安宅産業、といっても、知らない人が多くなっているかもしれない。この会社が倒産したのは30年以上も前のことになる。当時は、名門商社の倒産ということで社会的にも大きな事件だった。松本清張さんが、この倒産劇に着想を得て小説化したのが『空の城』という作品(現在、文庫本にもなっている)で、テレビドラマにもなり、夏目雅子さんが出演して、その美しさが話題となったものである。

 このとき、「安宅コレクション」として知られていた優れた美術品群の行方がどうなるのかも、その評価額とともに当時の多くの人たちの関心事だった。結果的に、住友グループの英断で散逸を免れ、このコレクションを展示主体とする大阪市立東洋陶磁美術館の開設(1982年のことで、ちょうど30年前である)に至ったのは幸いであった。

 大阪でこの美術館がオープンする少し前、東京日本橋の高島屋百貨店で「安宅コレクション展」が開かれたことがある。そのとき、上階の会場から何階もの階段を経て、通りにまで観客の列があふれたことをいまも思い出す。東京で、まとめてその優品が見られるのは最後かもしれないという思いが、その列に並んだ人びとの胸中にはあったに違いない。人にそう感じさせるだけの質の高さと魅力が安宅コレクションにはあったのだ。

 現在の東洋陶磁美術館は、安宅産業の遺産を継承しつつ、その後の購入や寄贈によって、質量ともにその枠を超えるものになっているが、依然、中核をなすのが安宅コレクションであることは大方の認めるところだろう。

 前置きが長くなったが、今回の展覧会はいわば、そんな成長した安宅コレクションの東京披露である。ほとんどが中国各代、高麗、朝鮮(李朝)の陶磁器であるが、若干日本陶磁も含まれている。中国南宋のまぶしいばかりの油滴天目茶碗[国宝]、元の青と褐色の対比が鮮やかな飛青磁花生[国宝]や発色豊かな青花(染付)磁器、可愛らしい高麗青磁彫刻童女形水滴[重要美術品]、朝鮮の自在な精神がうかがわれる粉青祭器などを含む140件ほどの展示品の美質や面白さは、実際に会場に足を運んで見ていただくほかないが、ここでは安宅コレクション以外の寄贈による収集品のひとつである「青磁象嵌雲鶴文碗」(高麗時代)を紹介しておこう。外側からみれば無文の青磁だが、内面に3羽の鶴が白黒の象嵌で反時計まわりに描かれ、その間に瑞雲が白象嵌で配されている。しっとりとムラなく焼き上がり、文様も動きを抑え、鶴と雲がゆっくりと回転しているように見える。端整な作振りでありながら、堅さは感じられず、おっとりした品が漂い、数ある雲鶴文の高麗青磁のなかの逸品といい得るものである。

 東洋陶磁美術館に行きたいと思いつつも、大阪まで出かけるのはなあ……という知人は多い。関係者によると、あと30年はこれほど大量に貸出はしないという。東京とその周辺の方は、この機会にお出かけあって、しばし東洋陶磁の魅力にひたっていただきたい。