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BOOK PEOPLE × 本の窓
  • 「いまどきの若いもん」
    解体新書
    第15回
  • 2017.5
橋本保/取材・文
「あぐらのポーズで」とお願いすると、「あぐらをかく、あぐら、あぐら、あぐらってどんな意味?」と子どものように質問をする。この日は朝から夜まで、びっしりスケジュールが埋まっていた。「本当は家族と過ごす時間を増やしたい。ちょっと働きすぎ」とこぼす。
厚切りジェイソン(31歳)
1986年4月9日生まれ
IT企業役員・お笑い芸人
IT企業の役員でありながらお笑い芸人となり、日本のヘンなところをネタに活躍する厚切りジェイソン。笑いで柔らかく包み込んでいるものの、実は震災後の日本に対して警鐘を乱打していた。
Photographs:Chisato Hikita
「ホワイ ジャパニーズ
ピープル?」
のキレ芸で
知られる外国人芸人が
日本人に伝えたい本音
 日本と外国の違いや、外国人から見た日本などを切り口にしたテレビ番組が増えている。そのなかで目立つ存在が「ホワイ ジャパニーズピープル?(日本人は、なぜ?)」の絶叫で知られる三十一歳の青年アメリカ人、厚切りジェイソンである。芸名は神奈川県厚木市に住んでいることに由来し、芸能活動は二〇一四年九月から始めた。デビューの四か月後には、ひとり芸人の日本一を決める「R−1ぐらんぷり 2015」(フジテレビ系)の決勝戦に進出し、一躍有名になる。
 おなじみのネタは、ホワイトボードに漢字を書き、本人がおかしいと思ったことを「ホワァ〜イ!」と絶叫するもの。以下は、アメリカからやってきて日本語を勉強中と自己紹介をした後、「漢字、ムズカシイよぉ。でも、わかる漢字もあります」と言って始める漢数字のネタだ。

  たとえば一。(ヨコ線だけだから)カンタンだね
  そのまんま。(その次の)二、三
  あはぁ〜、これ(ヨコ線を増やす)パターンね
  見えてきたよ! もしかたら漢字イケるかも
  と思わせて、いきなり……、四っ!
  ホワァ〜イ、ジャパニーズピープル!!
  わぁ、ざぁ、とだろう、この罠っ。漢字ムズカシぃ

 一昨年秋には、日本人や日本文化に感じたことをまとめた『日本のみなさんにお伝えしたい48のWhy』(ぴあ書籍)を出版する。同書は、〈僕は日本に刺激を与えたいと思います。素晴らしい国、日本がグローバルになりつつある市場でほかの国と比べて競合力が落ちていくのを見るのは悲しすぎます。少しでも違う視点を考えさせるために、TwitterなどのSNSで人生相談を始めました。本書はSNSによせられた多くの質問に対して、僕が答えた内容を抜粋し、さらに解説を加えました〉(「はじめに」より引用)という視点で作られた。日本人には耳の痛いことも含む、言いたい放題の内容ゆえ、売れ行きは期待していなかったが、累計部数は八万五千部を突破した。この本の内容にも関連した相談事をやり取りするTwitterは、さらに盛り上がる。
↑漢字ネタは彼の十八番。このほか「魚偏に京の鯨、鯨は哺乳類だろ〜!」、「けもの偏に守で狩、狩りって、けものを守るどころか襲うだろう」など、漢字を学ぶ難しさを訴える。
 最近は「小池百合子都知事は自分が強調したいことを言うときには、あえてカタカナ語を使う」など時事ネタのコメンテーターをしたり、NHKEテレでプログラミングや英会話の番組にレギュラー出演するなど、仕事の幅を広げている。さらに昨年末には本格的な英語学習用教材『ジェイソン式英語トレーニング 覚えない英英単語400』(主婦と生活社)を発売した。
「たとえばダイエットをしたいと思ったら、適度な運動や、カロリー制限をするなど、ツラいことをする必要がある。やりたくないかもしれないけれど、それをすれば誰でも確実に痩せられる。でも、そういうのは流行らないし、商品としては売れない。一方、これだけすれば、運動しなくても、普通に食事をしていても痩せるというのがあったら、みんなに注目されるし、売れるでしょ。でもダイエットは成功しない。この本は、買うだけでペラペラになります、という本ではない。僕は役に立つ本、英語学習に効く本を作りたかったんです」
