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BOOK PEOPLE × 本の窓
  • 「いまどきの若いもん」
    解体新書
    第8回
  • 2016.5
橋本保/取材・文
普通の会社員の道を選ばず社会で注目を浴び始めている若者たちは、どんな風に育ち、いま何を考えているのか? 二十〜三十代で震災を経験し、ゆとり世代前後の彼・彼女らの本音と向き合い考察する
新條隼人(26歳)
(株式会社ドットライフ 代表取締役CEO)
釣  書
  • Photographs:Chisato Hikita
  • 新條隼人(しんじょう・はやと)
    平成元(1989)年7月5日生まれ
    現住所 東京都
    経歴 
    平成20(2008)年3月 都立小山台高校卒業
    同年4月 一橋大学商学部入学
    平成24(2012)年3月 同大卒業
    同年4月 ネットプロテクションズ社に入社
    平成25(2013)年12月 同社を退職
    平成26(2014)年1月 ドットライフ社を設立。代表取締役に就任
    同年2月 「アナザーライフ」をスタート
    年収
    「会社員のときよりは下がりました」※2016年3月現在の求人情報を見ると、初任給は24万4640円(みなし残業60時間分の時間外手当を含む)
    趣味・特技
    サッカー
    座右の銘
    There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.(シェイクスクピアの『ハムレット』第二幕第二場で主人公がいう有名な台詞。「善も悪も、その人の考え方次第」の意)。「友達からの誘いなど誘惑を断りながら受験勉強をしていたとき、一橋大学の過去問で知りました。後から自分を振り返ったとき、良かったと思えるよう行動するきっかけになった言葉です」
誰かの人生を代理体験して、困難を克服する
 身の回りの出来事を投稿し、知人や友人、見知らぬ人とも交流ができるインターネットサービスのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。ライン、フェイスブック、ツイッターなどは、その代表例である。これらのSNSでやり取りされるのは生活の断片的な出来事だが、より踏み込んだ人物像を描き出すインタビュー専門サイトという分野が、注目され始めている。
 新條隼人が手掛ける「another life.(アナザーライフ)」も、そうしたひとつに挙げられるサービスである。「一言でいえば、インタビューされた人を通じて“一日だけ、他の人の生き方や人生を追体験できる”のが『アナザーライフ』です。インタビューの対象は社会人が中心で、最高齢は戦争中に青春時代を過ごした八十八歳(取材当時)の女性です。客観的な成果を上げていたり、社会で評価されている人を取り上げるのではなく、自分が取り組んでいることに納得しているか否かを掲載基準にしているのが特徴で、普通のビジネスパースンから、農家、起業家など様々です」
 このサービスは二〇一四年二月から毎日一人ずつインタビュー記事を掲載している。一人あたりの記事は三千〜四千字。利用者の多くはスマートフォンで閲覧する。スマートフォンの利用者は数秒で別のページに移動するのが一般的だが、このサービスでは五〜十分も滞在し、インタビュー全文を読み通す読者が約七割に及ぶ。年齢、出身、過去の経験を大きく表示し、各人の生い立ち、人生の転機、現在置かれた状況、挫折、今後の展望など、いわば人生が描かれている。
↑「アナザーライフ」をスマートフォンで見た画面。若い世代が多いが、40代〜60代を対象にしたものもある。大きな写真と一緒に、どんな想いを持っているかなどがわかる見出しが掲出される。月額280円の有料サービスに登録すると、記事を保存して見やすく表示したり、特定の箇所を保存するなどの機能が使える。
「生きづらさ」「30歳 転職 失敗」というキーワードで訪れる読者も多く、人生の岐路に立たされた人が迷ったときに利用することも多いようだ。
「大きな成果を出したり、評価を得ていなくても、“人生”や“生きがい”という切り口ならば、普通の人でも誰かの先行者や経験者という面があり、インタビューをすると有益で魅力的な内容になる。サービス開始から二年間運営してきて、そうした実感を得ています」
