だれでもカンタンに楽しめる「デコぬりえ」

いまやぬりえは大人のエンターテインメント

「ぬりえは子どもが遊ぶもの」
こんなふうにぬりえの世界を決めつける人は、もはやいないのではないでしょうか。
 そう、ここ10年ほどの間に大人用のぬりえ本が次々と発刊され、ぬりえは子どもの遊び道具から進化。年齢に関係なく楽しめるエンターテインメントの仲間入りを果たしたといえます。ネットショッピングや画材店をチェックしてみると、大人がぬりえをするための道具として、高価な色鉛筆も販売されています。
 ぬりえの面白さ、奥深さに気づく大人が増加する一方、近年のぬりえブームが「きいちのぬりえ」復刻に始まったと知る人は意外に少ないようです。
 昭和のぬりえブームを巻き起こした「きいち」こと蔦谷喜一の作品と生涯をまとめた書籍『わたしのきいち』が小学館から発行されたのは今から15年ほど前のこと。きいちファンは、若い人でもすでに30代後半になっていましたが、大人たちに改めてぬりえの醍醐味を味わってほしいという思いを込めて、この本にぬりえをつけたのです。
 出版に当たり、コラムニストの中野翠さんとイラストレーターの湯村タラさんは、執筆やインタビューを引き受けてくださっただけでなく、自らぬったぬりえまで披露してくれました。
 ABがそのときのもので、中野さんは大人になってからのぬりえ体験について、「のめりこんでしまう。私は完璧に巨顔太脚少女の心になっていた」と記しています。
 そして、『わたしのきいち』を購入してくれた多くの読者からも、「久々のぬりえ、童心に戻って夢中になった」との感想が寄せられました。
 中野さんや湯村さんこそ、大人のぬりえ体験者の先駆け的存在。
 近年の大人のぬりえブームは、実はそこからスタートした――ということもできるのではないでしょうか。

次に注目すべきは新感覚の「デコぬりえ」

 大判シリーズが14冊、A5サイズの『THE きいちのぬりえBOOK』が3冊、これまでに合計17冊の復刻版「きいちのぬりえ」が出版できたのは、ぬりえ文化の検証と収集に努めてこられた「ぬりえ美術館」館長・金子マサさんの協力があってこそですが、個人的なコレクションを貸してくださったきいちファンも少なくありませんでした。
 貴重なコレクションを見せていただくと、子どもの頃にぬったもの、ぬらずに大切にとっておいたものなど、長い時を経た“宝物”の保存状態はさまざまでした。
 はみ出しもおかまいなしにクレヨンで力強くぬられたものがあるかと思えば、黒やグレーを効果的に使った大人びたタッチのもの、もちろん、誰もが用いるテクニック――色濃く縁どりして内側を薄い色でぬるという方法を駆使した作品もありました。
 しかし、どんなに独創的な発想の持ち主であっても、“ぬりえはぬるもの”と決めていて、無地のスカートに大好きな花模様を描き入れても、ドレス姿の少女絵の背景にお城を描き加えても、仕上げはやはり「ぬる」以外にはありませんでした。無地のスカートに花模様のフエルトやピンクのりぼんをはりつけたらどんなに素敵だったでしょう。描き加えたお城の窓にレースをはったら、まるでカーテンが揺れているように見えたに違いありません。
 でも、昭和の少女たちに、そういう発想はありませんでしたし、たとえあったとしても、手芸の道具をぬりえに使う“ぜいたく”は許されなかったかもしれませんね。
 ぬりえにレースやりぼんなどをはると、グンとレベルアップした出来栄えになることを知ったのは、昨年末のことでした。ぬりえ美術館で開かれている「大人のぬりえサロン」に参加してみると、参加者のみなさん、彩色した上にラメの入ったのり絵の具やスパンコールをはってキラキラ感を出し、また、フワフワした羽や布製のボンボンなどをはりつけて立体的に仕上げていました。そうするのが、まるで当たり前のように……。
 ぬりえの世界の進化を知り、本当に驚いた瞬間でした。
 このデコレーションぶりはただことではありません。デコばやりの現代の最先端を進んでいる。これぞデコレーションぬりえ、「デコぬりえ」と呼ぶにふさわしいものが、そこではすでに続々と誕生していたのでした。
 デコすることで全体的に明るく華やかになり、画面に“動き”が出てきます。
 Cは「大人のぬりえサロン」講師・yunさんの作品であり、Dはイラストレーターのひさよさん、Eは金子マサさんの作品です。どうですか、こうなるとぬりえはアートです。
 センスや技術も素晴らしいのですが、それ以上に作り手のこだわりやワクワク感が伝わってきて、「私もやってみたい」という気分になってきませんか?
 次なるブーム、つまりデコぬりえブームが、またも「きいちのぬりえ」から始まった予感です。

「ぬる」より「はる」ほうが、効果大のことも

「でも、初めからうまくはできないのでは……」
 躊躇する方もいるでしょうが、実際にやってみると思っていたよりカンタンで、ぬりえに興味のある人なら誰にでもできます。もしかすると、「ぬる」だけより、「ぬる」に「はる」をプラスしたほうが、少ない手間でゴージャスになるといえるかもしれません。
 レースやりぼん、スパンコールなどの材料は、それだけでも十分に“素敵なもの”ですから、それらをうまく組み合わせることに専念すればいいのです。
 組み合わせ次第で、ぬりえの画面は「ぬる」だけより何十倍もイキイキとする。
 また、「ぬる」時点で多少失敗しても、そこに何かを「はる」と、失敗が帳消しになったりします。
 Fの『昭和の暮らし編』の表紙は、実は私がデコレーションしたもので、エプロンに綿レースをはり、かごの中や背景にポプリをあしらっただけで、昭和のレトロな雰囲気が強調されたように思います。「大人のぬりえサロン」の作品と比較すると、いかにも初心者という仕上がりながら、素朴な雰囲気が昭和的という見方もできます。表紙用として、もうひとつデコったのがGで、大きなりぼんでアクセントをつけ、背景をキラキラ光るフルーツ模様にしたため、同じ絵柄でありながら、ずいぶん違った印象になりました。同様に、前出のひさよさんの作品Dとyunさんの作品Hを見比べてください。同じ絵柄でも、デコる人によって、こんなにも個性が出るのです。
 デコぬりえを始める際、次に浮かぶ疑問は、材料をどこで調達するかということです。あまり費用をかけたくないと考える人もいるでしょう。
 木工用ボンドをはじめとするほとんどの材料が「ザ・ダイソー」などの100円ショップで揃い、手間や費用がそれほどかからないという点もデコぬりえの魅力。ILまではすべて100円ショップで購入したものです。
 手芸コーナーはもちろん、ラッピングや化粧品のコーナーなど、意外なところで面白い材料を発見! これがまた楽しいのです。友人たちと集まってデコぬりえをするだけでなく、100円ショップ、大型スーパーや手芸店などへ材料を探しに出かけるのもおすすめです。
 ぬりえは脳を活性化するといわれていますが、デコぬりえの場合は、ものを切ったりはったりして指先を使いますから、より良い刺激を脳に与えるはず。
 しかも低予算でショッピングまで満喫できるのですから、ぜひチャレンジしてみてください。
 
 
 
 
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   A・Bともに「わたしのきいち」60ページより
 
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