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抜くな、閉めるな、金出すな

第5回「抜くな、閉めるな、金出すな」メインイラスト

寝る前にコンセントを抜く、というのはいきなり始まりました。コンセントというかプラグですね、家電の。
確かに母はしっかり者の倹約家でしたが、さすがにボケるまで、ありとあらゆる家電のプラグを引っこ抜いて節電するなんてことはしなかった。
ある晩、「ゆーいち、抜くぞ。手伝え」(笑)みたいに始まって、家中を探し回って抜いていましたもんね。
母の主張としては、「電気を無駄にするな」とか「火事にならないように」だったのかもしれませんが、理由はわからない。抜いたら抜きっぱなしで、差し込み直すということはしなかった。謎の行動です(笑)。
認知症になったからとしか言いようがないですね。

それでもはじめの頃は、冷蔵庫は抜いていなかったんです。
それが漫画にも描いたように、朝起きると「冷蔵庫がしかぶる(漏らす)」ようになった。つまり、冷蔵庫のプラグも抜き始めたから、紙に「抜くな」と書いてプラグに貼るようにしたんです。これを家中のプラグにしました。注意を促すラブレターです(笑)。

でも、後から聞いたところによると、この絵づらは認知症の親御さんがいる家庭ではよくある光景らしいですよ。至るところに貼り紙するというのは。
母の場合は、そうやっておくと「抜いてはいけないんだ」ということはわかったらしく、抜かないようになりました。ただ、ものすごく腹を立てていましたけど。「親に命令すっとはなんね!」みたいに(笑)。

そういえばこの前、冷凍庫を開けたら、奥のほうから「開けっ放しにするな」と書いた紙が発掘されました(笑)。そういう事もありましたね。「抜くな」から始まって、いろんな貼り紙が家の中に少しずつ増えていった感じです。
「閉めるな」という貼り紙もしました。これは、家中の鍵を閉めまくる、ということを始めたからです。
母としては「泥棒が来ないように」だったのかな。用心深くていいことなんですけど、僕や息子はよく鍵を忘れて家を出ちゃうんですよ。すると、帰って来た時にどこからも入れない。締め出された。

唯一開いているのが風呂場の窓で、息子はそこから上がり込んだりしていたんですけど、はたから見たら不審者か(笑)。
そこで玄関の戸の内側に、「鍵を閉めるな」という貼り紙をしていました。

そして、これは貼り紙の話とは違いますが、「人が来ても金を払うな」というのはよく母に言いました。後で書きますが、悪徳業者につけこまれてちょこちょこお金をだまし盗られていたんです。だから母の財布には大金を入れないようにして、業者が来ても払わないようにと注意しましたけど。
こうして振り返ってみると母の言ったとおり、「命令」が多かったな(笑)。母ちゃん、ごめんね。