約30紙の新聞書評をジャック!
「空飛ぶ豚の本」が示したアメリカの食肉侵略

 

 

 書評は本の宣伝ではないし、単なるガイドでもない。だから、多くの新聞や雑誌では読者に新しい世界を見せてくれる作品を厳選し、紹介している。書評の醍醐味は、書評者の目を通じて、自分では気が付かなかった、本の読み方がわかることにもある。

 アメリカのトランプ政権が一周年を迎える時期に相前後して、国内30あまりの新聞・雑誌に書評が掲載された本がある。作家・ジャーナリストの青沼陽一郎がWEB連載をまとめた『侵略する豚』だ。

 同書は著者がアメリカ、中国などで、時には危険を伴う現地取材を敢行。食の安全、養豚の歴史、アメリカの目的、中国の爆食ほか、日・米・中の食肉市場の現実について紹介したノンフィクションだ。書評に表れた同書の「読み方」をピックアップしてみよう。

 

● キーワード「因縁に満ちた関係」(2017年11月25日 日本経済新聞・東京版)

「戦後、米国から援助で送られた繁殖用の豚が日本の養豚の基礎をつくり、日本の工業技術が米国の食肉輸出を支えるなど因縁に満ちた関係を軽妙なタッチで描く」

 

● キーワード米国に翻弄される日本の食物(2017年11月19日 信濃毎日新聞)

「『豚の空輸』をきっかけに、いやペリー来航の時代から、日本の食物が米国に翻弄されてきた事実を提示していく」(評/上原善広・ノンフィクション作家)

 

● キーワード「戦略物資としての食肉」(2017年12月3日 河北新報)

「幕末、米国のペリー率いる黒船に迫られ開国し食肉文化が広がった時代から、今に至るまで戦略物資としての(食料の)顔に迫っていく」(評/まつばらけい・ライター)

 

 1月に入っても書評掲載は続いた。では、なぜ新聞各紙はこの本を取り上げるのか。

 この本では、1960年1月20日、アメリカのアイオワ州から山梨県へ、35匹の生きている豚が空輸された史実を発掘し、詳細に記述している。この前代未聞のプロジェクトは、伊勢湾台風で大打撃を受けた日本への援助と言いながら、実は隠された目的も持っていた……と書いているのだ。

 先の書評に「米国から援助で送られた繁殖用の豚」「豚の空輸」とあるのはこのことだ。

 

アイオワ州から空輸された豚が米軍機から羽田空港に降り立った(1960年1月)。写真提供:青沼陽一郎

 

 そうすると、各紙の書評欄担当者が見据えているのは、トランプ政権が掲げるアメリカ第一主義の保護主義貿易ではないかと思い当たる。2017年の大統領就任でTPP(環太平洋経済連携協定)離脱を表明したトランプ大統領は、より有利な条件を得るために二国間交渉とTPP復帰を天秤にかけている。「日米経済対話」はまだ本格化しないものの、畜産分野、特に豚肉で厳しい交渉になると思われている。

「韓国ではFTA(自由貿易協定)でアメリカと直に決めた厳しい条件で、畜産農家が大打撃を受けているといいます」(大手商社畜産部門管理職)

 

 では、豚の空輸があった伊勢湾台風当時の日本はどのような状況だったか。

「日本では、1960年代まで農家の裏庭で残飯を与えて豚を飼うのが当たり前でした。それが現在はほとんど輸入配合飼料で育っています。日本に配合飼料が入ったのは、60年代後半。アメリカなどからの飼料を陸揚げする貿易港の近くに、全農が次々と飼料工場を作ったのです。そうして畜産の近代化を進めて生産性を上げた。その結果、輸入飼料に頼った畜産になっています」(前出・大手商社畜産部門管理職)

 

 また、畜産の事情に詳しい輸出入関連団体の職員は、『侵略する豚』に疑問を呈しながらもこう言う。

「35頭の豚から日本の畜産が発展した、35頭の豚が輸入飼料依存を強めた、という主張はいかがなものでしょうか? 戦後間もない頃の援助物資同様、アメリカが日本の食習慣を変え、畜産物、穀物、飼料等の輸入物資をアメリカに依存するよう仕向けたことは事実ですが」

 

 アメリカの食料安全保障や貿易戦略のなかに、日本市場が巻き込まれてきたことは間違いないのだ。

 

 食肉を戦略物質と捉え、『侵略する豚』を読むポイントはもうひとつ。それは、アメリカがこの20年足らずで豚肉輸入国から世界一の輸出国へと転じたこと。著者はアメリカ・ミズーリ州にある巨大な豚肉加工工場を見学。日本向けに品種改良された、個体差がほとんどない豚の枝肉の姿を見て、激しい違和感を覚えている。その工場の様子も詳細に紹介している。

 

枝肉は低温で保管される(シーボード「トライアンフ工場」)。撮影:青沼陽一郎

 

 トランプ政権下において、今後さらに圧力が高まる可能性もある。安価な食肉が輸入され続けたら、日本の畜産業は大打撃だ。豚だけではない、牛肉でもアメリカは攻勢を強めている。畜産部門に所属するアメリカ駐在商社マンが言う。

「日本の牛は国産安全神話に守られてきたのだと思います。これが少しずつ崩れつつある。アメリカはポークとは違って、アンガス牛、プライムビーフなど今まであまり出てこなかった武器をもっており、それが徐々に国産の牙城を崩しつつあるのだと思います。〈豚の空輸〉で日本に米国式を浸透させた豚と違い、牛は肉そのもので日本の牛肉文化を変えてしまおうということだと思います」

 安くておいしい肉はありがたいが、それは麻薬にも近いのか。

 

 

(文・前川亜紀)

 

 

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書名  : 侵略する豚

著者  : 青沼陽一郎

定価  : 本体1,400円+税

発売日 : 2017/9/27

発行  : 小学館

 

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