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BOOK PEOPLE × 本の窓
  • 自著を語る2
    飯田朝子
    『ドラえもん
    はじめての数え方』
  • 2018.8
ドラえもん一台?
 私が助数詞研究にのめり込み始めたのは約二十年前。博士論文の仕上げをしている頃だった。折しも、その頃はソニーが初のイヌ型ロボット「AIBO」を発売し、それを「台」で数えるか「匹」や「頭」で数えるのか、メディアによって揺れがある時期だった。恰好の研究材料として現象を調べつつ、私は漠然とネコ型ロボットの「ドラえもん」だったら、このような数え方の揺れを許すのだろうか、と思っていた。
 そんなドラえもんと、まさか数え方の本を出させて頂く日が来るとは夢にも思わなかった。小学館から二〇〇四年に『数え方の辞典』を出版したが、こちらは大人や日本語学習者向けで、子どもが読むには専門的過ぎる面があった。気がつくと私の娘も七歳。小学生が数え方に気軽に触れられる本がないことを少し歯がゆく思っていた。ちょうどその時、「ドラえもんシリーズで小学生向けに数え方の本を出しませんか」と編集部からお声掛け頂き、渡りに船でお引き受けした。
 ところが、すぐに渡れると思っていた向こう岸は思いのほか遠く、飛び乗った船も揺れに揺れた。当初は子どもたちに食べ物や乗り物、身の回りのものを絵図鑑のように示して、それらの数え方を脇に添える程度の企画であったのだが、原稿執筆を進めていくうちに「これでは体系的に日本語の数え方の概念を掴んでもらえないのではないか」という疑問にぶち当たってしまった。
 日本語の助数詞はどうしても言葉の知識や語彙力といった面で問われることがある。しかし、たとえばロボット犬といったこれまでにない物に出会った時、そこに数え方の“正解”は存在しない。結局、話者がどのようにそれを捉え、既存の助数詞を当てはめてルールを見出して行くかで緩やかに決定するのである。目の前のロボットが自分にとって単なる機械なら「一台」だろうし、大切なペットと捉えられれば「一匹」や「一頭」、ドラえもんのように家族同然の存在なら「一人」だっていい──子どもたちには、言葉のルールを臨機応変に開発して、新しい物との出会いを楽しみながら数え方の世界を探検してほしい、その願いは強かった。
 それに気づいたがために、乗り込んだ小船は激流を渡っていくことになる。全体の構成や展開の大幅見直し、ドラえもんの漫画を数十ページ増し、見開きページやクイズの修正など、一つ一つの作業を手探りで進めていかなくてはいけなくなったのだ。助数詞の概念は、言葉で説明するよりも絵にした方が分かり易い。だから私は自らペンを執り、拙い絵を描き、細部に至るまでラフの下書きを進め、漫画のプロットまで手掛けることにしてしまった。あまりにもスケジュールがハードで、目にする水色の丸い物は全てドラえもんに見えてしまうほど追い詰められたこともあった。
 子ども向け書籍の出版は初めてではなかったが、ここまで子どもたちに対して自分自身の魂と研究の結晶を注いだ本は初めてだった。その甲斐あって、ドラえもんとのコラボでなければ描けなかった言葉の世界観、助数詞の不条理の可視化、そして数え方はそもそもなぜ必要なのかを哲学的に投げかける新ひみつ道具「数えまち貝」の開発など、本当に貴重な経験をすることができた。拙著を子ども向けの学習まんがだと思わないでほしい。これはドラえもんとのやりとりを題材とした、助数詞概念研究書と言っても過言ではない。
  • 『ドラえもん はじめての数え方』
    藤子・F・不二雄/まんが原作
    飯田朝子/著
    定価:本体1,200円+税
    小学館・刊 A5判 112ページ オールカラー
    大好評発売中
    ISBN 978-4-09-501828-7
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