連載第十一回:日本のKawaiiものたち

 お笑いの世界で活躍する光浦靖子さんは無類の読書家であると同時に、大の手芸好き。フエルトマスコットに始まり、あみもの、あみぐるみ、ビーズアクセサリーにきんちゃくなど、手づくりモノには、いろいろとハマったそうです。
 そんな彼女が、今、寝食も忘れるくらい夢中になっているのが、フエルトや布、リボンなどを使ったブローチづくり。手づくりブローチを発案したのは5年ほど前のことで、突然のインスピレーションを“神のお告げ”のように感じたとか。それから、コツコツと作り続け、5月末には、手芸と笑いのコラボ本『男子がもらって困るブローチ集』を出版。その出版を記念した作品展まで開催されました。
 やわらかな羊毛フエルトを手にとって繊維をからめ、針で刺しながら形成していく。それをビーズや、リボン、スパンコールなどでデコレーションしてブローチに……。
 あれ? これって何かと似ていませんか?
 そう、可愛いもの、きれいなもの、やわらかいものを扱うという点では、デコぬりえの感覚にちょっと似ているんですね。そんなわけで、今回は、光浦さんに、デコる楽しさ、乙女の世界に遊ぶ心地よさについて、語っていただくことにしました。
最新刊『男子がもらって困るブローチ集』(スイッチ・パブリッシング)

やっちゃん、手芸に目覚める!

 光浦さんが、手芸の面白さを知ったのは、小学三年生で手芸クラブに入ったときのこと。たいした理由もなく選んだクラブだったのに、光浦さんは、そこで今まで気づかなかった自分の才能を知ることになります。
「手芸クラブを選んだのは、本当にテキトーで、手芸の意味もわからなった。“芸”がつくから、“手品でもやるの?”ってな感じ。
 クラブで最初に作ったのが、ネコのフエルトマスコットだったんだけど、それが思いのほか上手にできて……。とにかく、楽しくてね」

 子どもの“おねだり”を簡単には認めない厳しい家庭に育ったため、母親に「フエルトを買ってほしい」というのは憚られたのですが、勇気をふるってねだると、その要望は意外にもあっさり受け入れられたそうです。
「フエルトを手に入れたからには、毎日毎日、いろんなマスコットを作っては友だちにあげていました。たとえば、クラスメートが風邪で学校を休みでもしたら、もう大変。授業が終わると猛ダッシュで家へ帰ってマスコット作りに専念。一気に作り上げると、今度はそれを持って、友だちの家へまっしぐら。
 具合悪そうに出てくる友だちのことなんかお構いなしに、できたてホヤホヤのマスコットを差し出しながら、私はきまってこういうんです。“早く良くなってね”」

 ……。このお見舞いは、ほとんどの人に迷惑だったようで、光浦さんは、そのことを大人になってから知らされます。
「当時の友人とは今でも仲良しで、その中のひとりが、ある日、申し訳なさそうに告白しました。“学校を休むたびに、やっちゃんがヘンなマスコット作ってくれて、人が作ったものだから捨てるに捨てられず、すごく迷惑だったわぁ”(笑)」
こんなに愛らしいブローチが、あなたにも作れちゃいます。(*この写真はトリーミングしていただいてかまいません)
ふだんはキツイことばかりいってますが、本当は私、誰よりも可愛いもの好き。のんびり屋さんで、小動物のような女なんですの。

メルヘンな心を笑ってちょーだい

 心を込めて作り、プレゼントしたものを“迷惑”といわれると、ふつうは落ち込んでしまうのですが……。
「かえって、その感覚が面白いと思ったの。私にだって覚えがありますよ。たとえば、友だちの子どもが作ってくれたイチゴだかリンゴだかわからないマスコット、愛らしくてふりきれちゃうし、もう、オシッコがもれるほどカワイイ(笑)。でも、それをもらっても、どこにも付けないし、困るか困らないかで考えたら、やっぱり“困るもの”だよね。
ブローチには、夢と希望と愛情しか込めてない。それなのに、どうして男子は嫌うのかしら。ねぇ、ちょっと、なんでよ。 それが、今回の本のタイトル“男子がもらって困る―”というのにも反映されています。男の人ってよく“手づくりは重い”っていいますよね。大好きな女の子が作るものでも、やはり手づくりとなると考えてしまうと――。
 今回のブローチには、さらにメルヘンが込められていますから、男の人にとっては、余計、いらないものですよね。そこで、いっそのこと、手づくりを笑い飛ばしてしまおう。手づくりを笑いのネタにしてしまおうと決めました。“いらない”“迷惑”といわれたってめげないの。だって、私の作るブローチがそれほどメルヘンチックだという、いってみれば、ほめ言葉だもん。
 その意味では、新しい感覚の手芸本。手芸の世界に一石を投じる本になっちゃってるわけね(笑)。だから、手芸好きの女子たちも、“手づくりを笑うなんて、ひどい!”なんて思わないで、余裕で受けとめてほしいな」

