公演中の柳家喬太郎(1) 公演中の柳家喬太郎(2) 公演中の柳家喬太郎(3)

落語『孝行糖』の触りを演じる喬太郎師匠。「噺の内容よりも音とか売り声のリズムで聞かせます。派手さはないですがほんわかとして愉しい寄席向きの噺です」

飴売りの口上のテンポの良さで
愉しく聞かせる噺です

先代の三遊亭金馬師匠の十八番中の十八番が、この『孝行糖』。ですから、いまの四代目の金馬師匠もお演りになります。ほかの一門ではあまり演らない、金馬一門のお家芸的な噺のひとつといっていいですね。

与太郎が親孝行で、お奉行さまからご褒美に"青差し五貫文"をいただいたというところから噺は始まります。この青差しというのは、紺色に染めた細い麻紐に穴あき銭を通したもので、一連が一貫文。それが五貫文だと、一両ちょっとになるというんですけど、さて、今のおカネでどのくらいの金額なんでしょうか。

この青差し五貫文っていうのは、ほかの噺でも出てくるんですよ。僕が最近やり始めた講釈ものの『次郎長外伝』の『小政の生い立ち』。主人公の小政が子供の頃に、やっぱり親孝行の徳で、浜松のお奉行様から青差し五貫文をいただく、そういうくだりがあるんです。

しかし、昔は親孝行で褒められた、ご褒美がもらえたんですねえ。今考えると、何か面白いですよね(笑)。

さて、『孝行糖』には落語的なばかばかしさはあるんですけど、結構、まっとうな人たちの噺ですよね。ほんわかとして、いい噺ともいえるんですけど、落語としては少し物足りない。なぜかというと、与太郎が親孝行でおカネをもらうでしょう。ここがまず教育的ですよね。それで、長屋の連中が与太郎に銭をもたせておいたら使ってしまうといけないから、何か商売でもやらせようとする。このへんが、とっても落語っぽくないんですよ。 

与太郎が親孝行でおカネをもらったら、そこで長屋の連中が「うれしいねえ、そのカネで一杯飲もうじゃねえか」「飲もう、飲もう」というのが落語だと思うんですよ。それを「おまえたち、バカなこといってんじゃないよ、商売させんだから」と大家がたしなめるというわけでもない。いきなり、ぼんやりしてる与太郎でもやれて、身が立つ商売をみんなで考えようじゃないかと、そういうとっても真面目な人たちのお噺というか、ぜんぜん落語っぽくない。派手に受ける噺でもないし、ちょっと中途半端かなって気がしないでもないんですよ。

この上なくばかばかしいサゲがいいですねぇ

ぼやっとしてる与太郎に飴売りをさせようという、そのくだりの長屋の連中のアイデアの出し方が、ひとつ僕はすごいなあと思うんですよ。

かつて、二世嵐璃寛と三世中村芝かんという人気を二分した役者が身につけて、実際に大流行した"色"が璃寛茶と芝かん茶。そこに便乗して璃寛飴と芝かん飴をつくったら大いに売れたという。それに倣って、親孝行の与太郎には「孝行糖」という飴を売らせようというわけですから。そんなことを長屋の連中が言い出す。知恵者というか、落語的なバカじゃないんですよ(笑)。

まあ、無邪気な噺ではあるし、むしろ噺の内容よりも鳴り物の音と歌うような飴売りの口上のテンポのよさとで、明るく愉しく聞かせるということ。それがこの噺の一番の眼目なんでしょうか。

♪孝行糖、孝行糖ォ。孝行糖の本来は、粳の小米に寒ざらし、カヤに銀杏、肉桂に丁子、チャンチキチン、スケテンテン。昔むかしの唐土(もろこし)の二十四孝のそのなかで、ほら老莱子といえる人、親を大事にしようとて、こらこしらえあげたる孝行糖。食べてみな、こら美味しいよ。また売れたったら嬉しいねッ

まあ、そんな具合に、鐘・太鼓もにぎやかしく、派手な飴屋の衣装に身を包んだ与太郎が町を売り歩いて、孝行糖は大人気に。ところが、水戸様の上屋敷の前にやってきたところで、門番にとがめられるわけですね。

飴

台東区根岸にある「金太郎飴本店」では、持ち込みの似顔絵や写真をもとにしてオリジナルの飴をつくってくれる。これは喬太郎師匠が描いたマンガの自画像(左)をもとにして、こしらえた「喬太郎飴」。両切りの飴にして1500粒分3万5000円(税別)〜。10粒入り150袋〜20粒入り75袋が基本の注文単位だ。

「ご門前じゃによって鳴り物はあいならん」「チャンチキチ」「ならんと言うに!」「スケテンテン」「こらっ!」「テンドコドン」(笑)。与太郎自身は大真面目。でも、飴屋風情にからかわれたと思った門番は、そこで与太郎を手にした六尺棒でさんざんに打ち据える。

そこに通りかかった知り合いが、門番に事情を話して助け出しますが、与太郎は「痛え、痛え」というばかり。「どこをぶたれた?」。そう聞かれた与太郎は、頭とお尻を押さえて、「こうこうと、こうこうと」。

サゲは、この上なくばかばかしい。でも、結構、僕はこういうサゲは好きなんですけどね(笑)。

聞き書き・取材・文/佐藤俊一 撮影/鷹野晃

演目あらすじ

「孝行糖」とは?

うすぼんやりしている与太郎だが、大変に親孝行だというので、お奉行さまから褒められて青差し五貫文をいただいた。大家さんと町内の者が褒美のおカネを元手に与太郎には何か身が立つような小商いをさせようと思い立つ。そこで出た案が子供相手の飴売り。昔、人気役者の嵐璃寛と中村芝かんにあやかって売り出された璃寛糖と芝かん糖という「飴」が大あたり。それに倣って、親孝行の与太郎には「孝行糖」と名づけた飴を売らせようと決めたのである。<孝行糖、孝行糖ォ、孝行糖の本来は、粳の小米に寒ざらし・・チャンチキチ、スケテンテン>。飴売りの口上を憶え、派手な衣装を身につけた与太郎が鐘や太鼓の音もにぎやかに町を行けば、これが評判を呼んで孝行糖は大いに売れたが――明治初期に創られた上方落語を三代目三遊亭圓馬が東京に移植したものという。