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BOOK PEOPLE × 本の窓
  • 自著を語る
    高千穂遙
    『ペダリング・ハイ』
  • 2017.12
最初の一歩
 四冊目の自転車小説を上梓した。
 最初に書いた自転車小説は『ヒルクライマー』(小学館)である。ロードバイクで山に登るレースを描いた作品だ。
 二作目は『グランプリ』(早川書房)。競輪をテーマにした。三作目も競輪で、ガールズケイリンの選手を主人公に据えた『ケイリン探偵ゆらち 女流漫画家殺人事件』(小学館)というミステリーである。もっとも、この「ゆらち」は、自転車小説には入らないかもしれない。主人公がプロの自転車選手となっているものの、内容はほぼ完全に殺人事件とその謎解きだ。
 今回書いた作品はロードレースをテーマとした。それも、ホビーレースや高校、大学のレースではなく、実業団のレースである。
 テニス、水泳、バドミントン、バレーボール、陸上など実業団のスポーツ競技はいろいろとあるが、ロードバイクの実業団レースは、はっきり言ってあまり知られていない。むしろ知っている人のほうが少ないくらいだろう。とても残念である。
 主人公は、上京してきたばかりの大学一年生だ。かれが入るのは、街の自転車ショップが主宰する、メンバーがおじさんばかりのチームである。
 実業団のレースは、アマチュアとプロとでカテゴリーが異なる。アマチュアはE(エリート)カテゴリーに属し、E3、E2、E1と階層化されている(女子選手はF)。プロチームの選手はPカテゴリーで、Jプロツアーというシリーズレースを戦っている。
 実業団のロードレースに出場しようとする人は、まずE3に登録される。相撲で言うと序の口だ。スタートラインである。ここで成績をあげると、E2へと昇格できる。3位以内に入れば、一発昇格だ。年間ポイントを規定値以上取得することでも昇格できる。
 本作は、この実業団ヒエラルキーの最下層に位置するE3のレースに焦点を当てた。ロードレースを描いた漫画や小説が昨今増えているが、このカテゴリーをとりあげた作品はほとんどない。というか、皆無かもしれない。いや、たぶん一作もないだろう。
 しかし、わたしは、このE3が日本のロードレースシーンにおいて、ひじょうに重要な役割を担っていると見た。入門がなければ、その先はない。世界に挑む人たちも、最初の一歩はまずここである。E3からはじめてさまざまなレースを戦い抜き、アマチュアのトップに登りつめる。プロ選手として契約。世界に進出。さらにはツール・ド・フランスへ……。そのための出発点がE3にはある。
 そして。
 本作で描きたかったことがもうひとつ。
 主人公をロードレースの世界へと強引に引きずりこんだおじさんたちだ。
 仕事をしながらレースに挑戦しつづける三十代後半から四十代のおじさんたちのひたむきな姿である。野球やサッカーなどの人気スポーツに押されているとか、機材に予算がかかりすぎる、遠征費用が負担になるといった理由でロードレースは若い人に敬遠されがちだ。そんな中、忙しいスケジュールをやりくりして練習をつづけ、各地のレースに出場しているおじさんたちがいる。かれらもまた、日本のロードレースシーンにおいては、立派な主役だ。若い選手たちにとっての高い壁である。レースを大きく盛りあげるためのキーマンと言っていい。
 わたしは、そのおじさんたちの熱い思いを作品中にちりばめた。その思い、多くの方に読みとっていただければ幸いだ。心から、そう願っている。おじさんたちは、すごいのだ。
  • 『ペダリング・ハイ』
    高千穂遙/著
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    ISBN 978-4-09-386485-5
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    四六判 320ページ
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