今森光彦

昆虫(むし)の地図館
日本の里山昆虫記

写真家・今森光彦が贈るフォト日記。
「環境」の視点から日本全国の
取材と撮影を続ける筆者が語る
里山にすむ昆虫の「今」を
最新の美しい写真でお楽しみください!
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雑木林の林床を少し掘ると、越冬中のアオオサムシに出会うことがある。

第3回 狭山丘陵の越冬昆虫
埼玉県入間市・所沢市
  • 地図
  • 埼玉県南部の狭山湖周辺に広がる狭山丘陵には、かつて広大な雑木林が広がっていた。宅地化が進み、その規模は以前ほどではなくなったが、今でもクヌギやコナラなどの雑木林を中心とした里山環境が、人々の手によって守られている。

武蔵野は、里山好きにとっては、一度は訪れてみたい場所。なだらかな丘陵地につづくコナラを主体とする雑木林は、クヌギ林を見慣れた関西人にとっては、憧れのようなところがある。コナラは、クヌギに比べるとほんの少し成長が遅い。晩秋には、葉がオレンジから黄色に染まって完全に落葉するので、林内がほんとうに美しい。それと、芽吹きの頃に、銀色の産毛をまとった若葉が、淡い灰色に山面を輝かせるのもコナラ林ならではの魅力だろう。
風が冷たい早春ではあるけれど、そんな雑木林との出会いを求めて、狭山丘陵に出向いた。

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蟻
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アオキ(左) ウグイスカグラ(右)

今回、散策したのは、「さいたま緑の森博物館」。なだらかな斜面に広がるコナラ林に心が洗われる。光が差し込む林床の低木は、アオキが赤い実をつけていたり、ウグイスカグラが花を咲かせていたり、早くも春の気配が漂っていた。

蟻
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管理されている雑木林(左) 萌芽更新(右)

雑木林は、定期的に手入れされているという。そのかいあって、林内は、とても明るくて気持ちがいい。昨年伐採された幹から、勢い良く枝が伸びていた。萌芽更新だ。林は、1ヘクタールくらいの広さを単位にして、ブロックに分けて手入れされていた。クヌギやコナラは、光を好むので、一斉伐採がのぞましい。かつて日本各地の薪炭林もこのように管理されていた。こうした、環境づくりが、雑木林に変化をもたらし生物多様性を高めることになる。

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刈り取った枝は、まとめられていた

蟻
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林の中につづく小道。その両脇の小さな崖は、オサムシたちが越冬する。晩秋に、崖をよじ登って、柔らかそうな土塊のなかに潜り込む。風が当たらない場所なので、意外に暖かいのだ。

蟻
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ほんの少し、土を取り去るとアオオサムシが現れた。厳冬期ではないので、活発に歩き出した。早く目覚めさせたようで恐縮な気持ちになった。成虫で越冬する昆虫は、オサムシに限らず寒さに強い。

蟻
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アオオサムシの体色は、関西では、黒色をしているが、関東では、写真のように美しい緑色。関東型と言われる金緑色にはじめてお目にかかったので感動した。

蟻
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昔のままの姿で残っていた谷津田(この辺りでは「谷戸田」とよばれている)。谷津田とは、谷に向かって細く連なった田んぼのまわりを雑木林がとりまいている環境だ。昔ならどこにでもあったけれど、今となっては、大変めずらしくなってしまった。谷津田は、森の機能をもつ雑木林、水辺の機能をもつため池、湿地の機能を持つ田んぼなどが集まっているので、色々な生物が集まってくる。里山の中で一番大切な場所だと言える。

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ヤマアカガエルの卵(左) 鳥の巣。ホオジロと思われる(中) アズマモグラが出した土(右)

蟻
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田んぼの土手に生える木で、ジャコウアゲハの蛹をみつけた。夏になったら食草であるウマノスズクサがたくさん葉を茂らせるのだろう。成虫が飛んでいる姿を見てみたい。

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蟻
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狭山丘陵の美しい里山。日本の原風景を見たような気持ちになった。今回、訪れてよかったのは、雑木林だけでなく、田んぼ、ため池、茶畑、やさい畑、果樹など、いろいろな環境に出会えたことだ。その中に、人と自然が共存する気配が感じられたことも良かった。それにしても、こんなに広い場所が今でも息づいているとは、驚きだ。いつまでもこのまま残って欲しい。アオオサムシが、農道を闊歩する初夏の頃に、再び訪ねてみたいと思った。

蟻
  • Profile
    今森 光彦

    (いまもり みつひこ)

    1954年滋賀県生まれ。写真家、ペーパーカット作家。
    人と自然が共存する琵琶湖周辺の里山を30年以上にわたって撮影してきた。
    近年は、「ニッポンの里山」をテーマに日本全国を旅し、ここ10年で訪れた里山は、200箇所をこえる。
    一方、熱帯雨林から砂漠まで、広く世界の辺境地も取材している。

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  • カブトムシ
編集後記
  • 早春とはいえ寒さ厳しい3月上旬。武蔵野の雑木林が残る狭山丘陵を訪れました。今森さんにとって、かねてより狭山丘陵は訪れてみたかった場所のひとつ。東京に住む私などにとって狭山丘陵は目と鼻の先。「すでに宅地化が進んでいないかしら」「里山は残っているかしら」などと、かなり心配しながらの取材行になりました。
    訪れた雑木林は、たしかに直前まで住宅地が迫っていましたが、それでも広大な面積をいまだ保っており、近隣に住まれる方々による行き届いた手入れの結果、見事な里山環境が維持されていました。
    そんな中敢行されたアオオサムシの撮影。同行したナチュラリスト・阿部浩志さんの手を借り、3人がかりで夢中になって撮影しました。緑色に輝くアオオサムシは美しかった!

    (編集部・K)