6

おたくのお母さん、汚れてきたね

第6回「おたくのお母さん、汚れてきたね」メインイラスト

母は、台所ができなくなったり、トイレがあやしくなったりしても、玄関先を掃くとか、人が訪ねてきたら応対するといった、それまで習慣的にやっていたことは普通にしていたんです。家の前で、近所のおばちゃんと立ち話もしていたし。

ただ、皆さんは母がおかしくなっていくのに気づいていたと思うんですけど、僕には気を遣って、「おたくのお母さん、かなりボケてるから気をつけてよ」みたいにズバッとは言わなかった。その代わり、今思えば婉曲に教えてくれていたんですね。ガス漏れさせて警報器が鳴った時も、「火事がいちばん怖かとですよ」とか。

そして、身なりに関して言われたのが、「おたくのお母さん、なんか、汚れてきたね」でした。

お年寄りって、暑い季節になるとムームーっていうんですか、アッパッパですか、簡易版ワンピースみたいな服が好きですよね、母も何着も持っていました。

何着もあるのに、着替えなくなるんです。寝ても覚めても同じ服で、そうすると次第に茶色くなるんですね(笑)。薄汚れていく。
母のことを汚いと言われてムッとしましたけど、教えてくれたほうはよっぽどのことだったと思います。あらためて見ると本当にそうなので、母には「洗濯するから」とか言って、着替えを促しました。僕がムームーの裾を引っ張り上げて剥(む)く、毎回「スケベ!」って叫ばれながら(笑)。それでもやりましたけど。

同様に、パンツのことも不思議でした。トイレで拭いた形跡がない、でも臭わない。パンツに便がついていたらもっと臭うはずだと、僕は思っていたんです。でも、最初の頃は想像以上に臭わなかったから、「拭いて!」と注意しながらも、どうしているんだろうとは思っていました。

そんなある日です。いよいよ臭うようになってきた、これはパンツも履き替えさせなければと思って、母のタンスの引き出しを開けたのは。

開けた途端に、もわ〜ッと臭いました。手前には洗濯済みのパンツ(ちなみに洗濯は長崎に帰ってから僕が担当していました。息子の分もあったので)、奥のほうに丸めて縮めて詰め込まれていたのが、使用済みパンツだったわけです。「母ちゃん、これ何ね!?」と聞きましたけど、この時も母は、「のぞくな、スケベ」みたいに言うだけで意に介さない。

今にして思えば認知症が進んで、そんなところに自分が汚れたパンツを隠したことすら、母の記憶にはなかったのかもしれない。だから、一緒に引き出しを見たけど、なんでそんなもの見せられるのか、わからなかったんじゃないかな。そして、そんなふうにパンツを隠さなければならないほど、困っているのは確かだったんです。困っている人に「こらっ」って言えないですよ。

汚れたパンツを隠す。これは完全に病気だと思いました。それでも「認知症」という言葉が生まれたばかりで、今みたににデイケアやデイサービスの車が朝な夕な路地路地まで入ってくる時代ではなかったし、老人ホームのような施設に親を入れることは考えなかった。僕ら団塊世代はそういう世代なんです。