「本」と「人」を結ぶHOT LINKS BOOK PEOPLE
BOOK PEOPLE × 本の窓
  • 「いまどきの若いもん」
    解体新書
    第13回
  • 2017.2
橋本保/取材・文
隔月で行なわれる「タイタンライブ」の準備時間の一コマ。舞台脇を降りたこの付近は毎回爆笑問題の入りを待ち、挨拶をするところ。舞台では徹底的にディテールを作り込み、限界に挑戦するきわどいコントで、強烈な笑いを演じるが、普段は内気でふつうな女性二人組である。
日本エレキテル連合
中野聡子(33歳) 
橋本小雪(32歳)
お笑いコンビ
「ダメよ〜、ダメダメ」の流行語を生んだことで知られる日本エレキテル連合。ふたりが演じるコントには、細かい人物設定や状況設定があり、単なるお笑いにとどまらない深さがある。そのルーツはどこにあるのか。
Photographs:Maki Matsuda
 年嵩男の細貝さんが「ねぇ〜、いいじゃないの」と迫るが、思い通りになるはずのラブドール・未亡人朱美ちゃん3号は「ダメよ〜、ダメダメ」と拒む。このコントで二〇一四年の新語・流行語大賞受賞など一世を風靡した日本エレキテル連合の中野聡子と橋本小雪のふたり。細貝さん役の中野は「流行が一段落してからは犯罪者を見るようだったり、子どもから『なんだ、ドサ回りかよ』とか言われるのには心が痛みました。同じ人なのに優しくなったり、冷たくなったりして、人間不信になるくらい」で、朱美ちゃん役の橋本は「ドラマの一場面のようなことが、本当におきた」と話す。
 中野と橋本がコンビを結成したのは二〇〇八年十月。大阪の芸人養成所で知り合い、橋本が自分ひとりでお笑いをすることに限界を感じ、土下座して中野に懇願したことが一緒になったきっかけである。そのとき中野は「すべて私のいうことを聞き、身の回りの世話でもなんでもする?」と条件を出し、それを橋本は承諾した。
 上京から昨年春まで借家に同居していたふたりだが、収入が増えたので、別々に暮らすことを決めた。中野は家事など身の回りのことが苦手で、橋本の世話なしには生活が出来ないところがある。そのため引っ越しを決めたが、ずるずると先延ばしにしていた。それに業を煮やした橋本は、中野が外出した数時間のすきに家財道具一切を持って出ていった。ただし、引越先は自転車で数分のところ。その顛末を東京スポーツが〈エレキテル連合別居発覚!! 解散危機〉とユーモラスに報じたり、昨年末にはいくつものラジオ番組から声がかかり、近況や流行語大賞の行方などについて聞かれるなど、「そういえば、どうしているだろう」と気になる存在である。
数々のコントは、
爆笑問題、志村けん、
ビートたけしを
目指して作られる
 ふたりには共通して敬い、憧れるお笑い芸人の先輩がいる。まずは爆笑問題の太田光と田中裕二である。
「爆笑問題さんのような漫才がしたくて、コンビ結成後に一度だけ漫才をやったんです。私(中野)がボケで、橋本がツッコミ。でも私は致命的に口べただし、橋本も間が悪い。最初の公演で大コケし、コント路線に切り替えました。爆笑問題さんのコントが好きだったことも理由にあります。ずっと前から原発問題などタブーに斬り込む感じをやっていたし、いじめなどの社会問題を扱うのだけれど、皮肉が入っていて、単純に見ていて面白かった」
 コント路線に切り替えて仕切り直しをしたが、演じたいキャラクターがどんどん増えるに伴い、凝り性なことも重なって衣装代が重くのしかかる。友人などからの借金が百五十万円くらいまで膨れ上がったので、活動を一時中断する。そして半年後に「爆笑問題さんの事務所・タイタンに入りたかった」(中野)ため、上京する。マネージャーの中西隆浩は「新人のネタ見せで、あれほど面白かった芸人はいなかった」と振り返る。
「ネタは愛人役の橋本と、本妻役の中野が、ぬいぐるみの田所先生という政治家を奪い合ううちに殺してしまう内容でした。死体をどうしようかとおろおろする愛人に、担ぎ出しやすくコンパクトになるミウラ折りで畳みなさいと本妻が指示する。当時ミウラ折りは人工衛星のパネルを畳む技術として話題になっていて、社長にもウケて合格になったことを覚えています」
