なぜ彼女は「男」として生きようと思ったのか!?
ささやかな幸せを願う女の一生を描く、感動作!

 

 安住洋子さんは、二〇〇四年に『しずり雪』を刊行し作家デビューしてから、これまでに七冊の時代小説を刊行しています。昨今の作家としては、寡作の部類に入るでしょう。

 しかしながら、今回の『み仏のかんばせ』では文芸評論家の縄田一男さんが、「安住さんの巧緻極まりない文体は、ときには作中人物の人生の明暗と分ち難く結びつき、またときには、これ以上はない隠喩として、作中に抜群の効果を上げている」と書かれているように、玄人の評価は高いものがあります。

 

 今回、文庫書き下ろしで刊行された『み仏のかんばせ』、人情を細やかに描いている点はこれまで通りですが、主人公が行動する意識や仕える先の主人が、これまでの「人情もの」とは一線を画す特徴のある作品となっています。

 主人公は、貧しい小作の娘である志乃です。女郎屋に売られて女衒に手込めにされますが、女郎になるのが嫌で、江戸へ逃げるのです。そして、「もう女でいるのはいやだ」と男装をして「男になる」決心をします。そこで、口入屋で紹介されたのが山田浅右衛門の家でした。

 ここで登場する山田浅右衛門は、別名「首斬り浅右衛門」「人斬り浅右衛門」として歴史上有名な山田家の当主が名乗った名称です。刀剣の試し斬り役を務めており、罪人の処刑や切腹の介錯なども務めました。山田浅右衛門家は、浪人の身分でありながら大変裕福だったと言います。ひとつには刀剣の鑑定を行っており、また副収入として、肝臓や胆嚢などを原料とし丸薬の製造にも関わっていました。

 そして、志乃は男装をして「松助」として山田家に仕えます。最近、映画業界やマスコミ関係者の中で、以前のセクハラに対して声をあげる女性が増えていますが、志乃は嫌な仕事に就きたくないという気持ちに正直に、自ら行動するのです。

 

 物語は、志乃(松助)が死人の胆を運んでいるときに強盗に襲われ盗られてしまうことから動き始めます。責任を感じて浅右衛門のもとを去った志乃は、名前を戻し針売りの娘として生きはじめます。そこに、志乃が以前憧れていた壮太が現れました。「男」として山田家で仕事をしてきた志乃は、まともな幸せなど考えていなかったが、お互いの気持ちを確かめて夫婦になった二人。しかし、壮太にも隠された過去があった――。

 この後、志乃が剣術で見せ場を作るシーンが何度も登場。そして第二部では、幸せな母親となった志乃に過去の因縁が絡んでいきます。

 著者三年ぶりの新作は、今回もしみじみとした感動に包まれます。是非ご一読下さい。

 

 

 

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小学館

定価  :本体570円+税

発売日 :2017/12/6