プライスさんの奥様の悦子さんが語っている。東日本大震災をアメリカのご自宅でテレビを通じて知ってから、東北のニュースを「一カ月ずっと見ていた」と。募金運動が始まると、それにも参加されたが、いつも「お金だけ向こうに送って」それでいいのかと考えておられたという。以下、図録に掲載されているインタビューから抜粋引用させていただく。

 「……震災後二週間目ぐらいだったと思いますが、泥まみれになった背の低い梅の花がテレビの画面にパッと出てきたのです。色といい、すごく美しい。よくこういう状態で梅の花が咲いたなと思って、私は衝撃を受けたのです。(中略)そのときに、やはり募金活動だけではだめだ。美術品を東北の人に見せてあげたい。美しいものを東北の人に見せてあげたいと思ったのです。」

 コレクターであるご主人のジョー・プライスさんももちろん賛同されて実現したのが今回の展覧会だ。

 大震災の直後、海外からの出品を予定していた展覧会がいくつか中止になったと聞く。公的な美術館・博物館の作品を外に出す場合、作品が傷つくかもしれないという危惧は当事者につねにつきまとう。大地震と津波、原発事故、いまも続く余震となれば、日本、ことに東北地方への出品に展覧会関係者が二の足を踏んだとしても無理はない。プライベート・コレクションの場合、公的施設の作品群とは事情が違うが、所蔵品への愛着は個人収集家のほうが強いことが多いから、プライスさんのこの展覧会開催の決断はだれにでもできるものではない。「若冲が来てくれました」は「プライスコレクションが来てくれました」であり、「プライス夫妻の心が来てくれました」でもある。

 展示の目玉はなんといっても伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風」(六曲一双)だ。花木が取り巻く屏風絵の、右隻には白象とトラ、ヒョウ、クマ、ハリネズミ、サルなど、左隻には羽を広げる鳳凰にツル、ニワトリ、水鳥たち、オウムなどが配されるが、タイトルと画中の動植物の名だけでは、この絵のユニークさを少しでも想像することはできない。若冲の発想と表現は直接みてもらうしかない。文章や音楽とは違う絵画ならではの表現、そして在来の絵画にない表現がそこにはあるからだ。

 大画面を細かな方眼でマス目に区切り、あたかもタペストリーのような効果を出した画法は西陣織の下絵にヒントを得たものだろうともいうが、タイルで構成した壁面のようでもあり、いま風にいえば、ひとつひとつのマス目がデジタルカメラのレンズのようにもみえてくる。自在な発想をもつ市井の画家の、まことに華やかで楽しい絵である。イキモノが相接して共存するパラダイス的世界をながめていると、この絵の出品に籠められたプライスご夫妻の東北復興への願いが実感される。

 若冲の作品では、「虎図」も楽しい。朝鮮民画を思わせる足をなめているトラの顔がユーモラスである。若冲お得意のニワトリを主題にした「紫陽花双鶏図」、墨色を生かした「花鳥人物図屏風」などなど、魅力ある作品が並ぶ。

 展示は若冲に尽きるわけではない。円山応挙と長沢芦雪のトラが競演し、浮世絵の美人が研を競う。「源氏物語」や「酒呑童子」などの物語絵、春夏秋冬の日本風情も展示のテーマである。

 総じて大人も子どもたちも、日本美術をみる楽しさを味わってもらいたいという主催者の気持ちが伺われる展示になっている。ことに子どもたちにみてほしい、という思いは、図録見開きに並べられた元気な子どもたちの写真にも表れている。

 この展覧会、仙台のあと、盛岡、福島へと巡回して9月まで続く。みに行ける方はぜひ行っていただきたい。お子さんのある人はごいっしょに。そして余裕のある向きは図録(2625円)も買っていただきたい。プライスさんご自身による、若冲との出会い、プライスコレクションを東京国立博物館で里帰り展示したときの思い出などを綴った文章は、短文ながらすばらしい。はじめに引用したインタビューも感動的な挿話に満ちている。

 江戸時代の美術を通して、プライス夫妻の心の美しさをもみせてもらいました。ありがとうございました。