 上京した理由はもうひとつあった。
「志村けんさんの出身地の東村山市に住み、同じ空を見て生活したらいいコントが作れると思ったんです。いまかつらをかぶってお化粧をしたり、テープを貼って表情を作り、顔で笑わせるのってレベルが低いって言われるんですけれど、こうするとこまごま言葉で説明せずに見れば一発でわかるので極端なデフォルメをしている。ある日、自分たちは知らないうちに志村さんのバカ殿なんかに影響されていたことに気づいたんです。いまの芸風は志村さんなしにはありえなかったです」
 さらにビートたけしもふたりにとっては大事な存在である。中野は、次のようなエピソードを披露する。
「『キッズ・リターン』が好きで、こんな作品を作れる方はすごいと思った。あと言っちゃいけないことを言っても許される数少ないひとりですよね、すごく憧れます。
 短大生(当時19歳)のときに上京し、たけしさんがエレベーターボーイをしていた浅草のフランス座(実際には東洋館)のエレベーターに行って記念撮影をしたことがあるんです。その写真を、たけしさんとご一緒したときにお見せしたらサインをしてくれたんです。そして『(芸風を)かえなくていい。いまのままやり続けろ』とお言葉をいただいたんです。それがすごく励みになっています」
 爆笑問題に憧れて同じ事務所の門をたたき、志村けんのコントに近づくために東村山市で生活し、ビートたけしの言葉を励みに芸を磨く。派手に作られたキャラクターが繰り広げる、ときには過激なコントは、若き日の大先輩たちを目指しているところが少なくない。
人を笑わすことを
出来るのが気持ちいい
現実世界で出せないことを
演じるのが楽しい
「“ダメよ〜、ダメダメ”で子どもから大人までたくさんの人に私たちのことを知っていただけたのですが、コントの中身を知らない人は多いんです。にもかかわらず、子どもたちも(ダメよ〜、ダメダメ≠)口にしていましたね。ザ・ドリフターズのカトちゃんの『ちょっとだけよ』も、あの頃は子どもにはけしからんと問題になったのに、結構流行ったじゃないですか。流行語ってそういうものなのかもしれません。ただ私たちのコントは大人向け。子どもには“気持ち悪い〜”などと“トラウマ”を与えられればいい」
 こう話す中野によると「(東村山市に隣接する)小平市在住の細貝さんは、独居老人で、民生委員の人が様子を見に来るような男性」と細かい人物設定がある。二〇一五年に発売されたキャラクター紹介本『電気倶楽部』(太田出版)には次のような解説がある。
中野 細貝さんは元鉄道マンという設定。鉄道マンって言っても、作る方なのか運転手なのかわからないけど。あ、でも「大江戸線掘った」って言ってたか。
橋本 出身は湯布院だけど、疎開したり集団就職で小平に出てきたりで、いろいろな土地を転々としてきた。
中野 だから訛りが独特なんだよね、大分弁でなくて。いろんなところを転々としていたので、いろんな言葉が混ざったイントネーションになっちゃった。これは私のオリジナル。
橋本 朱美ちゃんはすごくおしゃれで、お出かけするときにはおめかししていくんだよね。鏡が好きで、ずーっと鏡を見てるし、細貝さんにはずっと靴と口紅をおねだりしているの。「靴、買っテ」
 細貝さんや朱美ちゃんのようなキャラクターは百以上もあり、その衣装や小道具は五百点を超える。
 一例を挙げると官能小説家の木茂井一物と、奉公人の少女ゆみちゃん(七歳)、尾崎紅葉の小説『金色夜叉』の貫一とお宮をパロディ化した貫一と宮子、人間の姿に化けたニジマスの精霊のオスとメス、“浪速たこ焼き丸”と名付けたワゴン車に乗るダメチンピラのケンと一途なあまりいつも騙される彼女のクミ、若者を神社に集めるために祝詞や参拝方法などをノリノリのラップで歌う宮司と巫女、性別も国籍も不明で妖艶な雰囲気の三好、どんな役が来ても「YES!」と引き受け、どんどん顔が変わる女優の高須クリ子、「女の握る寿司なんか食えるか!」と男尊女卑むき出しのパク☆とおるなど、老若男女、古今東西、人間界から幽冥界まで、タブー、差別、偏見などにはお構いなしにキャラクターが存在する。
