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未来妊活! 産むことにまつわる科学技術のこれから

構成: 牧村朝子

「全人類、誰とでも妊娠可能」。そんな技術が将来、現実のものになるかもしれません。
2015年の第19回文化庁メディア芸術祭では、実在する同性カップルの遺伝子から生まれうる子どもをシミュレーションした作品「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」で、MITメディアラボ・デザインフィクション研究室所属のアーティスト、長谷川愛さんが優秀賞を受賞しました。今回は、制作アドバイザーを務めたアーティスト/MITメディアラボ助教のスプツニ子!さんと、作品へ妻とともに遺伝子を提供した文筆家の牧村朝子さんを交え、「産む」ことのこれからを語り合います。(全3回)

  • 長谷川愛長谷川愛
  • 牧村朝子牧村朝子
  • スプツニ子!スプツニ子!

動物が人間の代理母になる?

『本能はどこまで本能か』っていう本があって。その中で、ある鳥の卵を、別の種類の鳥の巣に入れて育てさせると、やっぱり、鳴き方が巣に住んでる鳥に似るとか。

へぇ~、卵の中から聴いてるんだ。

だからもしそういう(※豚を人間の代理母にする技術/前回参照)未来が来たら、(母体の豚が)ブヒブヒ言ってるっていうのが……。

でも、豚はドラッグやんないし、たばこ吸わないし、お酒飲まないし。豚を家畜として飼ってるんだったら、たまに、「TED(※)トーク」を聞かせればいい(笑)。

※TEDとはカナダにある非営利団体で、毎年大規模な世界的講演会を行っている。日本では、テレビ『スーパープレゼンテーション』(NHK教育)でその様子を観ることができる。

あははははは!!(手を叩いて笑う)

シリコンバレー御用達の豚ファーム、みたいな。そういう発言したくなっちゃうから、たぶん、私、炎上するんだと思うんですけど(笑)。

でも、アクセル踏む人がいて、ブレーキ踏む人がいて、世の中ちょうどいいじゃない。

うん。

アクセル、常にガン踏みなのね?

うん。

豚に産んでもらえるなら産んでほしいわぁ、って人は、いるのかもしれない。でも、同時に……(低い声で)「いや、俺が産みたい、彼との子どもを!」っていう人もいるでしょうし。

うんうん。

今の生殖補助医療っていうのは、『産める体の持ち主と産めない体の持ち主が力を合わせましょう』ってやり方よね。でも、たとえば、男性でも誰でも妊娠できるようになるとね、当事者間の感情的な摩擦は生まれにくいんじゃないかな。ただし、従来女が背負わされてきたもの……「産む」という役割への期待から、誰ひとり逃げられなくなるかもしれない、っていうところはあるけど。

最新技術「ジーンドライブ」とは?

いま、愛さんとスプツニ子!さんはMITメディアラボって場所にいらっしゃるわけですけど、まわりで生殖補助医療に関してはどんな研究が行われているんですか?

生殖補助医療に関してはそんなにないんですけど、よく聞くのが、ケヴィン・エスベルトっていう若い助教のこと。彼は遺伝子工学分野なんですけど、遺伝子組み換えすることで、たとえば蚊がマラリアやジカ熱を媒介できないようにすることができるんですよ。ケヴィンの「ジーンドライブ」って技術を使えば、絶対にそれが(病気を媒介しない特性が)遺伝するんです。

名前がかっこいいですよね……「ジーンドライブッ!!」

ワザの名前みたい……。

ただ、その技術はマラリアを解決するかもしれないが、悪意をもった人の手にかかればまったく別の問題を起こすかもしれない。たとえば、自然界すべての蚊を、強い毒をもった蚊に変えてしまうことができるかもしれないし……。

うわああああ!

すごく悪い方向にも使えるんですよね。

そのジーンドライブっていうのは、もう、開発されちゃったのよね?

そう、すごくホットな話題。

まあでも実際問題、そういう可能な技術を目の前にして、それをやっていいかどうか誰が決めるのか。

技術を手にしちゃったときに、70億人全員が使うのを我慢できるわけがないと思うんですよね。ボタンがあったら押したくなっちゃうのが人間だし。

それ、このあいだ専門家の先生ともお話ししたんですけど……

人類には“お菓子の写真”が必要?

お菓子にたとえましょうか。目の前にお菓子そのものが置いてあると、食べてみたくなっちゃうじゃない? それよりはお菓子の写真を見せて、「こんなお菓子です、こういうリスクもありますよー、みんな食べたいですか?」って言ったほうが冷静に考えられるよね、っていう。

技術ができてないうちから議論をしておくべき、ってことね。

今回の私のプロジェクトもある意味、そういうところで。

もう技術はあるじゃないですか、いくつかの。卵子凍結とか。やってみたいと思います? 

「卵子凍結女子会」!?

卵子凍結はねえ、私、すごく勧められた。「後悔してもしょうがない。いまでしょ!」みたいな(笑)。

やってみたいと思います?

