インフレは、デフレより望ましい

 現在、日本銀行をはじめとする世界の主要な中央銀行の多くは、概ね「物価上昇率2%」のインフレ目標を掲げています。
 では、そもそもなぜ、世界の中央銀行は「物価上昇率2%」を目指すのでしょうか?
 その主な目的は、「いい経済」を実現するためです。
 「いい経済」を実現するため、デフレよりもややインフレ気味であったほうがいいと、各国の中央銀行は考えているのです。

 物価が下落するデフレ傾向にある時、企業は、輸入原材料や生産費が上昇していても、その分を販売価格に上乗せしづらくなります。そうなると利益が減っていき、利益が減れば、労働者の賃金が上がらないばかりか、人員削減という事態も起こってきます。そうした企業が増えれば、当然、その国の経済も停滞していきます。
 だからこそ中央銀行は、ある程度のインフレを起こして企業の体力を高め、景気を浮揚させ、最終的には国民生活を豊かにするために、「インフレ目標」を掲げているのです。

 たとえば、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は、長い間、2%程度のインフレを目指していたことは周知の事実でしたが、2012年からは正式に2%の目標を掲げています。
 ユーロ圏の中央銀行にあたる欧州中央銀行(ECB)は、1998年に「2%未満」というインフレ目標を掲げましたが、2%を大きく下回るインフレを目指しているという誤解を回避するために、2003年に「2%未満、2%近傍」と、より定義を明確にしました。
 イギリスの中央銀行であるイングランド銀行は、2003年から2%を掲げています。
 日本の中央銀行である日本銀行は、2013年から2%の目標を掲げています。

景気拡大はずっと続かないからこそ、
金融緩和が必要

 実は、各国の中央銀行がこうしたインフレ目標を掲げる主な理由は、「いい経済」を実現するためだけではありません。
 それ以外にも、中央銀行ならではの事情による目的もあります。
 それは、将来の景気後退に備えて、金融緩和政策の「余地」をつくる、という目的です。

 どの国でもいえることですが、景気は常に循環しており、たえず好景気と不景気を繰り返しています。
 その国が、労働者、資本ストック、技術のすべてを使って、安定的に実現できる成長率のことを、「潜在成長率」といいます。景気がこの潜在成長率を上回る時に「景気が拡大している」といい、逆に下回っている時、「景気は後退している」といいます。
 景気循環においては、「景気の拡大」が何年も続いているとすれば、やがて後退に転じていきます。

 たとえば、家計において、エアコンや洗濯機、自動車などは、新しく買ったり、買い替えたりした後、何年間かは使い続けます。そうなれば、人口が増えていかない限り、当然、こうした製品の需要が減っていきます。
 企業においても同じで、景気が拡大している時、多くの企業は自社の生産能力を高めるために設備投資をしますが、十分に生産能力が高まれば、それ以上の設備投資は必要なくなります。そうなれば、設備投資の需要も必然的に減っていきます。

 つまり、たとえある時期は消費や設備投資の需要が高まっても、それが永遠に続くことはなく、いずれ減っていくのです。そうなれば、その国の経済は景気後退の局面を迎えることになります。
 景気は、どんどん拡大し続けることもなければ、逆にどんどん底なしに悪化し続けることもないのです。

 そして、ひとたび景気後退の局面になれば、街には失業者があふれたり、モノやサービスの需要も低迷したりしていきます。そこで、中央銀行としては、できるだけ早くその状況から脱却できるよう、金融緩和政策を実施することになります。
 具体的には、短期の市中金利を引き下げたり、世の中に出回る資金量を増やすなどして、より長めの市中金利を引き下げたり、といった方法です。