連載第十四回:巻田はるかさんに聞くきいちの魅力

「きいちのぬりえがいちばん好きだった」
 昔からのきいちファンは、決まってこういいます。
 そういう人たちは、たとえ70歳、80歳になっても、ぬりえを前にすると、 自分が少女だった頃に戻ることができる。その意味で、きいちのぬりえには、ほかの大人のぬりえにはない魅力があります。
 けれども、きいちのぬりえを好むのは、高齢者とは限りません。若者のなかにもファンは多く、 意外な人が、意外なところで影響を受けていたりします。
 今回は、そんな若者世代を代表して、アーティスト巻田はるかさん(24歳)にお話をうかがいました。 巻田さんは、世界的に活躍するアーティスト村上隆さんに才能を見出され、これからの活躍が期待されるひとりです。

セーラームーンと上村松園

 巻田さんの作品には、必ず女の子が登場します。
 すらりと伸びた足が印象的な現代風美少女や、豊かな黒髪をふっくらと束ねた日本髪の少女など、そのタイプはさまざまです。「女の子」というわかりやすいテーマなのに、じっと見ていると、ただ可愛いだけではない何か、たおやかさだけではない何かが、画面からジワッと染み出てくるような感じがして、その不思議さに、さらに見入ってしまいます。
 見る者をこんな感覚にさせる巻田さんは、いったいどんな人なのでしょうか。
「子どもの頃から、マンガアニメーションが大好きでした。大流行していた『美少女戦士セーラームーン』などのキャラクターを真似て描きながら、将来は絵を描く仕事に就きたいと思っていました。それで大学もイラストレーション科に進んだんですね」
 そういえば、構図からはアニメーションのような動きが伝わってきますし、少女たちの体型も、まるで人気アニメのヒロインのようです。
「京都に生まれ、幼い頃から古いものに親しんで育ちましたが、大学生になると意識的に古いものに目を向けるようになりました。日本の、しかも京都という土壌で育ったのだから、西洋のものより日本のものを描いたほうが良いのではと思うようになり、それで和服や日本髪の女の子を描くようになったのです。
 美人画で一世を風靡した上村松園(うえむらしょうえん)の作品や浮世絵なども好きで、よく京都の美術館を巡りました。過去の遺産は、どの作品も素晴らしいのですが、でも、今を生きる私が、それと同じようなものを描いてもアートとして成立しないような気がして……」
 やがて巻田さんは、自らの作品に和のテイストを取り入れることを着想します。よく見ると、セーラー服姿の少女絵にも“和”が取り入れられていて、流れるように描かれた長い髪は平安朝のお姫様を髣髴とさせます。
「以前は少女の瞳にもアニメチックにキラキラと星を輝かせていたのですが、“和”を意識するようになってから変わりました。同様に眉も、平安時代のお公家様のように描いた作品が増えていきました」
 なるほど、過去と現代の融合に、和のスパイスを効かせて――。巻田作品の不思議の秘密が少しわかったような気がしました。

「可愛いこと」と「こわいこと」

 「作品の主人公が女の子なのは、私自身が女性だから描きやすいというのがあります。もちろん、過去の偉大な画家による美人画への憧れも関係しているでしょうが、ただ可愛らしかったり、美しかったりするだけの女の子を描いたのでは、作品に深みが出ないと思いました」
 そこで、巻田さんはこんな主題に巡り合います。

――「可愛いこと」「こわいこと」。なんら共通点のない二つの要素が、彼女の作品のなかでは、やはり見事に融合しているのです。

「女の人だってそうですよね。外見はとても可愛いけど、そのうちにこわさを秘めていたりする。これは大学時代、夢中になって読んだ谷崎潤一郎円地文子の小説などの世界にも通じると思います」 
 そんな巻田さんは、現在、埼玉にある村上隆さんのアトリエの一角で、彼の指導のもと、個展やグループ展に向けて制作を続けています。村上さんの指導は厳しく、表現についてだけでなく、プレゼンテーションの仕方からスケジュール管理について、さらに礼儀作法までチェックされるとのこと。
しろうさぎ   また、毎日1枚、必ずドローイング(線画)を描くのが鉄則で、展覧会の前などは、出品作品の制作とかちあって大変なのだそうです。
 修業のような日々。でも巻田さんは前向きです。
「アーティストとして必要なことを、すべて教えてくださっているのですから、とても感謝しています。超一流のアーティストが指導に当たっている例は、ほかに聞いたことがありません。ですから、注意されたことは素直に聞けますし、いつも自分の勉強不足も思い知らされています」
 それでも、ときどきはつらくなって、京都に帰りたいと思うことがあるのでは?
「ありましたね。もう京都に帰ろうと思い、1日、ふて寝したことが……。でも、帰ることもなく、ドローイングだけはちゃんと描きました(笑)」
「しろうさぎ」 2011 /パネルに和紙、墨、胡粉、水干絵具 / 180×140 mm

きいちの女の子の太い足が好き!

 毎日、制作に明け暮れる巻田さんですが、その合間を縫って、デコぬりえにチャレンジしてくださいました。
「蔦谷喜一さんのことも、その作品についても、以前から知っていました。これまでに何度かきいちブームが起こり、大人のぬりえもたくさん出版されていますから。
 私はぬりえが好きだったので、もしきいちのぬりえが大ヒットした頃に生まれていたら、きっと、夢中になって遊んだと思います。 この太い足キューピーちゃんみたいな顔が大好きなんです。
 でも、残念ながら私の子ども時代のぬりえは、キャラクターものがほとんどで、 私はセーラームーンのぬりえでよく遊びました。ぬりえにシールがついていたものもあり、考えればあれもデコぬりえといえますね」
デコぬりえのはさみ込みのワザって、すごいですね(笑)。
フラワーガール  巻田さんのデコ作品は、スッキリとした印象で、ぬり残した部分にも、アーティストとしてのセンスが光ります。
「和モノと洋モノという視点で、それぞれいちばん可愛いと思うぬりえを選びました。
 デコぬりえを体験してみて思ったのですが、手がけた人のオリジナリティーが出るという点では、 ぬりえの域を超えています。それはぬるだけでは実現できなかったことで、だから満足感が得られるのでしょうね。
 私の場合は、作品を制作しているときとは違い、リラックスして楽しめたのがよかったです」
 巻田さん、ありがとうございました。
 疲れたとき、あるいは、村上さんの厳しさに耐え切れず、また京都に帰りたくなったときには、きいちのぬりえで心をほぐしてくださいね。
髪につけたリボンと、花かご部分がデコのポイント。ここを目立たせるためにドレスを落ち着いた色にしました。
おしゆうぎのおどり/「全体的に明るい雰囲気にしたいと思い、着物の色をまず黄緑に決めました。大きなリボンと帯締めのボンボンで可愛さを強調。」