BOOK PEOPLE × 本の窓
会社員の道を選ばず社会で注目を浴び始めている若者たちは、
どんな風に育ち、いま何を考えているのか?
二十代で震災を経験し、ゆとり世代前後の彼・彼女らの
本音と向き合い考察する。
釣  書
  • 米良はるか(めら・はるか)
    昭和62年10月20日生まれ
    現住所 東京都

    経歴 
    平成18年3月 成城学園高校 卒業
    同年4月 慶應義塾大学経済学部入学
    平成22年3月 同大学卒業
    同年4月 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科入学
    同年5月 スタンフォード大学へ短期留学
    平成23年3月 日本最初のクラウドファンディングとしてREADYFORを開始
    平成24年1月 世界経済フォーラム年次総会(いわゆるダボス会議)に日本人最年少で参加
    同年3月 同大学院修了
    平成25年7月 READYFOR事業の運営会社、READYFOR株式会社を設立し、代表取締役就任。内閣官房の「国・行政のあり方に関する懇談会」メンバーを務める。
    同年8月 大学時代の同級生と結婚
    年収 非公開
    特技・趣味 特になし
    尊敬する人物 特に挙げられません
READYFOR
 幅広い人々(=群衆、crowd)の共感や賛同を、資金提供(funding)で具体化することで、発案者の夢や才能の開花を支援する「クラウドファンディング」。このサービスが日本にも浸透しつつある。
 たとえば「沖縄の離島の急病患者を救う医療用飛行機を導入したい」(約3629万円/445人)、「陸前高田市の仮設住宅内にある図書室に本を集めたい」(約824万円/862人)、「小津安二郎の映画『晩春』を最新のデジタル技術で修復・保存する」(約605万円/367人)などのプロジェクトが、クラウドファンディングで資金調達に成功し、事業への足がかりを作っている(カッコ内の数字は調達金額と支援者数)。
 こうしたプロジェクトは、企業や行政が資金や予算を確保して実施するのが一般的だったが、志を持つ個人がプロジェクトの有用性や社会性などをインターネットを通じて幅広く訴えることで、一般の人々から小口の資金が集まるようになってきた。インターネットやソーシャルメディアの普及が、このサービスの浸透の背景にある。
 日本では平成二十三(二〇一一)年にスタートした「READYFOR」が草分けで、これまでに約二千七百プロジェクトの資金調達を行い、約九万七千人から約十四億円を調達する国内最大規模の実績を誇る。また資金を募るだけでなく、その支援者にリターンを行うことで発案者と支援者の交流を生み出し、長期的な支援者作りを視野に入れていることなどが特徴といえる。
 運営会社を率いるのは、今年十月で二十八歳になる米良はるか。彼女の活動も世間から耳目を集めている。
「誰もが自分のやりたいと思うことがあるはず。それを実現できない原因のひとつに経済的理由がある。『READYFOR』では、そうした人たちを応援して社会の役に立ちたい。それがこのサービスを始めた理由です」
 ただし米良がクラウドファンディングを始めた動機は、人助けをしたい、というのとは違うそうだ。
「私は『READYFOR』によって人々が自分の夢や希望を諦めずに実現させる、それを応援できることが楽しいからやっている。私が楽しいんです。なので可哀想な人がいるから何とかしたい、困っている人を助けたいというよりも、がんばっている人、がんばろうとしている人と一緒に自分が価値を生み出す存在になり、その結果として社会が良くなったらいい。それが楽しいんです」
 誰かを一方的に支援したり援助するのではなく、自律した個人の活躍できる機会を生み出す、これが米良にとって楽しいこと、それがREADYFORなのだという。
 ここで前提になっているのは、集団に属していることがあっても自律した個人が、何か(=プロジェクト)を始めたいと考えているけれど、その最大の障壁として経済的理由がある。自分たちのやりたいことは、こんなことで、こんな価値を生み出し、こんな段取りで進めていくので、どうか応援してほしい、という強い意思を持っていること。そして、そのプロジェクトに共感・賛同した個人が、自分の行える範囲で資金を提供する。その見返りとして、それはお礼のメールのような簡易なものから、出来上がったものに名前を残したり、出来上がった製品を手に入れる、事業に参与するといったものまで、プロジェクトから何かを還元することで、両者の交流を生み出す、そうした循環型サイクルが想定されている。
 東日本大震災後、さまざまな社会的矛盾が噴出しながらも従来のしくみが機能せず、未だに問題解決の見通しが立たない日本社会の閉塞感が、こうした蘖のようなサービスを生み出しているのだろう。
 米良が、このサービスをスタートさせたのは大学院在学中の二十三歳のとき。そこに至る経緯を聞いた。
「学生時代に『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳、日本経済新聞社 二〇〇六年)や、『ハイ・コンセプト』(ダニエル・ピンク著、大前研一訳、三笠書房)を読んだことなどが影響していると思います。負けず嫌いな性格もあり、これからは価値を生み出す側でなければ社会で生き残れない、と考えたんです。そうした中で知り合った恩師、そして留学(米国の名門校で、多くの起業家を生み出しているスタンフォード大学)などの経験を経て、クラウドファンディングを知り、その事業化を考えるようになりました。この手法ならば、経済的理由で機会を逃した人でもチャンスを掴めるのですから」
