4月ともなると、いい展覧会が目白押しである。昨年の大震災後の開催中止や運営自粛を思うと、東北・関東北部ではなお復興というに遠いが、その他の地域での展覧会活動は旧に復しつつあるということだろう。とりあえず東京だけでも―
 東京国立博物館「ボストン美術館 日本美術の至宝」展(〜6月10日)
 国立新美術館「セザンヌ パリとプロヴァンス」展(〜6月11日)
 三井記念美術館「ホノルル美術館所蔵『北斎展』」(〜6月17日)
 Bunkamuraザ・ミュージアム「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想」展(6月10日)など、海外の作品をもってきた展覧会には、この際行っておきたいものであるが、まだ果たしていない。

 自館の所蔵品による展示であるが、静嘉堂文庫美術館の「東洋絵画の精華―名品でたどる美の軌跡―」展(〜6月24日)は拝見。保存状態のきわめて良好な作品が並んでいて、大いに目の保養になった。「平治物語絵巻 信西巻」(重文、13世紀)や「四条河原遊楽図屏風」(重文、17世紀)は細部の面白さに満ちているので、改めてみに行くつもりである。渡辺崋山の「芸妓図」、「遊魚図」(ともに重文、19世紀)にはひさしぶりに対面いたしました。

 今回紹介したいのは、上記のような展覧会とはかなり趣の違うものである。タイトルそのものがむずかしい。「アルケオメトリア」とは考古学計測といった意味らしいが、そういわれても中身がよくわからない。そのために長い副題がついている。病院でレントゲンやCTスキャンなどによって、病歴やら身体のなかの状態を調べるようなものかな、といいかげんな見当をつけて入館する。

 とりあえずいっておくと、入場は無料です。韓国では国立の美術館、博物館は原則無料であるが、日本の場合、多くの国立施設が採算性を問われる時代になっている。平常展示くらいはなんとかならないものかと思うし、日本の現在の文化行政にはときにうすら寒いものを感じる。

 さて館内の展示室に入ると、棚に頭骸骨がいっぱい並んでいる。ただし最近のものではなく、われわれの遠い先祖たちである。今回は素通りして奥の部屋に進むと、縄文時代の火焔土器が目に入る。ここからがアルケオメトリアの世界である。土器その他を鑑賞するだけでもいいのだが、この展示ではパネルが重要で、おおざっぱでもそれらをみなければ趣旨がわからない。お粗末なわが理解でいうと、考古遺物・美術品の年代や技法を確定するのに、いわゆる鑑定眼のようなものではなく、理化学的方法を適用したらどうわかるか、ということのようである。

 老生のような陶磁史を研究している者からすると、放射性炭素による年代測定は、自分ではやれないが、まあ身近な問題で、この展覧会でもそのことがまず展示・説明されていた。昨年の大震災以来、放射性セシウムなどが問題になって、半減期ということばもずいぶん一般化したようだが、炭素同位体の半減期を利用する年代測定法があって、遺跡や遺物に残る炭素14という物質により年代が推定できる。また窒素にも同位体があって、これを測ることによって古代人の利用した食糧資源などを推定することができるのだそうだ。

 X線CTによる美術品の材料分析や技術分析もおおいに進歩しているようで、漆器や土器や染織品の研究に適用した例が示されていた。

 館内に置いてある「Ouroboros」(これまた意味がよくわからない)というこの博物館の情報冊子があって、これまた無料のようなので、この展覧会を特集したVolume16, Number3(とにかく横文字とかカタカナが多いのです)をもらってきて、帰りの地下鉄車内でパラパラめくってみた。そこに宮尾亨さん(新潟県立歴史博物館)の「巧妙な修復」という文章が載っていて、おもしろかった。2004年の新潟県中越地震の際に壊れた縄文土器の修復過程で、東京大学総合研究博物館のマイクロフォーカスX線CT装置を使って断層撮影をした結果、この土器は、上部と下部で別物が接合されていたことがわかった、という話である。これは正規の発掘調査で出土したものではなく、過去の購入品だったそうだが、精密な科学的方法で遺物を透視した結果の実例としてわかりやすかった。

 それにしても、最近の研究方法はお金がかかる。アインシュタイン夫妻がアメリカの大天文台に招待されたときのエピソードが思い浮かぶ。さまざまな設備を見学して、奥方がいったことば。

 「うちの主人なんか手紙の封筒の裏を使って研究しているのですよ」