 この本はお笑い芸人のイメージとはかけ離れた、本格的な英語学習教材で、高校英語の教科書の頻出単語四百語を収録している。三月には重版が決定し、一万部を超える売れ行きと、決して悪くはない。
 本人は「テレビでは自分の考えを、エンターテインメントを加味して伝えることができるかが大事」との自覚があるため、その発言内容は笑いで軽く流されてしまいがちだが、著書の内容からもわかるとおり、実は日本人や日本社会に向けて手厳しいアドバイスであったり、根源的な問題について、警鐘を鳴らしているのである。
「日本では教育の目的が、周りと違う意見を持たないことを教えているのではないか、と考えることがあります。いま私には三人の娘がいて、そのうち幼稚園に通っている長女が、授業で紙飛行機を作ったことを話してくれたことがありました。そのときに『どんなものを作ったの?』と聞くと、『先生が言うように』と答えてきたので、『自分の好きな形は作れないの?』とたずねた。すると『言うようにしないと怒られる』と言ってきた。おかしいでしょ! 最近は、『幼稚園ではそう教えるかもしれないけれど、本当はこうなんだよ』と伝え、諦めています。
 言われたとおりをやるだけ、言われたことを暗記するだけ、そして疑問を持たない。そういう教育はどうなんだろう。それだと、いろいろな人がいる価値がないと思うんです。みんな同じだと、入れ替わりできる部品になってしまう。昔は工場など、順応性が高いほうが向いている仕事はあったけれど、いまの時代は、考える人が必要です。それに合った教育が必要ではないでしょうか」
 日本人は自分の意見を言おうとしない。もしかしたら自分の意見を持っていないのかもしれない。そうした印象を、最初の書籍『日本のみなさんにお伝えしたい48のWhy』が売れたときの反応から感じていた。
「Twitterで送られてくる質問がかぶっているんです。『自信がないけれど、どうしたら良いか』『やりたいことがわからない』とか、それはそれでいい。ただ、あまりに同じ質問ばかり来る。既に答えているにもかかわらず、同じことを聞いてくるなど、知識を自分で探そうとしないのは、どうなのかなぁ。なので、よくある質問という別のブログを作ってそこにリンクを貼り、あと詳しくは本を読んで下さいとしていますよ。
 難しい社会問題をテーマにした番組や、トーク番組で声がかかるのは、明らかに外国人だからでしょ。人伝に聞いたのですが、僕とマツコ・デラックスさんは、普通の日本人から離れ過ぎているから、本当は言いたいけれど、言えないことが言ってもらえる。そういうキャラとして(視聴者から)ウケるようなんです。日本人が言ったら怒られたり反発されることでも『外国人が言うんだから』と、済まされる。この前ホリエモン(堀江貴文)さんと収録が一緒になったときに、こんなことを言われました。彼が過去に同じ内容のことを言ったときには反感を買ったのに、ジェイソンが言うと、そうだ、そうだと共感される。おかしいでしょ! って。
 僕が言ったことを外国人である『厚切りジェイソンが言っていたよ』ということで、自分の言葉ではないけれど、意見表明のようにも使える。その意味では、便利な道具なんですよ、僕は」
受け止める日本人の
感覚によって
発言が塩っぱいか、
いい塩梅かが決まる
 道具との自覚がある厚切りジェイソンが訴えても、反応が鈍いのが女性への差別や偏見である。
「ある会社でのことです。部下の男性と女性のどちらに仕事を与えるかを判断する際、女性は妊娠するからといって男性を選ぶ。実際には、女性のほうが能力が高いにもかかわらずです。それは本当におかしい。アメリカなら違法だし、これを指摘しても、全然変わらない。
