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  • 私の一冊
    『錯迷』
    堂場瞬一
    平井真実
    (八重洲ブックセンター京急百貨店上大岡店)
  • 2017.5
古都鎌倉を舞台にした
警察小説の新境地
「男は敷居を跨げば七人の敵あり」という諺があるが、七人どころか、信頼の上でなりたっており家族も同然である職場の人間が全て敵かもしれないという状況の中に放り込まれたら、あなたならどうするだろうか。
 堂場瞬一『錯迷』はまさにそんな状況だ。
 神奈川県警本部県警捜査一課長補佐・萩原哲郎は、警視になって三年目。まだ駆け出しといっていいほどであるのに突然鎌倉南署の署長という異例人事を受ける。
 そこには裏の特命も秘めていた。
 それは鎌倉南署前署長・桜庭里佳子の突然の死の解明。自殺ではないのかという噂の中、鎌倉南署は広報にも連絡せず心不全として独断でマスコミに発表をしてしまう。署内ぐるみでなにかを隠蔽しようとしているのではないか。
 敵の檻の中に一人で飛び込んでいった萩原は署長という表の仕事をしながら、少しずつ桜庭前署長の仕事ぶりや生活を調査していく。そんな中でも署内の人間に常に監視されている感じが否めない。整理されすぎている署長室。引き継いだパソコンの中にはファイルもメールすらも残っていない。突然死したとするには不自然すぎる状況がここにはある。やはり自殺なのだろうか。
 男社会の中で竹のようにしなやかに署長という垣根を越え、全署員にしっかりと向かい合っていたという桜庭は、ある時から仕事に逃げるように打ち込んでいたという。大事件もほとんどない古都鎌倉において、なにを忙しくしていたのか。それが自殺の原因なのか、それならなぜ署は危険を冒してまで隠すのか。
 そんな中、鎌倉南署所轄内で殺人事件が起こる。五年前にやはり同じく起こった殺人事件に関連していることがわかったこの事件に、さらなる被害者が出る。調べていくと桜庭前署長はこの五年前に起こった殺人事件に対して刑事課に内偵捜査をしていたふしがあるという。
 静かな古都鎌倉でなにが起こっているのか、本当に鎌倉南署はなにかを隠蔽しているのか、そして桜庭前署長は心不全だったのか、自殺なのか、それとも……。

 冒頭から疑心暗鬼に苛まれ、孤立無援で闘い抜く萩原と同じ感情を、読んでいるこちらにもひしひしと抱かせる。外で七人の敵と常に闘っているサラリーマンやOLさんだけに留まらず、様々な困難を抱えつつも日々を生き抜いている全国の人に読んでいただきたい作品だ。

 先日家から近いがなかなか行かない鎌倉にこの『錯迷』を持って行ってきた。堂場さんの作品の中の緻密な情景描写も堂場ファンとしては楽しみの一つであり、思わず作品の舞台にふらりと行ってみたくなる。一の鳥居の近くの鎌倉南署のモデルの建物も、表紙の男性とともに描かれている建物も(古い建物ながらも中はバーになっていた)、萩原がランチに行く回転ずしもKINOKUNIYAも存在しており、作品の空気感も味わうことができる。久々に降り立った鎌倉駅西口の御成通りは平日だが人も多く、萩原と同僚の夏美がブレンドを頼んだお店も満席だったがカウンター席が一つ空いており、ひっそりと楽しんできた。二回目、三回目とこの作品を読むときは、鎌倉で雰囲気を味わいながらゆったりと楽しんでみてください。
  • 『錯迷』
    堂場瞬一/著
    定価:本体1,700円+税
    小学館・刊 四六判 368ページ
    ISBN 978-4-09-386465-7
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