いや、高いからやらない。でも、高くなかったらやるかも。

え、じゃあアレは? 「他人に余った卵子をあげる代わりに、自分は無料で卵子凍結できる」ってやつ。私はやらなかったんだけど。自分の知らないところで自分の子どもが生まれてるっていうのは恐いなと思って。

オプションとしてはおもしろいかもね。

「私、頭いい、美人!」って思ってる人だったらいいのかも?

「私のタマゴは、価値があるから!」(笑)。

「私の卵子をばらまきたい!」(笑)。

そうそう、そう思ってる人だったら、全然それでいいんじゃないかな。

実はそれ、母に言ったことがあるの。私、毎月、卵子つくって捨ててるから。一方に卵子がなくて困ってる人がいるなら、卵子ドナーになればいいじゃない! と思って。そしたら母がすごく怒ったのね。「その卵子には先祖代々の遺伝子が入ってるのに、なんであなたの一存で決めるの!」って。

たしかに。

で、「私のうんこは私のだけど、私の卵子は私のじゃないんだ!」って思って。自分の輪郭がゆらぐような気持ちになったの。

ぜんぜん、捉え方が違うんだね。卵って。キャリアウーマンの友達は、「なんで六本木ヒルズとかのクリニックで卵子凍結できないんだ」って怒ってて。だから、卵子凍結女子会みたいのをやってみたくて。女子会に行くノリで、みんなで卵子凍結しに行こうみたいな。

いや、でもそんなすぐにできるもんじゃないよ。薬飲んで、排卵誘発剤打って……みたいなことしなきゃいけないし、1か月くらいかかる。

出産って、その人の人生がすごく大きく変わるから押し付けづらいんだけど。卵子凍結だったら、まだ「やってみたらおもしろいよ」くらいは言えるかな。

まあ、「やってみたらおもしろいよ♡」くらいのことを、「やらなきゃダメってこと!?」って受け取る人も世の中にはいて。そうやって感情的になりがちなのが、特に、生殖って分野よね。

「産まされずに産む」未来のために

どうしたらお互い、オトナに話を聞けるのかしら。産むことを押し付けたり押し付けられたりせず、主体的に産むためにはどうすればいいんでしょう?

私にとっては、自分が幸せになれる、自分を幸せにするっていうところが根幹部分です。「こうしたほうが幸せだよ」っていつも言われて生きてるんですよ、人は。それに対してブレないで、「私はこの生き方で幸せだ」って思うことがすべての解決策であるなあっていうことと……あとは、自分がなにか人に押し付けてないか自分で気を付けてみようっていうのはやってますね。

でも、わからないよ、たとえば「卵子凍結はあとで後悔してもしょうがない」っていうのは理にかなってることかもしれないし。それを「押し付けっぽい」と思って言わないで、本人が後悔するのを黙って見てられるのかなあ。

愛さんは、アートやデザインで問いかけていきたいですか? そういうことを。

そうですね、やっぱりいまの世の中って、自分で産むか産まないか養子をもらうかっていう選択肢しかなくって、それだけだときついなっていう人もいる。

そうよねえ。

で、それ以外の選択肢の模索を、ここ数年私はずっとやっているんですね。(遺伝上の)親が3人いても4人いてもいい未来が来るかもしれない、とか、そういうプロジェクトもやっていて。

「Shared baby(※)」ですよね。

(※長谷川愛さんによる2011年の作品。2015年のイギリスにおいて、遺伝病予防のために3人の親から遺伝子を受け継ぐ「卵子核移植技術」が合法化されたことにより、すでに現実のものとなった。)

あとは、「よく考えたらテクノロジーがなくても、家族っていろんなかたちがあるじゃない?」みたいな。個人的な話だと、お姉ちゃんと養子を育てればいいんじゃないかとか。

姉妹子育て?

そうそう。そもそもなんで好きな人といっしょに子どもをつくるんだろう、とか。技術は特に関係なく、考え方の問題なのかもしれない。

思うのは、お菓子の話よね。未来の技術を、未完成なうちから、アートで考えること。「こういうお菓子(=技術)をつくってます、こういうメリットもこういうリスクもありますよ、試したいですか~?」って提示してもらって、そこからみんなで考えることが大切よねって思いました。だから、アーティストというおふたりのお仕事を尊敬してます。

私も、牧村さんのお仕事を尊敬してるんで。

あら、ほめ合って終わるの?(笑)

ディスり合いながら終わります? けなし合いながら(笑)……いや、ほめ合って終わるのがいいんじゃないですかね。

【締め+展覧会告知】

産むことのこれからを考える全3回の鼎談、今回が最終回です。前編『赤ちゃんはどこから来るのか、いつ知った?』はこちら、中編『「お父さんでも産める日」は来るのか?』はこちらから。お読みくださり、ありがとうございました!

★おしらせ

長谷川愛さんの作品「(不)可能な子供」を美術館でご覧になれます!

森美術館「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」にて、文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞作「(不)可能な子供、01:朝子とモリガの場合」が展示されます。2016年3月26日(土)から7月10日(日)まで。詳しくはこちらから!