龍のモチーフは、中国陶磁ほど多くはないが、高麗青磁でもみられるもので、韓国全羅南道康津郡の窯址からは陰刻線で見事に龍文が彫られた大きな瓶の青磁片が発見されているし、全羅北道扶安郡の窯場でも象嵌の龍文をもつ破片が採集されている。

 後者に関しては、破片をつなぎ合わせ、ない部分を粘土で補って復元したものがソウルの梨花女子大学校博物館にある。一昨年(2010年)、同女子大創立124周年記念の「文化リーダー 梨花」展に2点が出品されていた。それぞれ復元高85センチ、86センチという巨大な瓶で、高麗青磁としては最大級である。波涛のなかで身をよじる龍は、欠失があって全体像が定かではないが、三爪のようである。

 波涛と龍を組み合わせた図柄は、中国では元青花(染付)によくみられる文様構成で、明代以降に継承される。陶磁器のサイズが大形化するのも元代にいちじるしい。これらの梨花女子大学校博物館の瓶は、13〜14世紀のものと推定され、元から明へという時代に対応する。元のやきものの影響が、高麗のこの巨大な龍文瓶に表われているのではないかと考えている。

 やはりソウルの韓国国立中央博物館には、粉青沙器の堂々たる龍文壺が独立ケースに展示されている。15世紀のもので、右の龍の子孫と推定できなくもない。

 粉青沙器というのは粉粧灰青沙器の略称で、さらに粉青(プンチョン)と縮めて呼ばれることもある。この名称は1941年ころに高裕燮さんという開城で博物館長をされた方が提唱したもので、日本人が「三島」といってきた朝鮮王朝前期のやきものを指す。粉粧というのは白化粧と同じこと、灰青は色、沙器は磁器ないし磁器に近い硬めのやきものをいう。素地の上に白土を溶いた泥漿で下地を白くしておいて透明釉をかけたやきもの、といった意味である。白化粧を施さない朝鮮王朝初期の象嵌青磁も含めることが多いから、厳密には語義と実態が合わないこともあるが、日本でも韓国でも、この語は常用されている。

 ことばの説明が長くなったが、この粉青沙器龍文壺も龍や胴裾の蓮弁文その他、元青花と共通する要素で文様構成がなされている。元の文様を受け継いだ明代中国磁器の影響ではなかろうかと推定している。ちなみに、この龍は四爪である。

 十二支獣のなかで実在しないのは龍だけだと前に書いたが、龍はかつて実在していて滅んでしまったのだろうか?
ジョン・アシュトンというイギリス人が先人の記録を調べて1890年に書いた本によると、かつてイギリスにはワームという翼龍が存在していて、ヨーロッパの北方地方ではイギリスよりもはるか後まで生存したようだ、という。同じイギリスのE・M・フォースターは、「龍がいなくなり、騎士が立ち去ってもなお、レディーは生きつづけている。ヴィクトリア朝には、彼女は幾多の城のなかで勢力を揮い、幾多の詩歌のなかで女王と崇められた」と20世紀のはじめに書いた。龍よりも騎士よりも、レディはながく生きてきた生物であるようだが、イギリスでも最近は絶滅危惧種とまではいかないにしても、少数になりつつあるのではなかろうか。

 龍といえば、恐龍が近縁のように思われるが、1980年ころまでは西アフリカで草食恐竜が目撃されていたという話があり、シカゴ大学の教授が探検隊を組織して調べに行った。この人は、一時騒がれたネス湖の怪獣ネッシーもネッシンに探したことがあるロイ・P・マッカルという研究者で、書いていることはマッカなウソではない。結局、恐龍発見には至らなかったそうだ。残念!

 スペインでも超巨大な龍だかヘビだかが出現したという話を読んだ記憶があるが、詳細を憶えていない。異端審問がさかんだったころだというから、そう遠い昔のことではない。

 東洋の龍には翼のない種が多いようだが、明代の五彩には翼龍の絵があるし、江戸時代の建築の格天井には極彩色の翼龍がよくみられ、日本の色絵にもある。しかし、どこでみたのか記憶が定かでない。以下は不鮮明なわが頭脳に関する言い訳で、やきものには関係がありません。

 人間の脳の表面は大脳皮質で覆われていて、その下に大脳辺縁系という、進化論的にいえば大脳皮質が発達する以前に進化した場所があり、さらにその下にはR複合体といわれる部分がある。Rというのは爬虫類Reptiliaの頭文字で、爬虫類段階までに進化した部位ということである。個体の発生過程は種の進化をなぞる、と高校の生物の授業で習った程度で、私自身は自分の脳も人さまの脳も断ち割ってみたことはありませんから、これは人が書いていることの受け売りです。この三層になった脳の中間、辺縁系のなかに海馬という器官があって、これが記憶の固定に大きな役割を演じている。ところが、年をとってくると、ここへの血流が悪くなって、情報の蓄積だの伝達機能が衰えてくるそうである。老生の脳内で、今まさに起こっていることがこれに違いない。

 ちなみに、海馬というのはhippocampusの日本語訳であるが、これはギリシア神話に出てくるウマとサカナないしヘビが合体した怪獣で、海神の乗り物をひく役目を与えられている。器官の形状からこのように命名されたらしい。英語ではseahorse、すなわちタツノオトシゴである。

 以上、龍のお話でした。

【参考文献】
ジョン・アシュトン(高橋宣勝訳)『奇怪動物百科』ハヤカワノンフィクション文庫、2005
E・M・フォースター(西崎憲/中島朋子訳)『眺めのいい部屋』ちくま文庫、2001
ロイ・P・マッカル(南山宏訳)『幻の恐竜を見た』二見書房、1989