史上初!カレーライスノンフィクション誕生の舞台裏

【担当編集者の新刊おすすめ情報】

 
 話は5年前にさかのぼります。当時、水野仁輔さんは小学館文庫で『銀座ナイルレストラン物語』という作品を上梓したばかりでした。水野さんはカレー研究家として、それまでにカレーレシピ本をすでに数十冊も刊行しており、飲食関係者および料理ファンの読者たちから、圧倒的な支持を受けていました。『銀座ナイルレストラン物語』は、日本で初めて本格インド料理を提供した老舗名店の三代にわたる激動の歴史を水野さんが描いた作品で、水野さんの初めてのノンフィクション作品となりました。単行本は他社から刊行されたものだったのですが、その取材力とノンフィクション執筆が初めてとは思えない卓越した文章力と構成力に感銘を受け、文庫化をお願いしたのでした。そして無事に刊行ができ、読んだ方々から高い評価もたくさんいただきました。
 
 しばらくして、次の企画の打合せをしているときに水野さんは、ふとこんなことを漏らしました。「いま、カレーのルーツを辿る取材をしているんです……」。聞いてみると、150年前、明治期に日本に渡ってきカレーライスのルーツをこれまで誰も調べていないので、自分がやることにしたというのです。それは面白い。ぜひ単行本にしましょうということになり今回の『幻の黒船カレーを追え』の刊行となりました。
 
 そもそも日本にカレーが来たのは、インドからではありません。インドを植民地としていたイギリス人がカレー粉を発明し、それが日本に渡ってきたのです。150年前といえば、もちろん飛行機は登場していません。当時は黒船といわれた外国船がイギリスからカレーをもたらしたことになります。黒船が来航したのは、日本の軍港、商用港のいずれかです。しかし取材を続けても、手掛かりはほとんどなく、国内の取材場所も手詰まりになっていきます。
 
「こうなったら、カレーが来た道を海外まで辿るしかないですね」と水野さんは決意を語ります。
 
 しかし当時水野さんは、ある広告代理店の社員として二足のわらじを履く身でした。「取材に3週間は必要だけれど、会社が許してくれるかどうか……。とりあえず申請してみます」
 
 しばらくして水野さんから「やはり、却下されました。でも大丈夫です。会社を辞めました」という連絡が入りました。あまりの驚きに、思わず聞き返しましたが、その決断は変わりませんでした。
 
 水野さんには奥さんと小さいお子さんが3人。よく奥さんが許してくれたとも思いましたが、水野さんは「3週間ではなくて、3ヶ月行けることになった」と笑っていました。
 
 本書を執筆していくうちに、カレーのルーツを辿るテーマに加えて、一人のサラリーマンの人生が展開が読めないままに流転していく様を描くという、もう一つのテーマが立ち上がり、前代未聞の一冊になっていきました。もちろん、カレーのルーツを辿る旅はエキサイティングで知的好奇心に溢れ、推理小説のようでもあります。しかし、もう一つのテーマとして、人間水野仁輔がどう成長していくのか、家族はどう変化していくのかもこの本の大きな読みどころです。
 
 カレーがあって人がいる。人がいるから新しいカレーが出来る。どうぞ、ご自分の好きなカレーを思い浮かべながらこの本を読んでいただければと思っています。

 

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