 あと女性への偏見があり、(男性の)性的オブジェクトにしているようにも思える。子ども向けのマンガ雑誌に水着姿のアイドルの写真があったり、コンビニでは飲料のとなりに成人向け雑誌が並んでいるなど、アメリカでは考えられない。これはおかしいよ。アイドル文化も普通のアメリカ人の感覚からすると、正直に言って気持ち悪い。十代前半の女性が肌を露出して仕事をしていることに違和感を感じないのは、なぜ? ホワイ ジャパニーズピープル? だよ!!」
 少し補足すると、彼が指摘するケースは男女雇用機会均等法第六条に抵触する蓋然性が高く、日本でも違法となる。このほか今年一月からマタニティハラスメント(マタハラ)を防止するための措置が事業主に義務付けられるなど、この分野の法的環境は整いつつある。コンビニにおける成人向け雑誌の扱いについては、昨年は堺市(大阪府)、今年は千葉市で新たな取り組みを行なうなどの動きがあるほか、長年議論が続いている。
 ただ一外国人として日本のことがよく見えるという彼の存在はエンターテインメントを通じて、社会問題を可視化する役割を果たしつつあるのかもしれない。
 では日本が嫌いになっているのか、と質問すると、決してそうではないと本人は話す。ちなみに厚切りジェイソンは、東証マザーズに上場する日本のIT企業の社員で、子会社の役員という顔も持っている。さらに遡ると、コンピュータ・サイエンスの研究者をしていた二〇〇五年に来日し、日本の大手企業の研究所員として働いていたこともある。その後帰国して、発明王・エジソンが起業したゼネラル・エレクトリック社(GE)に入るが、一生懸命勉強した日本語を活かしたいこともあり、今とは別の会社を経て、現在に至る。二〇一一年に再来日し、その二週間後に東日本大震災に遭遇した。
「最初に来日した二〇〇五年のときは国際的な研究機関での勤務だったので会話はすべて英語だし、外国人ばかりと接していたので日本にいる感覚は強くなかった。再び来日してから日本のことがわかりはじめたんです。
 一般論として、はじめて海外に行くと、魔法にかけられているような感じで、すべてがよく見える。その後、ちょっと慣れていくと、普通になる。もう少し経つと、寂しくなったり、自分の国の良いところが恋しくなるというサイクルがある。とくにビジネスに関して、日本のヘンなところが目につく感じですね。
 ただ自分にスキルがあり、自分にできること、そして世の中が必要としていること、これが一致していれば最大のことができる。僕が日本の生活に馴染んだのは東日本大震災後なので、それ以前のことはよくわからないけれど、自分は日本でこそ活躍できると思っている。いまタレントと会社役員の仕事のほかに、ベンチャー企業に投資する活動も始めたんです。投資金額は少なくても、僕が出資することで世間に注目されたり、メディアに取り上げられる可能性が広がるから。同じことをアメリカでしても、『ジェイソンって誰?』ってことになるから。日本で新しいことに挑戦する若者を応援したいので、いまはドローン(遠隔操作や自律制御で動く無人飛行体)を開発する会社などに出資しています」
 厚切りジェイソンの父は教会で説教をするほど熱心なクリスチャンで、自身も「人間にとって大切なものの優先順位は、信仰、家族、友人、そして仕事」という。震災後の大きく変化する日本社会で、彼は「地の塩」となろうとしているようである。厚切りジェイソンの言葉を塩っぱく感じるか、いい塩梅かは、それを受け止める日本人によって変わる。彼がお笑いというオブラートに包んでいる塩気が何なのかを考える良い機会になるはずだ。
あつぎりじぇいそん
  • 米ミシガン州出身。17歳でミシガン州立大学に飛び級入学し、イリノイ大学でコンピュータ・サイエンスの修士号取得。外国語科目で日本語を選択したのがきっかけで、日本語を学び始める。2005年に来日した際に、お笑い番組「エンタの神様」や、テレビドラマ「銭ゲバ」(ともに日本テレビ系)などの面白さにはまる。再来日後は、土日など週末にお笑いの訓練をして、お笑い芸人デビューを果たす。