 また米良自身は、大学、大学院に進んでいく過程で自分が恵まれた環境で育ったことを実感していき、それもREADYFORを始める背景になったと語る。
「私は、経済的な面だけでなく、自分の進路を自由に選ぶことを親も許してくれたし、こうして起業もできている。それは非常に恵まれていることと感じています。それがわかっているので、生まれや育ちが違っても、みんなが同じスタートラインに立てるようになるべきと思うんです。そうでないとフェアじゃない。『READYFOR』は、こうした状況を何とかする助けにならないかと考えています」
 自分は恵まれている。だからこそ誰もが同じ出発点に立てるようになるべきという他者配慮の視点は、どう育まれたのか。それを探るため、父・總一に話を聞いた。
「人間は生まれた時から自我が芽生えるまでは一方的な受け身の存在です。よって生まれた時には親の愛情が最も大切という意識を持って育てました。また実存主義を勉強していたこともあり、はるかが生まれた時から、『あなたが生まれてきたことに意味があるんだよ』、そして、本当に大切なことは目に見えないといったことを頭に置きながら育ててきたつもりです。またボーヴォワールの『人は女に生まれるのではない、女になるのだ』というとおり、男らしさ女らしさは社会が作っていくもの。だから、女として生きるよりも、人間として生きてほしい、といったことを考えていました」
 總一が影響を受けた実存主義は、この世の中で生きていく際に、形而上的な観念に囚われることなく、常に「あれかこれか」を主体的に決断する存在であることを念頭に置いた思想で、六〇年代の学生運動に流行した。そして母・美紀子も、そうした進歩的価値観に共鳴する女性だった。その両親が選んだのが子供の個性を尊重し、小中高一貫教育で知られる成城学園だった。当時同校では、校庭に相撲の土俵があり男女を分け隔てなく取り組みをさせたり、男女混合で騎馬戦を行うなど、両親が共感できる教育方針を採用していたという。
 両親が、米良を一人の人間として尊重していたことを示唆するこんなエピソードがある。
「大学に通い始めてからしばらく経ち、夏も近づいた頃、それまで夜十時頃だった帰宅時間が十二時過ぎになることがあった。なので厳しく叱ったんです。でも翌日も同じように帰宅時間が遅かった。その時諦めたんです。あっ、この娘は自立したんだなと。というのも、初めてだったんです、はるかが親が厳しく叱ったのに言うことを聞かなかったのは。それからは親の愛情を一方的に注ぐ対象ではなく、一人の人間として付き合おうと心がけて今に至っています」
 この娘への絶大な信頼、そして一人の人間として突き放す距離感。こうした中で米良の個性が育まれ、大学時代に知り合った恩師による自信を持たせる指導などの影響もあり、彼女の価値観が形成されていったようだ。
 また總一は、社会的弱者を差別してはいけない、といったことは徹底的に教え込んだと話し、今でも良き相談相手になっていることをうかがわせる。
「最近も、いま会社や社会では人間の生産性が評価の基準になるけれど、人間の価値はそういうところでは決まらない。おまえにも、そうした視点を持ってほしい、といったことで議論をすることはあります」
 さらに付け加えると、米良の両親は資生堂に勤務していたことが縁で結ばれた。父・總一は宣伝部、母・美紀子は広報部という部署で、それぞれ女性が美しく生きることについて情報発信してきたのだ。こうした両親を持ったことは米良が自分の社会的役割を考える際に影響したと考えるのが妥当ではなかろうか。
 これが機会は均等にあり、平等に夢を掴むチャンスが与えられるべき、という米良の発想の根底にあるようだ。
 今米良は、クラウドファンディングを会社の事業として発展させることに腐心している。より社会で求められる、会社の事業としてもっと発展できると考えるから。
 ますます女性の社会進出が待望される中で、米良の活躍が新しい女性の生き方のロールモデルになるか。今後の活動から目が離せない存在だ。
【READYFORとは?】
日本最大のクラウドファンディング。READYFORの提供しているのは「購入型」。この「購入型」のほか、「寄付型」「投資型」のクラウドファンディングも存在する。成約した案件の17%の手数料が同社の売上になる。プロジェクトの発案者は、個人、企業、NPO団体などと様々で、支援者が約9.7万人いる。2015年7月には、共同ピーアール株式会社と提携し、企業の広報やCSR(企業の社会的責任)に関する予算の有効活用の一助となる取り組みも開始した。資本金は1000万円、従業員は35人。本社所在地:東京都文京区根津1-1-19 根津宮本ビル3F
https://readyfor.jp/
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「いまどきの若いもん」解体新書 第2回

橋本保
はしもと・たもつ
1967年生まれ、東京都出身。情報誌などでITやモバイル関連の記事を執筆する。機器はもちろんだが、それを使う人々や、トレンドなどの現象を追いかけるのを得意とする。