連載第八回:デコぬりえが街に出ました 下町のカフェからスタート!

 2012年4月5日は、デコぬりえにとって記念すべき日となりました。デコぬりえが初めてイベントに組み込まれ、街に出たのです。
 イベントの仕掛け人は、デコぬりえの達人・イラストレーターのyunさん。デコぬりえは大人だけでなく、学生、そして子どもたち、みんなに楽しんでもらえるに違いないと確信したyunさんは、毎年春に仲間たちと主催する「亀吉倶楽部」というイベントで、デコぬりえを紹介することに決めたそうです。
「亀吉倶楽部」とは、なんともユニークなネーミングですが、「亀のようにスローライフを楽しもう」がコンセプト。なるほど、慌しくて気疲れしてしまう日々を送る私たちにとって、一時でも「ゆるゆる」できたら、ちょっとしあわせかもしれませんね。「ゆるゆる」とした雰囲気に癒されるという点では、亀吉倶楽部同様、デコぬりえの得意とするところです。
 イベント会場となったのは、東京の深川にあるカフェ「いっぷく」さん。自家焙煎コーヒーがおいしいだけでなく、ふだんからギャラリー&カフェとして親しまれる店内には、アート感覚あふれる作品や雑貨が並べられ、販売されています。かつて下町の駄菓子屋「きいちのぬりえ」が大人気だったことを思うと、イベント会場が下町の深川という点に、何かの縁を感じずにはいられません。
「きいちのぬりえ」を描いていた蔦谷喜一さんが、いまもお元気だったら、こうしたイベントをどんなにか喜んだことでしょう。率先してデコぬりえにチャレンジしたはずです。手先が器用なうえに、美しいもの、可愛らしいものが大好きだった喜一さんは、画室の資料入れなども千代紙で飾っていました。
「亀吉倶楽部」には、毎年テーマがあって、今年は「おフランス」。19世紀初頭、フランスの貴族の間で亀を飼うのが流行したということで、それにちなんでテーマを決めたそうです。会場内はおフランスムードいっぱいで、デコぬりえにも亀を連れている少女の絵が選ばれました。ふしぎだけど、楽しい絵です。
イベント会場となった「いっぷく」
左:店内には“亀”にちなんだ多くの作品が・右:フランスのバラが参加者を迎えます

男の子のハートもわしづかみ

「デコぬりえ」イベント開始の30分前に会場に行ってみると、すでに小さな男の子が、おかあさんと一緒に体験をスタートさせていました。
 今回は、デコに専念してほしいとの理由から、「ぬり」のほうはyunさんが済ませ、参加者はその中から好きな色のモノを選んで「はる」というシステム。
 スカートのすそにレースをデコるだけで、かなり立体感が出ますから、デコ初体験者には、このレース選びがポイントということで、yunさんは大量のレースを用意していました。デコぬりえの達人ともなると、初心者の気持ちが、よーくわかるんですね。
 一番乗りの男の子は、6才の誕生日を明日に控えたハル君。幼稚園でもキャラクターもののぬりえを楽しんでいるそうですが、デコぬりえは初挑戦。材料をぬりえの上に置いてはバランスを考える様子は、とても幼稚園児には見えません。それにしても、男の子が少女の絵を目の前にして、退屈したりはしないのでしょうか。おかあさんに聞いてみました。
「まだそういう区別はないようで、なんでも受け入れます。ぬりえにモノをはるというのは、初めての経験ですから面白いのではないでしょうか」
 こういいながら、そばで見守るおかあさんに、ハル君はときどきアドバイスを求めます。すると、「コレをはったらどう?」と材料を渡すおかあさん。親子の会話も弾みます。はさみは上手に使えるハル君ですが、カッターは危険なので、おかあさんの担当。二人の共同作業は順調に進んでいきました。
 その様子に、前回取材した杏林大学医学部付属病院の古賀良彦先生がいわれた、こんな言葉を思い出しました。
「最近は仕事に忙しいおかあさんが多く、親子のコミュニケーションが意外に少ないんですね。子どもは保育士さんとすごす時間のほうが長かったりして。子どもというのは、親の言葉とか動作から学んでいくわけですから、ふれあいは大切。休日や仕事の合間に、こうしたぬりえでコミュニケーションを深めることは有意義だと思います」
 ハル君は1時間以上かけてデコぬりえを完成させ、その間、テーブルから離れることはありませんでした。大人顔負けの集中力には、本当にびっくり。色や形に関心があるようで、将来はアートの世界で才能を開花させるかもしれませんね。
上:参加者のためにyunさんが「ぬり」を担当。参加者のデコ体験は、このぬりえを選ぶことからスタート・下:「シールやいろいろなモノをはるのが楽しい」とハル君

迷って、デコって、楽しすぎるひと時

 「部屋に飾れるくらいの作品を作りたくて」と意気込んで出席してくれたのはマキさんです。彼女は、参加者の中で、いちばんデコぬりえを満喫していたという印象でした。
 一つの材料を選ぶにも、yunさんやほかの人たちの意見を聞き、それを自分の好みとすり合わせていくのですから、とにかく時間がかかります。でも、迷う時間さえ楽しくてたまらないという感じ。
「レースを重ねるたびにゴージャスになっていくので、テンション上がりますね。まわりの人の作品にも刺激を受けますし。ふだん自分では着られないようなファッションに仕上げる。それがデコぬりえの醍醐味ですね」と、早くもデコぬりえのとりこになってしまったようです。マキさんは、大満足のデコぬりえを完成させましたから、それはきっと部屋に飾られることでしょう。
上:レース選びを楽しむマキさん・下:「亀吉倶楽部」のみなさんが背負っているのはプラスチック製の亀の甲羅
 デコ初挑戦でも、つねに何かを表現する職業の人は、かなり個性的なデコを見せてくれるので、ワクワクします。
 今回、興味深かったのは、パティシエのホーリーさんと、イラストレーターの一瀬美那子さんの作品。ホーリーさんは、とくに色使いが斬新で、美那子さんの作品では、大胆なデコと描き込んだ背景に圧倒されました。
「亀吉倶楽部」からは、このほかにも素晴らしい作品が誕生したので紹介させていただきます。
 デコぬりえは、これからどんどん街に出ていくつもりです。機会があったら、ぜひ体験しに来てくださいね。
左:ハル君の作品・右:マキさんの作品
左:ホーリーさんの作品・右:一瀬美那子さんの作品
左:海松庭さんの作品・右:青木由希子さんの作品