政学のリスクを強調しました。実際、2017年は、北朝鮮や中東など、世界の至るところで地政学リスクが高まりましたが、経済や市場への影響は限定的で、世界経済そのものは非常に好調でした。
 この状況は2018 年も維持すると予測する専門家が多いですが、寺島先生は、2018年も同じように、世界経済が地政学リスクにさほど影響されることなく、プラスの状況を維持できると考えていらっしゃいますか?

 たしかに専門家の間ではそうした見方が多いし、IMFなどの国際機関なども2018年の世界経済の成長率の見通しについて3.7%といった数値を出しています。
 ただ、私には今の状況が「世界同時好況のパラドックス(逆説)」と思えてなりません。つまり、実体経済と乖離している。それが極端な形で表われているのが「株価」です。
 2017年の経済成長率(世界)は3.6%と推定されていますが、アメリカの株式市場を見れば、たとえばダウ平均株価は年初から年末にかけて2割以上も上がっています。この背景には、実体経済から乖離した、マネーゲームの肥大化があるといえます。
 約20年前の1996年に、当時、FRB(連邦準備理事会)議長だったグリーンスパン氏が、上昇するアメリカの株価に対して使った「根拠なき熱狂」という言葉を思い出すくらいに株がはしゃいでいる。

 こうした状況が起こった背景として、2つのことが挙げられます。
 1つが、トランプ政権がウォールストリート寄りになっているということです。そのことは、トランプ大統領が経済閣僚にムニューチン氏(財務長官)やロス氏(商務長官)といった、ウォールストリート出身の、どちらかというとハゲタカ投資家に近いような人物を起用したり、FRBの金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)の理事、かつFRBの銀行監督担当副議長として、金融の規制緩和に舵を切るようなクオールズ氏を任命したりしていることにも表われています。
 このことがウォールストリートの投資家にとって大きな追い風になり、今の株価につながっているといえます。
 もう1つが、まさに現在の地政学リスクです。北朝鮮や中東などでのきな臭さが、戦争経済への予兆となり、そのことが株価を上げることにつながっている。
 実際、ひとたび戦争となれば、原材料・資材の巨大な消耗が始まります。それは投資家から見れば「巨大な需要の拡大」であり、彼らは投資のチャンスと捉えます。

 地政学的なリスクの高まりが、逆に好調な株価につながっているともいえるわけですね。
 戦争経済への予兆とおっしゃいましたが、寺島先生は、2018年、北朝鮮に対するアメリカの軍事行動の可能性は高まるとお考えですか?

 このところのワシントンの動きをウォッチしていて痛感するのが、トランプ政権が、軍事政権化してきている、ということです。2017年7月末に海兵隊出身で大将も務めたケリー氏を首席補佐官に任命したことなどは象徴的です。同じく海兵隊大将だったマティス氏が国防長官になることは特に不思議なことではないが、大統領の職務を補佐する首席補佐官を制服組の軍人が務めることはきわめて珍しいことです。
 こうした動きの中で私が感じるのが、戦争計画が非常に現実味を帯びてきているということです。彼らはプロの軍人だから、いったん戦端を切ったら、必ず勝つためのプログラムを組み立ててきます。北朝鮮の反撃能力を徹底的に削ぎ落し、体制を転換させ、場合によって朝鮮半島の統一も視野に入れた戦いを仕掛けてくることが予想されます。

 ただ、そうなってきた時に黙っていないのが、中国です。
 実際に、アメリカとの軍事衝突となれば、両国の軍事力の差を見れば、北朝鮮の現体制が潰れることは明らかで、そうなれば、中国との国境線に「国連軍」という名のアメリカ軍が配置されることになる。中国からすれば、その状況は願い下げです。
 そこで、北朝鮮問題において中国が主導的に動き、北朝鮮やアメリカとある種の「ディール(取引)」を行う。私に伝わってきている情報では、そういう考え方が中国で出始めているといいます。
 その際、具体的には、2つのシナリオを中国は準備しているといわれています。
 1つが、中国が北朝鮮に対して軍事行動を起こして、指導者を、金正恩から中国の意のままになる人物、たとえば殺害された金正男の息子ハンソル氏などにすげ変え、北朝鮮を実質支配していくというシナリオです。
 もう1つが、金正恩と、ある種の同盟を結び、北朝鮮に中国が軍事進駐し、同時にアメリカに対しては、「北朝鮮は我々が抑え込んでおくので、黙認しておいてもらいたい」というようなディールを行うというシナリオです。
 実は、この後者のほうがより現実味があるといわれています。というのも、北朝鮮外交において、トランプ大統領に政治的なイデオロギーがあるわけでも、政策論があるわけでもありません。単に北朝鮮というややこしいカードが早く消えてほしいと思っているような人物です。そんなトランプ大統領だからこそ、中国にとってディールがしやすい相手なのです。

 アメリカが軍事行動に出るか、中国が介入して、北朝鮮国内を牛耳るか。どちらの可能性が高いと寺島先生は見ていらっしゃいますか?

  軍事行動に出る場合に、アメリカのやり方としては、相手に「引き金」を引かせること。つまり、アメリカから先制攻撃をすることは避け、相手から攻撃するように仕向け、実際に攻撃を受けたら徹底的に叩くという、やられたらやり返す、いわゆる「カウボーイ・メンタリティー」のシナリオです。
 引き金を引かせる方法として可能性が高いのは、北朝鮮への海上輸送を阻止する海上封鎖を行ない、それを北朝鮮に破らせて、そこで起きたコンフリクト(紛争)を根拠に「自分たちは仕方なく行動した」と軍事行動に踏み切るというもの。
 このシナリオを、今アメリカは着々と準備しているだろうし、こちらのほうが、北朝鮮のミサイルが誤ってアメリカ領のどこかに着弾して戦争に突入していく可能性よりも高いといえます。
 一方の北朝鮮は、アメリカに対して不愉快な大口は叩いていても、逆鱗に触れるようなカードを切ることはせず、今のところ、アメリカに対しては非常に慎重な姿勢です。