役に立たないモノを作る女は独りが多い。絶対、そうなんだ(力説)。
 
 シニカルなものの見方はいかにも光浦さんらしいし、誰よりも手芸好きの彼女がいうのだから説得力もあるのですが、それにしても、なぜ、ブローチなのでしょうか。
「以前、オカマの友だちと、シャレで“チーク&ブローチ運動”というのをしていたんですね。ブローチには時代遅れの感があって、ファッションに取り入れる人は少ないけれど、女はチークをして、ブローチをすればモテるはずだということでね(笑)。
 まわりを見ると、ブローチ人口は極めて少ないし、“ブローチなんて、しないよ”という人も少なくないでしょう。でも、そんなレトロなブローチとメルヘンの融合が、私はとっても気に入っているんです」

デコぬりえにハマる気持ち、わかるゥ

色鮮やかな原画は、きいちのぬりえを入れる袋用に描かれたもの。 いくつになっても乙女心を失わない(ご本人はそれゆえ異性にモテないとお嘆きのようですが)光浦さんに、デコぬりえの魅力についても、語っていただきました。
「ぬりえは大好きで、子どもの頃、やりたおしました!
 小学一年生のときには、ぬりえを持って通学してたくらいです。休み時間になるとひとりでぬりえをしたり、ウサギ小屋に行って、ウサギにエサをあげたり。すごくマイペースで、社会性という面では、少し“出遅れた子ども”だったようです。
 デコぬりえの場合、色をぬるだけでなく、はる材料を必要としますから、材料を買い集めるのが楽しい。その意味では、ブローチづくりと共通しますね。リボンやスパンコール、ビーズやフエルトなど、使う材料も似ています」

 手芸店では、ドーンと大人買いをするという光浦さん。自宅リビングの一角は、材料であふれかえり、収拾がつかなくなっているんだとか。
「自分なりにわかるようにはなっていて、私の目から見た可愛さの基準で、“一軍”“二軍”とわけてあって、“一軍”は、カワイイと書いた箱に入れてある。でも、それを他人にいじられるとわからなくなっちゃうし、このまま材料が増えるようなら、収納のプロの力を借りなくちゃいけないかもしれませんね」
 どんなに散らかっていても、大好きな本とこまごまとした手芸用品に囲まれての暮らしを光浦さんはこよなく愛し、そこから、70以上のメルヘンチックなブローチも誕生しました。
「長時間針を持っていると目が痛くなってくるから、体力の限界を感じて寝るんだけど、気になって気になって、翌朝は“やりたい!”って気持ちで目が覚める」
 ひとつの作品を仕上げるのに要するのは平均6時間。当然、睡眠不足にもなりますが、つらいと感じたことは一度もないというから驚き。
ビビッドな色でベタぬりし、綿とか詰めて立体感出すのも楽しいかもね。
 
 
「がんばって完成させても、実際に身につけることはないですよ。というのも、自分で身につけることを想定すると、思い切りデコれないから地味になっちゃう。それではつまんないでしょ。デコぬりえも同じだと思うんだけど、自分では絶対に着ないドレスや着物、夢の世界だから思い切りデコれるんですよね。
 さらに、ブローチの場合は、男の人にこんなものをあげたら、嫌がるだろうな、気持ち悪がるだろうなと思いながら、“ニヒヒ”と笑って、もうひと盛り。メルヘンの世界をさらに突き進んじゃうわけね。
 そうだ、デコぬりえも、そんなふうに想像しながらやってみたらどうかな? 男の人に、このフリフリ、キラキラのデコ作品をプレゼントしたら、どんなに困った顔をするかなんてね(笑)」

 ちょっと、待ってください!
 光浦さんの視点は、たしかに興味深いけど、“デコぬりえを男子にプレゼントする”という発想にノルのはやめておきます。
 手づくりを笑い飛ばして、手芸の世界に一石を投じたと豪語する光浦さん、誕生してまだ間もないデコぬりえの世界は、もうしばらくそっとしておいてください……。
これ楽しそう、「きれいないろのおみずやさん」。ボトルを蛍光色でぬって、スパンコールやビーズでデコレートしてドハデにするの。