『池上彰の世界の見方 ドイツとEU』──EUはもう限界なのか? 鍵を握るドイツを視点に各国の立場と問題点を池上彰が解説!

 

 

 『池上彰の世界の見方』(小学館)は、世界の国と地域を学ぶ入門シリーズで、ジャーナリストの池上彰氏が実際に中学や高校で行った特別授業をもとに本にしている。これまでに「導入編   15歳に語る現代世界の最前線」「アメリカ」「中国・香港・台湾」「中東」の4冊を刊行してきた。

 5冊目はヨーロッパと定めて、池上氏に相談したところ、「今のEUはドイツによって支えられている。そのドイツの方針が揺らいだり、周辺の国との関係がおかしくなったら、ヨーロッパ全体の将来が危うくなる。だから、ドイツに視点をあててヨーロッパを見てはどうか」とおっしゃる。

 確かにドイツはEUのリーダー格だが、EU離脱を決めたイギリスとか、新大統領に替わったフランスとかもニュース性が高いし……と合点がいかない私を見て、池上氏がさらに一言、「ドイツは日本との比較においても興味深い。ナチス・ドイツの敗戦からどうやって周辺国の信頼を回復したのか? 原発廃止、移民の積極的受け入れなど日本と反対の道を歩んでいるのはなぜなのか?」。

 なるほど、ドイツは面白い! と納得し、本書のタイトルは「ドイツとEU」で行くことになった。

 

 2度の世界大戦を経験し、戦争のない平和な世界をつくるという大きな理想を掲げて誕生したEU。実は、EUにはドイツを抑えるという目的もあったことをご存じだろうか。

 EUの歩みは、1952年、石炭と鉄鋼を共同管理する欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立から始まった。ヨーロッパをひとつにするために、なぜ石炭と鉄鋼から始めたのか?

 当時、石炭は武器の原料となる鉄をつくるために最も重要なエネルギー資源だった。ドイツが石炭資源を掘り出し、鉄鋼業を盛んにしていくと、また強大な国家となり、武器を持ち、戦争するのではないか。西ドイツが石炭や鉄鋼業によって復活したあと、それを軍事産業に転用しないよう周辺の国々で監視する意味が含まれていたのだ。

 

 一方、ドイツは、周辺国の不安をなくし、信頼関係を結び直すために、非常な努力を続けてきた。一例をあげよう。2016年に行われた伊勢志摩サミット。記念撮影の写真を見ると、各国首脳はカメラに向かって手を振っているが、ドイツのメルケル首相だけは手を挙げていない(本には写真を掲載)。なぜなのか?

 うっかり手を挙げ、ナチス式敬礼のような手の位置になった瞬間を撮影され悪用されれば、政治生命が終わってしまうからだ。戦後のドイツでは、ナチスやヒトラーを想起させるものは、すべて禁止された。学校で質問したり答えたりする時、ドイツでは指を1本立てるだけ。日本のように手のひらを相手に向けるようにして手を挙げない。タクシーを止めるときも手は挙げずに真横に出す。

 

 国民性がよく似ていると言われるドイツと日本だが、戦後の謝罪と和解への取り組みは、だいぶ異なるものだった。本書ではその内容を詳述している。ただし、その努力は西ドイツで行われたもので、ソ連に占領された東ドイツとは温度差があった。東ドイツでは、

 「戦争は一部の独占資本家が起こしたもので、君たちプロレタリアート(労働者)は被害者なのだ」という階級闘争論に基づいて、悪かったのはヒトラーとその取り巻き、そして一部の独占資本家だという国民教育がなされた。その教育のひずみが今、ドイツを悩ませている。

 2015年頃からヨーロッパに押し寄せたシリアや北アフリカの難民。ドイツでは、メルケル首相が過去の戦争責任や少数民族虐待の反省から、難民を無条件で受け入れると発表した。それに対して、難民や移民を追い出すべきだという運動が起こり、勢力を伸ばしてきた。

 代表的なのが「ドイツのための選択肢」という政党。2013年に設立されたこの政党は、活動の基盤が旧東ドイツ地域だ。旧東ドイツ地域では勢力を持っているが、旧西ドイツでは勢力を伸ばせていない。

 

 9月のドイツ連邦議会選挙で、メルケル首相は勝利したものの、これまでの難民・移民受け入れ政策に疑問や反発を持っている人たちも一定数いることがわかり、難しい政治判断を迫られている。

 ドイツは、そしてEUはこれからどこに進むのか。ギリシャ危機で露呈したユーロの弱点、イギリスのEU離脱決定、移民・難民問題。極右と呼ばれる愛国主義や自国第一主義の台頭…。連合体から出ていきたいという大きなうねりに、EUは揺れている。それはまた、日本がどこに向かって進むべきかを考える材料にもなるだろう。

 

 

 

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