連載第四回:大人が集まる「ぬりえサロン」を体験しました。多種多様なデコ材料 眺めるだけでもワクワクです

「ぬりえ美術館」外観 都電荒川線が心地よい音を立てて走り、地域に根ざした商店が建ち並ぶ、なんともローカルな雰囲気。行き交う人の何気ない挨拶にぬくもりを感じ、自転車に乗った人の歩行への気配りに心が温まる――東京の北東部に位置する荒川区・町屋は、いまや消えつつある人情味溢れる町のひとつといえるでしょう。
 町屋駅から7、8分歩いたところにきいちのぬりえを常設する「ぬりえ美術館」があります。ふだんはぬりえを中心にきせかえなどを展示する美術館ですが、月に1度(第3木曜日)、講師指導のもとでぬりえを楽しめる「大人のぬりえサロン」が開催されています。
「ぬりえ美術館」館内
 館長の金子マサさんは、実は蔦谷喜一の妻・まささんの姪にあたる人。きいちのぬりえは奥さんがモデルに違いないと誰もが思うほど、まささんは小柄で、おばあちゃんになっても少女のように愛らしい女性でした(平成22年に89歳で他界)。館長の金子さんはキリリとした美人ですが、ちょっとした表情がまささんに似ていると感じることがあります。「マサ」と「まさ」、そういえば名前も同じでした。
「大人のぬりえサロン」を訪ねたのは今回が2度目ですが、まず「楽しい!」と感じるのはテーブルの上にデコぬりえの材料たくさん並んでいることです。
 材料は、金子館長と講師のyun先生があちこちに出かけられて見つけるそうで、100円ショップや手芸店はもちろんのこと、日暮里の繊維問屋や横浜まで足を伸ばすこともあるとか。「こんなものまではれる?」とびっくりするものまであって、そのひとつがひよこの雑貨。
 遊び心いっぱい! いい意味で“突き抜けた”タイプの二人でないと選べないユニークさです。
デコぬりえの材料
ひよこの雑貨も材料
色えんぴつ 色えんぴつ持参で参加される方もいますが、そうでない人にはyun先生が、プロ仕様の色えんぴつを貸してくれます。
 実際に使わせていただくと発色が良く、芯もやわらかで使いやすい。“はる”材料はチープなものから高価なものまでいろいろあったほうが楽しいのですが、“ぬる”道具には少し高価なものを選ぶほうが良いかもしれません。道具の良さは仕上がりにも影響するようですから。

 
 
 
充実の時は流れ方が違う 大人のサロンはこうでなきゃ

 サロンの開始時間は午後1時半。今日のテーマは「おやゆびひめ」です。参加者にきいちのぬりえが配られると、yun先生の作品が披露されました。
 ドレスのフリル部分にそって何段にも切り込みを入れ、そこにレースをはさんでボリュームを出しています。うかがってみると、背後の白い羽にも意味がありました。
「おやゆび姫の物語には、つばめの背に乗って空を飛ぶ場面があったはず。そのツバメをイメージして、白い羽をはってみたんです」とyun先生。
 すると、参加者から「おやゆび姫ってどんな話でしたっけ?」「たしかモグラから求婚されて、でも花の国の王子と結婚したような……」などの声が。幼い頃に読んだアンデルセン童話の記憶が蘇ります。
 ぬりえは脳を活性化させるといわれていますが、こんなふうに古い記憶を引き出して語り合うことも、アンチエイジングには効果的なんだそうですよ。
デコぬりえ:作業風景
デコぬりえ:作業風景
 今回はデコぬりえ初体験という方が二人いらして、最初はyun先生のアドバイスを求めていましたが、すぐにイメージをつかんだようで、ぬりえの世界に没頭。みなさん、本当に楽しそうにぬり進めていきます。
 初挑戦組のひとり、萱沼(かやぬま)さんは、早くもステキなレースを見つけたようです。
「戦争中に育ったので、疎開などで慌しく、子どもの頃はぬりえを楽しむ余裕などありませんでした。最近は絵手紙に凝っていて、それはそれで楽しいのですが、デコぬりえには、はる楽しさがあって、“どうなるかな”という期待がもてますね」と語ってくれました。
 同じく根岸さんも、デコ初体験。
「子どもの頃、ぬりえはよくやりました。きいちのぬりえはもちろん、自分でマンガの主人公を描いて色をぬり、それをもとにきせかえを作って遊んだりもしました」という根岸さんは、子ども時代のカンを取り戻して、どんどん作業を進めていきます。
 サロンの時間は、午後1時半〜3時半までと一応決まっているのですが、1時間以上オーバーすることも珍しくないのだそうです。
 なるほどみなさんの熱中ぶりを見ているとうなずけます。
 この日はNHKの取材陣がみえていて、参加者にインタビューをしたり、録画を撮ったり、いつもと比べると落ち着かない雰囲気だったのですが、みなさん、動じることなく制作に没頭。時間が驚くほどの速さで過ぎていく感じでした。
デコぬりえ:作業風景

