東日本大震災で、日本の展覧会も大きな影響を受けた。海外からの出品が取りやめになり、展覧会の企画そのものを中止せざるをえなくなった例もあるし、展示計画の変更や節電のために展示時間を短縮した施設も少なくない。
「来場者がかなり減りました」という声を複数の美術館・博物館関係者から聞いた。甚大な人的・物的被害が発生し、なお多くの被災者が苦しんでいるときに、のんきに展覧会見学をする心境になれないのは無理からぬことである。しかし、外野からの印象ではあるが、最近ようやく展覧会をめぐる事情も正常に戻りつつあるように感じている。少なくとも東京周辺ではそんな感じを受け、少しほっとしています。

○三井記念美術館 日本橋架橋百年記念特別展

『日本美術にみる「橋」ものがたり―天橋立から日本橋まで―』

 東京の日本橋(地名)の日本橋(橋そのもの)が石造になって今年で100年なのだそうだ。

 今回の展覧会の内容は、長いタイトルの後半に謳われているが、時空をまたいだ橋を含む多面的な「橋づくし」で、いろいろなジャンルの作品で構成されている。どう多面的かというと、絵画による天界・浄土と現世、聖と俗、名所と物語に出てくる橋、工芸にデザインとしていかされた橋、浮世絵その他による諸国の橋、それにお膝元の江戸の橋といった縦横いろいろな橋がつぎつぎに目に入ってくる仕組みになっているのである。

 老生は、走り見ながらすでに2度行きましたが、一面ずつくらいしか頭に入っていないので、会期中にあと2度は行かねばならないと思っています。たいていの人は私ほどヒマではないでしょうから、お行きになった節はじっくりとみていただきたい。絵画あり、漆器あり、やきものあり、金工品ありで、もりだくさんな展覧会です。

 雪舟筆「天橋立図」(室町時代、国宝、京都国立博物館蔵)を久しぶりに拝見できたのは眼福だったが、7月21日までの展示で、この稿が読者の目にとまるときは展示されていない。残念! 期間中、かなり多くの出品作が入れ替わるので、少し間をおいて行けば、そのたびに楽しめる仕掛けと解しておきましょう。8月30日から9月4日の間には本阿弥光悦作「舟橋蒔絵硯箱」(江戸時代、国宝、東京国立博物館)が出る予定の由である。

○出光美術館『明・清陶磁の名品―官窯の洗練、民窯の創造』

 こちらは出光美術館の館蔵品による展示である。これまで何度か展示で拝見した作品も多く含まれているが、何度見てもそのたびに発見がある。こちらの理解力や記憶力が不足していることを棚にあげていえば、いい小説や映画と同様、美術品もこれで「全部わかった」とか「観きった」ということはないのではなかろうか。

 白磁、青花(染付)、色釉、五彩、素三彩、豆彩、粉彩と、明・清時代の中国陶磁の特色である技巧を凝らした色彩豊かな世界が会場に展開しているが、今の私には青花が面白かった。

 図録の表紙にも使われている「宣徳年製」銘のある「青花龍文壺」は明前期の景徳鎮(江西省)官窯製品らしい勇渾な作品で、おおいにみごたえがありました。図録の解説によると、1970年ころまでタイ、バンコックのコレクションにあったもので、明朝の朝貢国であったシャム国(タイ)へ回賜された可能性があるという。この話も興味ぶかい。

 青花ということでは、清朝官窯の明代青花の倣古作などは、これまであまりまじめにみてこなかったが、その徹底したていねいな作りにはみるべきものがあって、景徳鎮が1000年にわたって磨いてきた技法的達成をよく示している。

 展示品のほとんどは、彩色のあるものも白磁素地である。それだけに展示会場には一種の清涼感が漂う。暑気のなか、目から涼しさを感じるのもいいのではないでしょうか。