 インタビューの文章は、どんな学校を卒業したか、どこの組織に所属をしたかなど、固有名詞は意図的に減らされ、その人が人生の転換期をどんな風に受け止めたか、それをどう克服したかなど心情や観念を表現することに力点が置かれている印象を受ける。そのため写真入りのインタビュー記事としてはリアルなのだが、多くの人を惹きつける小説のような雰囲気で綴られていく。それゆえか読者は素直に代理体験に誘われるようなのである。
 既に七百人をインタビューし、閲覧などの利用者は二桁万人を超えるという。インターネットならではの魅力を新條は次のように紹介する。
「このサービスは読者だけでなく、インタビューされた方にも価値を提供できるんです。インターネットは従来メディアと違い、送り手と受け手の関係がよりフラットです。よってインタビューを受ける方にとって『アナザーライフ』は、人生をネットワーク上に置くサービスになりうるのです。私達が一時間三十分程度の取材を行ない、その方のことを文章にして、インターネットに掲載する。この過程で自分のなかにもやもやとしていた感情や、うまく言葉にできなかったことが整理され、問題の本質が見えたなどの発見をしてもらっています。
 掲載した記事に読者が共感し、行動に繋がることも少なくありません。“私も同じように悩んでいて、記事を読んで、こう思いました”と熱心な反響があるほか、その人に会いに行った、クラウドファンディング(インターネットを利用して資金調達など支援を募るサービス)で支援額が一千万円以上増えたなどの事例があります」
 SNSのように断片的な生活の様子ではなく、まとまった時間のなかでの出来事や、その人が言語化すらしていない感情や想いがインタビューによって文章になり、それがインターネットで交流できるようにすれば、より深くより根源的に共感しあって、個人を訪ねたり、支援をするなどの交流が生まれる。それによってお互いの人生を豊かにする。「アナザーライフ」は、こんな世界観を持つという。ではどう事業化しているのだろう。
「有料メニューで、相談や交流の機会の提供など特典を設けているほか、介護職など求人難といわれている業種から求人広告として有益と評価されています。
 また四月からは、インタビューした記事を製本して贈り物として届ける『アナザーライフ ブック』も始めました。たとえば父の日や母の日、還暦のお祝い、結婚記念日など人生の節目になるタイミングで、インタビューした文章を本にします。そうすることで、その方の魅力や想いを誰かに広めたり、その人のことを深く知るきっかけを作ることができる。
『アナザーライフ』は“一般人の「情熱大陸」”に喩えることがあるのですが、インタビューにはドキュメンタリー的な価値がある。これを本というパッケージにしてお届けするのが『アナザーライフ ブック』です」
「情熱大陸」はTBS系列局で毎日曜日に放送されている密着取材型ドキュメンタリーで、この番組には様々な分野で活躍する人たちが登場する。従来の「アナザーライフ」でも似た体験ができるのだが、それに加えて文章が本になるのが『アナザーライフ ブック』。撮影を含む一時間半程度のインタビューを五千字程度にまとめ、ソフトカバーの本にして五冊までなら四万五千円、七千字でハードカバーなら七万円などのプランがある。これまでは毎日一人つまり毎月三十人ペースで掲載してきたが、自分をインタビューして欲しいと希望する方が数多くいるほか、自分もインタビューをしたいと希望する方も二桁規模で申し込みがある。
「今後はインタビューした話を自動的にテキストデータ化する仕組みも活用して、いまよりもハイペースで対応する体制を整えていきます。人生の節目や、少し立ち止まって振り返ってみたいと思う方が活用する“人生支援プラットフォーム”として億単位の利用者を目指します」
 就職、転職、結婚、出産、病気、挫折、うつ、燃え尽きといった人生の転機や躓きを迎えたときに、自分を見つめ直すきっかけや、アドバイスなどが得られるきっかけを作る。こうした人生の困難や試練に直面したとき、従来は家族や友人、同僚や先輩、医師やカウンセラーなど、人と人の信頼あるつながりのなかで解決の緒を探すことができた。しかし、社会環境の変化などにより人間関係の希薄化が進んでいるためか、従来の方法では受け止めきれない要求が出てきているのだろう。SNSなどとは違う形の人々の交流を生み出し、自分がこんなことをやりたい、こうありたいといった自己実現の支援ができないか──新條は、こんなことを考えているようだ。