 こうした設定は基本的には中野が考え、橋本とふたりでキャラクターを仕上げていく。たとえば木茂井一物とゆみちゃんは「スタンリー・キューブリックの映画『ロリータ』に小説家が靴下を片方隠してしまうシーンがあるんです。これをヒントに木茂井先生にゆみちゃんの靴を履かせている」(中野)という風に作られ、「最初、木茂井先生がゆみちゃんの前でガウンをはだけて悲鳴をあげさせるっていうのがやりたかった。顔はチャップリンとダリと谷村新司さんを足して三で割った感じのメイクです」と、その出来上がる過程を橋本は話す。
 映画や小説、神話や伝承などをネタにするほかに、ふたりの観察眼から着想したものもある。その典型である細貝さんと朱美ちゃんは、こんな出来事から生まれた。
↑小平市に住む独居老人の細貝さんと、おしゃべりワイフシリーズ(空気式)の未亡人朱美ちゃん。右目の下の泣きぼくろは細貝さんの好みで付けたオプション(1万円)。朱美ちゃんにはTENGA(男性用の性具)が入っている。言語設定で英語や韓国語などに切り替えも可能。
中野 これは東村山のファミレスでネタ作りをしていたとき、本当に見たおじさんと女性をモデルにして作ったネタです。
橋本 一緒にいた女性をずーっと口説き続けてたんだよね。
中野 男の人の顔が(引用注:演歌歌手の)宮史郎さんそっくりで、そこでまずビックリした。「すごい人がいる!」って。そしたらずっと女性を口説いているし。さすがに「いいじゃないの〜」は言っていなかったけど、「かわいい唇してえ」とか。
橋本 それはホントに言ってた。私、メモしたもん。彼女の方も、はっきり断ればいいのにずっと「う〜〜ん」「う〜〜ん」ってはぐらかしてて、異様な光景だったね〜。(前掲書)
 こうした背景を知ると、細貝さんの朱美ちゃんに対する老いらくの恋のおかしさだけでなく、寂しさや哀しさ、そして近未来を想像させるロボットとの関係など、徹底的に人間を描いていることがわかる。笑えるコントではあるが、その人間描写が深く、多面的ゆえに、どこか小説を読んだような気分にさせるのである。
 最後に、人を笑わせることの楽しさを中野に聞いた。
「崇高な仕事、だからですかね。ただ正直、お笑いじゃなくても良かったんですが、尊敬する方がお笑い芸人だった。あと人を笑わせることって、とても難しい反面、出来たときは気持ちいい。私のような社会不適合者≠ネんかが人を笑わせているという操っている感じが気持ちがいいんです。人は、誰もが正気でない部分を持っていると思う。私自身は現実世界では気が小さく、それは出せないし、実際にやったら犯罪になっちゃう。でも舞台では無制限に演じられる。それが楽しいんです」
 テレビでは見かけることは少ないが、一昨年は全国で十九公演、昨年は東京と大阪で十公演の単独ライブを実施し、熱心なファンたちが駆けつける。昨年単独公演時には、J-GODSと呼ぶ宮司と巫女のラップユニットが誕生。楽曲「HARAETAMAE KIYOMETAMAE」(祝詞の“祓えたまえ、清めたまえ”の意)を音楽配信サイトで発売するなど、ふたりの周辺がざわざわしてきている。
お笑いコンビ 日本エレキテル連合
  • 右/中野聡子(33歳)1983年11月12日生まれ
    左/橋本小雪(32歳)1984年11月13日生まれ
  • なかの・そうこは、愛媛県出身。はしもと・こゆきは兵庫県出身。大阪の芸人養成所で知り合い、2008年10月にコンビを結成。2010年4月からタイタン所属。2013年3月に「未亡人朱美ちゃん3号」を初披露、2014年に「ダメよ〜、ダメダメ」が流行語になる。2016年12月には最新DVD『日本エレキテル連合単独公演「電氣ノ社 〜掛けまくも畏き電荷の大前〜」』と撮り下ろしのコント集『皆中』が2枚同時発売された。中野の趣味は少女の絵を描くこと、衣装、小道具集め。橋本は一眼レフカメラでの撮影に凝っている。