衝撃の「ゴッホ他殺説」に基づく迫真の物語!その死の真相


 
 「やはりゴッホの死は,自殺ではなく、他殺だったのか・・・」。
 
 ピューリッツァー賞作家コンビ、スティーヴン・ネイフとグレゴリー・ホワイト・スミスが2011年に上梓した伝記“Van Gogh:The Life”(邦訳『ファン・ゴッホの生涯』国書刊行会 2016年)を読んだ読者の多くが、深い感慨にふけったに違いありません。このほど刊行された『殺されたゴッホ』(小学館)の著者、マリアンヌ・ジェグレもそのひとりでした。
 
 ポスト印象派を代表する画家で、日本にも熱烈なファンが多いファン・ゴッホは、37年の短い人生を拳銃自殺で終えたというのが、120年以上にわたって信じられてきた「定説」です。しかし、その死の原因についての疑問が当初から根強くあったこともまた事実です。自殺に使った銃が発見されていない、自分で引き金を引いたとするならありえない不自然な銃創、手に硝煙反応が残っていなかった・・・。数々の「状況証拠」が、他殺説を匂わせてきました。しかし、確証はありません。そんななか、ネイフとスミスによる緻密で包括的な調査・分析による伝記(邦訳で全2巻のべ930ページ以上の大著)は、圧倒的なリアリティーをもってゴッホの人生と殺されるに至る経緯を展開しています。
 
 この伝記にインスピレーションを受けて、『殺されたゴッホ』は誕生しました。しかし、本書は犯人捜しのミステリーではありません。著者が関心をもったのは、他殺説そのものというよりもむしろ、ネイフとスミスの手法、すなわち、ゴッホを取り巻く人間関係、社会や環境の多様で複合的な要素を包括的にとらえて事実を再構成すること、だったようです。
 
 ドキュメンタリー映画のシナリオ作家でもある著者は、ゴッホの視点を中心としながらも、弟テオや画家ゴーギャン、ゴッホの隣人たちなど、彼の周囲の人々の視点を巧みに織り交ぜ、印象的な場面、場面を紡いでいくという、まさにドキュメンタリー映画の手法を駆使して、ゴッホ最後の2年間とその死の真相に迫ります。それは、神格化された「悲劇の天才画家ゴッホ」ではなく、等身大の人間としてのゴッホを描く試みといえるでしょう。
 
 読者が本書に見出すのは、自分の夢の実現のために、身も心も呈してぼろぼろになりながら現実と闘う一人の男の物語ですが、彼は決して悲劇の英雄ではありません。打算もあれば欲もある、謙虚であると同時にうぬぼれもあり、純真で心優しいと同時に自己中心的で狭量、気高く勇敢であると同時に姑息で臆病な、生身の人間なのです。
 
 それだからこそ読者は、彼に突然の死が訪れるとき、行き場のない悲しみを感じると同時に、ひとりの人間に対する深い理解の感情を抱くことになるでしょう。
 
 余談になりますが、本書で理不尽とも言えるほど不当な扱いを受けているのが、やはりポスト印象派を代表する画家ポール・ゴーギャンです。本書を読み終わったあと、ほとんどの読者が彼のことを嫌いになること請け合いです。
 

 

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