今森光彦

昆虫(むし)の地図館
日本の里山昆虫記

写真家・今森光彦が贈るフォト日記。
「環境」の視点から日本全国の
取材と撮影を続ける筆者が語る
里山にすむ昆虫の「今」を
最新の美しい写真でお楽しみください!
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姫島の海岸には、約700頭のアサギマダラが飛び交っていた。

第4回 海を渡るチョウ・アサギマダラ 第4回 海を渡るチョウ・アサギマダラ
大分県東国東郡姫島村
  • 地図
  • 大分県国東半島の沖合6キロメートルに位置する姫島は、面積約7平方キロメートルの小さな島だ。瀬戸内海に属し、気候は温暖。塩田跡を利用したクルマエビの養殖が有名である。国東半島から1日12往復のフェリーが出ていて、住民や観光客に利用されている。

アサギマダラは、旅人として有名。でも、決して珍しい蝶ではなく、初夏や晩秋などに日本各地で見ることができる。このアサギマダラ、移動の途中に、とくに気に入った場所があると、集中的に集まってつかの間の日々を過ごす。そんな珍しいスポットが、姫島にあるという。いったい、どんな光景が待っているのだろう。私たちは、緑につつまれた山々がつづく国東半島を縦断し、胸をワクワクさせながらフェリーに乗り込んだ。

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秋にフジバカマにやって来たアサギマダラ(撮影地 滋賀県大津市)

アサギマダラは、日本の温暖地方で春に羽化すると、北上をはじめる。秋になると、日本全土にいる個体の多くが、南西諸島や台湾へ移動することがわかっている。翅に印をつけるマーキング調査で、直線距離にして2000キロメートル以上も移動した個体がみつかった。

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スナビキソウは、海岸の砂浜に群生していた。背丈が低く、近寄らないと星形の花の美しさはわからない。早朝、開花したばかりは、純白で、その後は、次第に縁が褐色になってゆく。

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群れが現れた!

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アサギマダラは、スナビキソウのお花畑に群れ飛んでいた。元気よく、かつ、優雅に舞い続ける。とまっているものは、ほとんど、スナビキソウに吸蜜している。いつも私が出会っているアサギマダラとは違い、とても馴れ馴れしく、近づいても逃げようとしない。
海岸は、見渡す限りの砂浜なのに、お花畑に吸引されてくるのがとても不思議だった。聞くところによると、スナビキソウには、性フェロモン分泌に必要な成分が含まれているからだという。

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早朝の穏やかな光の中で、スナビキソウの蜜を盛んに吸蜜していた。

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吸蜜中は無我夢中で、触っても逃げようとしない。

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ある場所では木の股にスナビキソウを挟んであり、そこにも多くのアサギマダラが群がっていた。

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アサギマダラ飛来地に群がるカラスと、カラスに食べられたと思われるアサギマダラ

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木の陰で休息するアサギマダラ。

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少し森に入ると、食草のキジョランに幼虫が見られた。

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秋、南方へ移動するときに立ち寄るのは、フジバカマの花。島在住の愛好家の人達によって、フジバカマが植えられている。広く分布するヒヨドリバナにも好んでアサギマダラがやってくる。

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愛好家の庭には、スナビキソウや幼虫の食草であるキジョランが植えられてあった。株を増やして、アサギマダラが住みやすい環境をつくってゆく計画だという。匂いを嗅ぎつけてやってきたアサギマダラにも出会った。

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庭のキジョランには、生み付けられた卵も見られた。

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夢の乱舞に出会えて、ほんとうに幸運だった。楽しそうに見える光景だが、入れ代わり立ち代わり個体は変わっていて、数日間とどまるだけで、次々に北に移動しているのだという。
この島にアサギマダラが立ち寄ってくれるのは、スナビキソウの群落があるからだ。スナビキソウの群落を守るには、美しい砂浜が維持されないといけない。島全体が、いつまでも夢の様な場所であって欲しいと思った。

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  • Profile
    今森 光彦

    (いまもり みつひこ)

    1954年滋賀県生まれ。写真家、ペーパーカット作家。
    人と自然が共存する琵琶湖周辺の里山を30年以上にわたって撮影してきた。
    近年は、「ニッポンの里山」をテーマに日本全国を旅し、ここ10年で訪れた里山は、200箇所をこえる。
    一方、熱帯雨林から砂漠まで、広く世界の辺境地も取材している。

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  • カブトムシ
編集後記
  • アサギマダラの群舞が見られるらしい。そんな情報を今森さんにいただいて、大分県までやってきました。別府駅で落ち合い、広い国東半島をレンタカーでひたすら東へ。フェリーに乗り継いでようやく着いたときには、すでに日が傾きかけていました。果たしてアサギマダラは群舞しているかしら…実は内心かなりドキドキしていたのです。何しろ相手は生き物だからなあ…。
    しかしそんな心配は杞憂に終わり、スナビキソウの生える海岸では、予想以上の数のアサギマダラが乱れ飛んでいました。その数約300頭。我々の存在が眼に入らぬかのように、何かにとりつかれたように吸蜜と群舞を続けるアサギマダラ。撮影の本番は翌早朝を予定していましたが、早くも今森さんのシャッター音が快調に響きはじめました。

    (編集部・K)