〈非核国〉と〈核大国〉。「今こそ日本の矛盾に向き合い議論すべき時」堤未果の新刊『核大国ニッポン』に込められたメッセージ

 8月6日に行われる広島市の平和記念式典。松井一実市長は7月14日、外国人向けに用意する500の予約席が、募集わずか4日で満席になったと発表した。昨年5月のオバマ前大統領の広島訪問、さらに今年7月7日に国連で「核兵器禁止条約」が採択されたことにより、核に関する世界の関心が一気に高まったことが大きいだろう。
 長年地道に非核を訴え続けた広島・長崎の被爆者たちによる「核兵器禁止条約」への貢献が讃えられる一方で、広島式典で総理が非核の誓いを立てたはずの日本政府はこの条約に反対、採択にも不参加を表明。国内外からは失望の声が上がった。「なぜ唯一の被爆国日本が不参加なのか?」

 7年前からこのテーマを追っている国際ジャーナリスト堤未果氏は、今回の核禁止条約に関して、取材相手の米国人女性からこう尋ねられたという。
「原爆と原発で二度被爆してもなお、日本は〈核なき世界〉に背を向けるのですか?」
 今年3月に北朝鮮が日本海に4発のミサイルを発射した際、日本の自治体に避難施設確保の法的義務がないという事実にショックを受けた、都内在住の米国人男性は堤氏に言った。
「放射能の被害を身をもって体験している日本が核シェルターすら整備していないことに心底驚いた。日本は被爆国なのに、〈核〉に対する恐怖がないのか?」

 堤氏の新刊『核大国ニッポン』(小学館新書、2010年刊『もうひとつの核なき世界』に加筆・改題)の冒頭は、2009年のオバマ演説〈核なき世界〉から始まっている。著者はこの美しいメッセージの裏側の〈核〉にまつわる数々の事実を丹念にすくい上げ、〈核〉の定義そのものを、様々な角度からひとつずつ丁寧に問い直していく。核とは安全保障のみならず、外交や環境問題、医療や歴史教育、貧困やエネルギー問題など、広範囲にわたり世界中の人々に影響を与えるものだからだ。
 本書の中に登場する様々な国籍や職業の人々のエピソードや証言を読むと、今や核の問題が、私たちの想像を超えた、複雑で奥深いものになってしまった事がよくわかる。
「日本はアメリカの核の傘の下から出るか出ないかで国内がまとまらないみたいですが、現実の安全保障をどうするかについて、もっと国民全体で話し合うべきではないですか?」(キューバ出身の在米女性)
「日本は被爆の恐ろしさを訴える一方で政府は原発関連の受注に力を入れている。そもそも日本国内に54基の原発があることはどうなんですか?〈核〉と〈原子力〉、それに〈核燃料〉の三つは、それぞれ別次元で考えられているんですか?」(NY州立大学の男子学生)
「素朴」とも言えるこうした数々の問いは、私たち日本人が長い間蓋をしてきた「現実」を、ひとつひとつ目の前に突きつけてくる。非核を訴えながら安全保障に関する議論を避け、未曾有の事故を経験してもなお原発政策を進め、原発へのテロ対策については目を背け続ける国、日本。
 著者はこれらの問いを受け、日本人の〈核〉との向き合い方を、今改めて見つめ直す時期が来たことを確信したという。そうして書き上げた本書に込めた思いとは。
「原発を所有し米国の核の傘にいる日本を、世界の多くの人々はある種の警戒感を持って注視しています。被爆国として核なき世界を内側から訴え続けてきた日本は、72年前と比べて技術が進化しパワーバランスも大きく変わった世界の中で、自己イメージと世界の眼とのギャップに気づき、もう一度この問題を問い直す時期に来ていると思う。
“核の問題を物理的・政治的の両面からとらえ、歴史を紐解き、関連法を正確に理解し、安全保障の議論を避けることなく〈核〉と向き合おう。” 原爆も原発事故も経験した稀有な国として、日本はこの本質的なメッセージを世界に投げかけることができる存在だということを今だからこそ伝えたい」

 新書化にあたって加筆した新章には、そのチャンスが迫っていると綴られている。2018年7月、「日米原子力協定」は有効期限を迎える。ほとんどの日本人に知られていないこの協定こそが、今後の日本のエネルギー政策と、世界の中での日本の立ち位置、そして核大国ニッポンの未来を大きく左右する重要な鍵になる、と断言する堤氏のメッセージは、こんな時代だからこそリアルな迫力に満ちている。

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