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BOOK PEOPLE × 本の窓
  • 自著を語る4
    綿谷 寛
    『STYLE
    男のファッションはボクが描いてきた
  • 2018.6
四十年分のイラスト
 本書は、イラストレーター生活四十年目にして自身初となる作品集である。一九七九年に雑誌「ポパイ」でデビュー以来今日まで、男性誌を中心に様々なジャンル、媒体に描いてきたが、本書では一番の得意ジャンルであるメンズファッションイラストを中心に、家族やカップル、仲間などをテーマに、過去四十年の間に発表した作品から厳選した百七十五点のイラストが収録されている。
 僕の画風は基本二つ。一つは、五〇年代のアメリカンイラストレーション黄金期のスタイルを継承した写実画(通称マジタッチ)。そしてもう一つは、風刺画や取材ルポなどで描くマンガタッチ(通称バカタッチ)だ。これを野球の投球スタイルにたとえると、マジタッチは直球ストレートでバカタッチは変化球。この二つの球種を武器にテーマによって緩急をつけて投げ分け、これまでなんとか四十年間描き続けてきた。がしかし、ここぞというときの自分の決め球は直球ど真ん中。写実画だという思いは今も昔も変わらない。
 僕が写実画に目覚めたのは、イラストレーターとしてキャリアをスタートさせた二十歳の頃。当時、七〇年代後半から八〇年代にかけて日本のイラスト界は、湯村輝彦や安西水丸を代表とするヘタウマ≠ニ空山基や大西洋介などエアブラシの名手によるスーパーリアリズム≠ェ席巻しており、若いイラストレーター志望もまたこれに続けとばかりにその流れに乗る者が多かった時代。そんな中、自分流の画風が定まらず悩んでいた僕に、日本のメンズファッションイラストレーターの草分けであり僕の師匠でもある穂積和夫さんから「このアメリカのイラストをどう思う?」と見せられたのが、五〇〜六〇年代のアメリカの雑誌から切り抜いた読み物や広告のイラストページだった。それはこれまで見たこともない写実のイラストレーション。人物もクルマも背景も、そのすべてが卓越した描写力によって細部まで丁寧に描かれ、しかも写実の様式にもかかわらず古臭さは微塵もなくモダン。アメリカの写実派イラストレーターといえば、長年「ザ・サタデー・イブニング・ポスト」誌の表紙を描いたノーマン・ロックウェルが日本でもよく知られるところだが、どっこいアメリカにはノーマン・ロックウェル級、いやそれ以上のイラストレーターがゴロゴロいるのだとこのとき知り、それからというもの暇さえあれば神保町の古書店に入り浸り古いアメリカの雑誌を買い漁る日々……。バーニー・フュークス、ジョー・ボーラー、コビー・ウイットモアなど、五〇〜六〇年代の雑誌を飾ったアメリカの写実派イラストレーターたちの底力に驚嘆し、憧れ、そしていつかその領域に到達するのが僕のイラストレーター人生の目標となった。
 そのアメリカも経済が低迷し始めるベトナム戦争以降は、大判を誇った雑誌も小型サイズ化し、あれほどふんだんに誌面を飾ったイラストも次第に目に触れる機会が減り、それにともない黄金期の写実派イラストレーターのあとに続く新しいタレントが登場しなくなったのは寂しい限りだ。
 一方、自分はというと、四十年間マジタッチを描き続けたわりにはまだまだ目標に到達したとはいえないが、しかし、六十歳となった今もまだ直球の球速を伸ばす自信はある。
 嬉しいことに本書刊行にあたり、ニューヨーク・タイムズとハーバード大学ライシャワー日本研究所から取材が舞い込んだ。今やアメリカにもいないアメリカ人の日常を描く日本人として。本書をきっかけにいつの日か、イラストのメジャーリーグのマウンドに立つのが今の僕の夢である。
  • 『STYLE
    男のファッションはボクが描いてきた
    綿谷 寛/著
    定価:本体2,700円+税
    小学館・刊 B5判 192ページ
    大好評発売中
    ISBN 978-4-09-682260-9
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