装丁イメージ
【バナー】逆説の日本史 コミック版
英語版「逆説の世界史」へ
第四章|多神教文明の興亡

第1話|ギリシア文明とは何か
26 最高神ゼウスに捧げる祭りの行事「オリンピック」
【写真】連載イメージ
最高神ゼウス生誕の地とされる大鍾乳洞ディクテオン。クレタ島のディクティ山の中腹にある洞窟は約2200uの広さ。最深部には神々しさを放つ小さな池がある。

【最大の英雄ヘラクレス】(承前)

アトラスの悪意を見抜いたヘラクレスは言った。「慣れていなくて天空をうまく担げない。手本を見せてほしい」。思慮の足りないアトラスが承知して交替したところを、ヘラクレスはさっさと林檎を持って立ち去った。


〈その12〉地獄の番犬ケルベロスの生け捕り

ケルベロス(Cerberus)は3つの頭を持つ巨大な猛犬で、冥界の入り口を守っていた。ヘラクレスは冥界の神ハデスに「殺さずに生け捕りにする」と約束し、見事素手でケルベロスを生け捕りにした。真っ暗な冥界から外に出されたケルベロスは、初めて太陽の光を浴びて苦しみのあまり涎を垂らした。その涎はトリカブト(紫の花を咲かせるが、特に根は毒矢にも使われる猛毒がある)になったという。


こうしてヘラクレスはエウリステウス王に課せられた12の功業(10の難業+ノーカウントの2つ)をすべてこなしたわけだが、その後、平穏な生涯を送ったわけではなかった。今でも避けようと思えば避けられる苦難に立ち向かうことを「ヘラクレスの選択」と言うが、まさに彼の生涯はこの言葉そのものであった。

ポセイドンとガイアの息子に乱暴者のアンタイオス(Antaeus)がいた。彼は旅人を殺すなどの暴虐を重ねたので、ヘラクレスは一騎討ちを挑んだが、大地の女神ガイアの息子であるアンタイオスは地に足をつけている限り無限の力を発揮し、ヘラクレスを苦しめた。そこでヘラクレスは彼の身体を担ぎあげて自分の頭上で絞め殺した。

また、ギリシア神話の集大成とも言える「アルゴナウタイ(Argonaut アルゴ号の乗組員)の冒険航海」でもヘラクレスは大活躍するのだが、興味のある方は「ギリシア神話」の専門書に進んでいただきたい。この「逆説の世界史」は世界史のアウトラインを語るのが目的だからだ。

しかし、それでもヘラクレスに多くの記述を費やしたのは、このギリシア神話最大の英雄の事績が後世の西洋文化に大きな影響を与えているからだ。

ヘラクレスの死は悲劇的なものだった。ヘラの乳を飲んだ彼は不死のはずである。それなのに何故死んだかといえば、彼が退治したヒドラの血を塗った服を着せられ、その猛毒のもたらす激痛に耐えかねて自らの肉体を焼き滅ぼしたからだ。

なぜヘラクレスがそんな服を着るはめに陥ったかについても面白いエピソードがあるのだが、ここでは省略する。

どうもギリシア神話というのは女性をパンドラ(地上最初の女)のような愚かで不幸をもたらすものだと考えているふしがある。

悲劇的な死を遂げたヘラクレスだが、その死によって罪は浄化され天上でよみがえり、いまは神の世界であるオリンポスの山上で父なる神ゼウスの横に座を与えられたという。まるでイエスとヤハウェの関係のようだが、時系列的に言えば、ヘラクレスの方がイエスより先であることは言うまでもない。

そして、もう1つ、極めて重要なことだが、ヘラクレスは古代オリンピックの創始者だという伝説がある。12の功業のうちの「家畜小屋の清掃」に悪役として登場したアウゲイアスはエーリス王だった。

後に、ヘラクレスはこの王と戦い、ようやくエーリスの攻略に成功した時、それを記念して近くのオリンピアにゼウスの神殿を建て、その地で競技会を始めた。それが後に四年に一度開催されるようになり、オリンピア大祭(オリンピック)として定着したというのだ。

実はこれには異説もあり、伝説の英雄アキレウス(Achilles)が創始者だとも言われているが、とにかく共通しているのは競技会としての古代オリンピックの起源は、ゼウスを讃える祭りの行事として始まったと伝えられていることだ。

そして歴史上の事実としては、その後、ギリシア全土でポリス同士の戦争が続き、疫病も蔓延し、このままでは共倒れとなるような状況となった。