あの『Xファイル』主演俳優のもうひとつの顔は…?

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 1993年から放送されて一世を風靡した超常現象ドラマ『Xファイル』。昨年14年ぶりにTVミニ・シリーズとして復活して話題となったが、主役のモルダー捜査官を演じた俳優デイヴィッド・ドゥカヴニーが小説家でもあることをご存じだろうか。
 
 父親が出版関係の仕事をしていた影響で作家志望だった彼は、プリンストン大学とイェール大学で英文学を学んだが、やがて俳優の道へ。『Xファイル』で一躍スターダムへのし上がり、その後私生活では病気や離婚を経験しながらも、2015年に『ホーリー・カウ』(邦訳版は小学館文庫より菊池由美訳にて発売)で念願の小説家デビューを果たした。
 
 『ホーリー・カウ』は、家畜たちの冒険を描いた現代の寓話。可愛らしい雌牛が描かれたカバーと中身のギャップに、読者は度肝を抜かれるだろう。過激なジョークやおバカなスラングが満載、ドタバタ劇のような展開の中、描かれるテーマは人種、宗教、紛争、環境問題や大量消費社会……と奥深い。人間社会への風刺が動物の目を通して描かれ、著者の哲学的な一面さえ感じられるのだが、実際に本文中の《ひとつの壁をつくることで、ひとりの囚人じゃなくて、ふたりの囚人が誕生する》という言葉は、哲学者・鷲田清一氏の朝日新聞連載「折々のことば」にも引用されている。
 
 そんな衝撃的な小説家デビューを果たしたドゥカヴニーの第二作が翻訳刊行された。タイトルは『くそったれバッキー・デント』(高取芳彦訳、小学館文庫)。前作と設定はがらりと変わり、舞台は70年代のニューヨーク。ヤンキースタジアムでピーナッツ売りをする、小説家志望のさえない独身男テッドが、母の死後疎遠になっていたレッドソックスの熱狂的ファンの父との関係を修復していく物語。前作の社会風刺やぶっとんだジョークはそのままに、「人を愛するがゆえの恐怖」や「人生の敗者であることの意味」を真摯に描いた感動作。特に、父との間に葛藤を抱えたことのある「かつて息子だった」男性は必読。日頃は多忙な父親と、野球やキャッチボールを通して繫がっていたという思い出のある人にはぜひ読んでほしい。きっとこみあげるものがあるだろう。

 

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