「フリクション」が変えた未来
パイロットが創業100周年に目指したものとは

 

 

 日本の教育現場で筆記用具といえば鉛筆と消しゴムが主流だが、フランスやドイツなどのヨーロッパ圏では、今でも万年筆やボールペンが使われているのをご存じだろうか。

 その利点としては「字をきれいに書くよう心がけるきっかけになる」、「どこで間違えたかすぐ分かる」などがいわれているが、間違えた場合は二重線を引くか、化学反応で色を消すペンで修正するしかない。鉛筆文化に慣れ親しんだ日本人からすれば、ノートがきれいにとれず、読み返すのも嫌になってしまうだろう。

 ヨーロッパでも鉛筆や消しゴムが販売されていないわけではないが、設計や図画など限られた用途向けで、一般的には使用されることがほとんどない。

 

 そんななか、パイロットコーポレーションが開発した“消せるボールペン”が2006年にフランスで先行販売され、爆発的大ヒットを記録した。書いた文字をきれいに消せるボールペン、「フリクション」シリーズだ。

 同社常務取締役を務めた中筋憲一らに取材した『「消せるボールペン」30年の開発物語』(小学館 滝田誠一郎著)には、「フリクション」開発までにかかった30年の軌跡が綴られている。

 

フリクションの前身「メタモインキ」

 中筋は入社後、カーボン紙を使用しないで伝票を複写できるノンカーボン紙の開発に携わる。しかし、製造プラントまで完成していたにもかかわらず、会社はノンカーボン紙からの撤退を決定。中筋らのチームは途方に暮れる。そんなとき愛知にある香嵐渓の紅葉を目にした中筋は「フリクション」の前身にあたる、熱で色が変化するインク「メタモカラー」を思いつき、研究にあたった。

 

「夏のあいだは緑一色の香嵐渓が11月中旬になると真っ赤に染まる。それを見て『この鮮やかな色の変化を試験管の中で是非再現したい、作ってみたい』と、そう思った。それがメタモカラーの出発点でした」 (本書より)

 

 順調に開発が進み「メタモインキ」はさまざまな現場で利用されるようになる。冷たい/温かい飲み物を入れると柄や色が変わるコップにはじまり、ヘアドライヤーの熱風を当てると髪色が変わる人形、指でこすると摩擦の熱で模様が浮かび上がる紙幣やチケットなど、年間のロイヤリティだけで5億円以上の利益を上げるようになる。

 その後、筆記用具に挑戦し、色が黒から赤や青に変わるボールペン「イリュージョン」を販売するが、売り上げはかんばしくない。そこで当時のパイロットコーポレーション・オブ・ヨーロッパの社長兼CEO、マルセル・ランジャールが、「色を変えることができるなら、透明にすることはできないか」と提案。その一言が、「フリクション」開発の第一歩となった。

 

創業100周年にパイロットが見据えた目標

 パイロットから発売されている消せるボールペン「フリクション」は、2006年に発売され、2014年までのわずか8年で10億本を世界各国に出荷した。年間500万本売れればヒット、1000万本売れれば大ヒットといわれる文房具界で、怪物級ともいわれる超ヒット商品となった。

 

 2018年顧客満足度世界一の文房具メーカーになるという目標を掲げているパイロット。具体的にどういうことか。当時の社長を務めた渡辺によると

 

「ひとつの目安としては売り上げであり、シェアであると思っている。お客様が満足してうちの商品を使ってくれた結果が売り上げやシェアに表れるので。それが世界一になったからといって必ずしも顧客満足度世界一とは限らないが、ひとつの目安にはなる」(本書より)

 

 1918年に創業されたパイロットコーポレーションは今年、創業100周年を迎える。「フリクション」のような独創的で真似できない技術は、これからもあらゆる現場で求められるに違いない。「フリクション」の画期的なアイディアも香嵐渓の紅葉などからセレンディピティ(偶然の発見、予期せぬ幸運)を得たものだった。中筋が歩んだ30年の開発物語には、あらゆる分野のビジネスにも応用できるアイディアのヒントがつまっている。

 

 

 

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書名  : 「消せるボールペン」30年の開発物語

著者  : 滝田誠一郎

定価  : 本体720円+税

発売日 : 2015/4/1

発行  : 小学館