 
 
 
たっぷりデコって そこから引き算していく

 テレビ取材をきっかけに、きいちのぬりえの魅力について語り合う場面もありました。
ドレスが魅力的。ドレスを着たいという夢を結婚式で叶える人は多いと思いますが、花嫁さんになっても着ることのないようなドレスが、次々、登場するんですから」と根岸さん。
 yun先生は、日々の暮らしを表現することで人々の共感を得た点に着目。
「現代人が忘れがちな季節感伝統行事などを上手にぬりえに取り入れています。そして、その表わし方にセンスの良さを感じますね」
 会話に耳を傾けながらレースを選んでいた富塚さんが、興味深い体験を話してくれました。富塚さんはサロン開催日を楽しみにしている方で、これまでに作られた作品はどれも傑作です。
「着色された印刷物を見て、“私だったら、こんなふうにぬるのになぁ”と思ったこともありました。違う色でぬったら、もっと良くなると思ったんですね。ところが実際にぬってみると色選びは難しく、思うように仕上がらないことも。それで改めてきいちのすごさを感じました。デコレーションしてますます華やかになるのも、少女のキャラクターが魅力的だからなのでしょう」
 たしかに三頭身の大きな顔は、どんなに激しいデコレーションにもヒケをとりません。
 ここでyun先生が、デコレーション成功の秘訣を伝授。
「色をぬっている途中でも、ぬり終えてからでもいいのですが、ぬりえのそばに考えられるだけのデコ材料を置いていってください。デコれるだけデコろうという感じでね。もちろんそのまま全部を使ってもいいのですが、そこから引き算をしていくとより良い仕上がりが期待できます。この引き算が上手になると、デコぬりえのセンスがレベルアップしていくんですね」
 写真は富塚さん、写真はひさよさんの作業風景。サロンに通う人は、たしかにyun先生のアドバイスを実行していました。
富塚さん・ひさよさん:作業風景

 
 
 
どれも素晴らしい! 自信作の完成です

 サロン参加者の中には、ひさよさんのようにプロのイラストレーター、人形作家として活躍されている人もいます。そういう方の制作過程を間近で見られるのもこのサロンならではのこと。とても刺激的で勉強になります。
 せっかくですから、ひさよさんの作品をクローズアップしてみましょう。
 ひさよさんレベルになると、“ぬる”と“はる”を同時進行できるんですね。レースも華やかな色合いのものをうまく組み合わせ、とてもカラフルなおやゆび姫になりました。少女の顔をていねいにお化粧するのも、ひさよ作品の特徴です。
レースで華やかな色合い
批評・鑑賞会
作品 作品
 萱沼さんの作品は、さわやかな色使いで可憐なおやゆび姫になりました。デコぬりえ初挑戦とは思えない出来栄えです。70歳を過ぎてなおフレッシュな感覚は見習いたいものです。
 根岸さんの作品は、まさに大人のデコぬりえと呼ぶにふさわしい色使い。モダンな画面に仕上がりました。服飾の勉強をされていたということで、それでこれほど複雑な色の組み合わせでも統一感を出せるんですね。
作品 作品
 富塚さんの作品は、赤の効いたレース使いが印象的です。これは最初から使うと決めていて、レースを生かす色使いを心がけたということです。フラメンコを思わせるスパニッシュスタイルの姫になったと思いませんか?
 富塚さんのようにデコ経験が長くなると、絵を見ただけで仕上がりがイメージできてしまうようです。
 さすがに金子館長の作品は華やかです。ふんだんに使ったぶどう柄のレース個性的。金子さんはこのレースにほれ込んで、前々からデコりたいと機会を待っていたのだそうです。
 花や葉のキラキラ感ともマッチしていますね。
それぞれにいろんな思いが込められた作品は、どれも輝いていました。
 
 長時間のおじゃまになってしまいましたが、みなさん快く許してくださってありがとうございました。
 この日の様子は、NHK Eテレ「団塊スタイル/4月13日(金)20:00〜20:45」で放映予定。
 放映日を楽しみに待つことにいたしましょう。