 前述の広告では、経産省、広島県、福岡市など公的機関からの受注や連携の実績もあり、こうしたことからも「アナザーライフ」は評価されつつあることが窺える。
自分の人生は自分で切り拓け、と教育された
 自己実現の支援をする“人生支援プラットフォーム”。このサービスのアイデアは、大学一年生のときに母校の高校で進路講演会で講師をしたことに遡る。
「高校二年生向けに、大学受験に備えた授業選択を先輩から聞く趣旨の講演会でした。でも、うちの高校は全員が大学に行くような進学校ではないんです。なので大学へ行くのが前提なことに違和感を感じました。仮に美容師になりたいなら大学に進学すべきではないはず。なので、なりたいものや、やりたいことによっては専門学校や就職するほうが良いかもしれないと話をしました。
 すると“今日の話で世界が広がった、救われた”などの反応があり、嬉しさと驚きがありました。自分は彼らよりも二年先に生まれただけ。それなのに、人生の岐路に立ったときの道標を示せた気がしたからです」
 起業は学生時代から考えていた。自分一代でどこまで社会に影響を与えられるかを思う勝ち気な性格だからと振り返る。また父親が、会社員から祖父の代より続く呉服職人に転職したが、この先は大変だから家業を継ぐなと言われていたことも理由のひとつに挙げる。
「自分では、矢沢永吉の“成りあがり”ではないですが、雑草のような家庭に生まれた自分が一代でどれだけ社会に影響を与えられるかを考えていました。経済的理由で大学は自宅から通える国公立という縛りがありましたし、高校受験で失敗したので、大学受験で挽回し、起業して頑張ろうと考えていたんです」
 新條はある取材で「自分の人生は自分で切り拓きなさい」と教育されたと答えている。なぜ、そういう教育方針なのか。母・千佳子は、自分の経験の影響と話す。
「私は、十八歳で四国から上京して大学に通い、こちらで就職、結婚、出産を経験しました。若いときから親元から離れたことも影響しているのか、誰かに頼ってうまくやるとか、良い大学に入ると人生がうまくいくといったことは信じられないんです。自分の人生は、自らの知恵、体力、気力で切り拓いていくものですからね」
 そして受験は社会に出てから困難に立ち向かうための訓練のひとつ、と千佳子は捉える。社会に出たとき良いスタートが切れるからと一貫校に通わせ、受験という訓練の機会を奪うのは本末転倒という考えを持っていた。
 こうした親の教育方針だけで新條の価値観が形成されたわけではないだろうが、影響は少なくなかったと想像できる。さらに千佳子には、こんな合理的な面もある。
「一橋大学に合格したときの学費は年間約五十万円、私立なら百万円を下らないでしょうから、“あなたが浪人もせず、国立の大学に合格したことは家計を二百万円も助けた”と話をした記憶があります」
 千佳子は家族を団体競技に喩え、私は攻撃して得点を得る、つまり稼ぐのが得意なので、そこで頑張り、夫は家事や子育てなど守備が得意なので、そうした役割を担ったという。女・母・妻の三つの役割のうち、女ばかりと夫婦でからかいあい、夫は自分を“時代の先端を行くイクメン”と自負する仲睦まじい夫婦と言う。さらに新條は、志望校に合格して貢献した。それぞれが自分の役割を果たし、「家族」であろうと銘々が努力する。こうした空気のなかで育ったゆえに、成り上がろうとする自立心を持ちつつ、「家族」という社会の最小単位の役に立ちたいと新條は考えるようになったのかもしれない。
 人生の難問や岐路にぶつかったとき、他人の生き方を通じて問題解決を目指す「アナザーライフ」。いまの若者が何を考え、何に悩み、どう克服をしようとしているかを知る一助になるだろう。
【アナザーライフとは?】
納得感を持って仕事や生活をしている方を毎日ひとりずつ紹介し、その代理体験を通じて、「やりたいことをやる人生を、あたりまえに」できるようにすることを目指すサービス。毎日インタビューが掲載され、それを通じて諦めずに済む人生の一助となることを目指している。若手の起業家に積極的な投資するベンチャーキャピタル「サムライインキュベート」から出資を受けてスタート。本文中で触れた「アナザーライフ ブック」など新メニューも用意するなど、第2ステージに入りつつある。資本金は約700万円。従業員は2名のほか、外部スタッフ約20名とサービスを運営する。
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