金融緩和の長期化がもたらす
「副作用」とは?

 リーマンショックをきっかけにして起こった2008年の世界金融危機以降、アメリカ、ユーロ圏、日本といった先進国・地域の中央銀行は、金融緩和政策を実施してきました。
 具体的には、短期金利の引き下げや、国債などの金融資産の大量買入(いわゆる「量的緩和」)などです。


 金融緩和政策は、金利を下げて景気を刺激することが主な目的ですから、景気拡大の局面に入り、完全雇用を実現したらその役目を終えます。
 その後の金融政策は、徐々に「正常化」へと移行していく、というのが想定される流れです。
 逆に、いつまでも金融緩和を続けてしまうと、さまざまな「副作用」を生じさせるリスクがあります。


 その1つが、市場が自力で機能する力を弱めてしまうことです。
 金融緩和が長引くと、不動産や株価のバブルが生じ、本来だったら格付や信用が低いはずの企業の債券価格も高騰し、市場がその国の経済や企業の実態を反映しなくなります。

 さらに、実際には金融緩和によって一時的に中央銀行からサポートされているにすぎないのに、市場参加者の多くがそのことを忘れ、景気が拡大局面になっても常に「サポートがあるのが当たり前」と思い込んでしまいます。
 その結果、市場では「企業収益がこんなに好調なのだから、もっと株価が上がるはず」という期待が高まったり、逆に株価が下がり始めると「中央銀行が何かしてくれるはず」という発言が飛び交ったりといったことが起こりやすくなります。

 本来、景気拡大の局面に入ったならば、金融緩和政策を縮小していき、あとは民間の経済活動に任せるのが健全な経済のあり方です。
 ところが、金融緩和が長期化することで、市場が自力で機能することが難しくなっていってしまうのです。


 また、財政規律が失われていくことも、副作用の1つです。
 金融緩和政策として中央銀行は国債の大量買入を行っていますが、それは国債市場での買い手が増えることになるため、買入が長く続けば国債価格は高騰していきます。
 国債価格が高騰すれば長期金利は大きく低下しますから、国債の発行元である国は、そのおかげで利払いを減らすことができ、財政に余裕が生まれます。

 本来、中央銀行による大量買入が終わり、さらにその保有している国債を減らす段階が来る前に、国としては財政基盤を整えておく必要があります。たとえば、税制や、国民が不安に感じている社会保障などを改革したり、成長戦略を進めたり、などです。
 ところが、金融緩和が長く続いていると、「中央銀行の国債買入はいつか終わる」という意識も薄れていき、政府内において「経済や市場がこんなに好調なのだから、無理して財政改革をする必要はない」という雰囲気が強まっていきます。
 そうなれば、改革への機運は弱まり、財政規律が失われていきかねないのです。

いち早く正常化に舵を切った、
アメリカFRB

 金融緩和政策のこうした副作用について、各国・地域の中央銀行は理解しています。
 だからこそ、景気回復が見えてくると、多くの中央銀行が「正常化」の時期を探っていくようになります。
 アメリカではいち早く景気拡大の局面に入ったこともあり、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)では、2014年頃から明確に正常化に向かって動き始めました。
 その年の10月には資産買入を停止。2015年12月以降、5回の利上げを行い、2017年10月からは資産を減らし始めています。

 ユーロ圏でも、2014年から景気が回復局面に入り、2017年には2.5%という高い成長率を実現。雇用も改善しつつあることから、ユーロ圏の中央銀行にあたるECB(欧州中央銀行)は、「慌てずゆっくりであれば、経済でのダメージは少ない」と判断し、昨年2017年からいよいよ正常化に向けて動き出しました。
 まず2017年4月に、毎月の資産買入額を800億ユーロから600億ユーロに減額。2018年1月からは、さらにその半分の300億ユーロにまで減らしています。