黒田総裁が再任された
理由とは?

 黒田東彦氏の総裁再任が決まり、3月末に2人の副総裁も就任し、日本銀行では新体制がスタートします。
 今回の総裁人事では、黒田氏再任か否かさまざまな憶測が飛び交いましたが、私自身は、今の安倍政権にとって「再任」以外に選択肢はあまりないのではと考えていました。

 というのも、黒田氏が再任されないとなると、日銀がこの5年間続けてきた「異次元緩和」と呼ばれる大胆な金融緩和政策が、「失敗だった」と政府が認めたと受け取られかねないからです。


 2013年1月に、首相に就任したばかりの安倍政権の下で、政府と日本銀行は共同声明を発表し、そこに、物価安定目標として「2%の物価上昇率」を明確に掲げました。そして、その実現のため、その年の3月、かねてより「日銀の金融緩和は足りない」と批判していた黒田氏を日銀総裁に任命。その黒田氏の下で「異次元緩和」が導入されました。
 黒田氏は総裁になる以前から、「2%の物価安定目標を2年程度で実現できる」と言い切っており、そのための秘策が「異次元緩和」でした。


 ところが、導入から2年たってもその目標の実現は見えず、それどころか、安倍政権は2015年9月に、「2020年頃までに名目国内総生産(名目GDP)を600兆円程度まで増やす」という新たな目標を掲げます。これは名目GDPの上昇率を毎年3%以上にしないと達成が難しく、それには2%の物価上昇率が欠かせません。
 安倍政権にとって2%の物価安定目標の実現はますます必須のものとなり、その後も異次元緩和は継続されます。

「異次元緩和」の成果が問われた
日銀総裁人事

 そして、その結果、どうなったかというと、現在の物価上昇率(食料・エネルギーなどを除く)は0.1%(2018年1月現在)。導入から5年たった今も、2%達成にはほど遠い状態なのです。
 この状況でもし黒田氏ではない別の人を総裁に任命してしまえば、安倍政権が「黒田氏の下での異次元緩和は失敗だった」と暗に認めることになりかねません。そうなれば、国会やメディアの論評を通じて、安倍政権は黒田総裁の任命責任も含めて、これまでの金融緩和政策の責任を厳しく追及される可能性があります。

 一方、黒田氏を再任すれば、安倍政権としては、「まだ物価上昇率2%こそ実現できていないが、経済は各段によくなっている。企業収益もよく、株価も2万円を超えている。雇用もよい。だからこそ、今後も金融緩和策を粘り強く続けるのが重要だ」という説明ができます。
 また、原油価格や円安による輸入価格の上昇で、現在、一見すると物価が上昇しており、物価上昇率(総合)は1.4%に達しています(2018年1月現在)。それを根拠に「物価は上昇傾向にあり、今後、もっと上がっていくだろう」と主張することもできます(ただし、この数値には食料・エネルギーなども含まれており、本来の意味で物価が上昇しているわけではありません)。