借りたのに返せない…
「奨学金」地獄に苦しむ若者の実態

 

 

 奨学金を返せない人が増えている。昔、奨学金を借りたことがある大人からは、「借金したのは自己責任だ」、「借りたものは返すのが当たり前だ」のような意見が上がるが、そういった人たちは本当に“今”の奨学金制度を理解できているのだろうか。

 

 「奨学金問題対策全国会議」を設立し、自ら事務局長として返済困難な人の支援などを続けている東京弁護士会所属の岩重佳治氏。多重債務や子どもの貧困に取り組むうちに、奨学金問題の深刻さを知ったという。岩重氏が上梓した新書『「奨学金」地獄』(小学館新書)には、奨学金の返済で苦しむ若者たちの実態が描かれている。

 

 戦後まもなく始まった日本育英会の奨学金制度は、2004年、独立行政法人日本学生支援機構に組織改革されたことで、実質的に金融事業化している。そのため、延滞が3か月を超えると個人情報信用機関に登録、つまり金融機関のブラックリストに名前が載ってしまう。さらに、9か月以上返済が滞ると日本学生支援機構から裁判所を通した支払督促が届くようになり、金銭的に困窮している場合でも、これから支払う予定になっている返済額も含め、一括で支払いを求める「繰り上げ一括請求」を要求されてしまう。また、ほとんどの人が両親や祖父母などの身内を連帯保証人にしていることが多く、「身内に迷惑をかけたくない」という思いから自己破産できずに苦しんでいる人も多いという。

 

 そもそも奨学金とは能力がある学生に対して金銭を給付する制度であった。さまざまな奨学金制度がある中、奨学金の総額9割を占める日本学生支援機構は2016年まで100%が貸与型であり、無利子あるいは、低金利とはいえ利子のある奨学金を借りる人が大学生の5割以上を占めている。つまり2人に1人以上の学生が大学卒業と同時に借金を抱えて社会に出なくてはいけない状況にある。

 

 世論の高まりを受け、アベノミクスが2016年に導入を決めた給付型の奨学金が2018年度から支給される。しかし対象は2万人ほどで住民税が非課税な家庭に限っており、自宅から国公立大学に通う人に支給される金額で2万円。一人暮らししながら私立大学に通う人でも4万円の支給である。2016年に日本学生支援機構が公表した奨学金を借りている人数は約132万人。給付型奨学金の対象2万人ではほんの一握りにしかならない。

 給付金額も明らかに足りていない。日本育英会時代の奨学金を利用したことがある人は勘違いしている場合が多いが、「学費が高くて払えないなら、国立大学にいけばいい」という人もいる。しかし、本書で紹介されている1975年の国立大学の授業料は3万6000円、入学金5万円。この金額なら現在の奨学金で払えるが、ここ数年で授業料、入学金は驚くほど高騰している。2016年の国立大学では、授業料が53万5800円、入学金が28万2000円。国立大学だからといって安く入学できる時代ではないのだ。

 

 奨学金問題は返せない本人たちだけの問題ではない。金融ビジネス化して大きな問題を抱える奨学金制度は、終身雇用制度の崩壊、非正規雇用の増加により収入が不安定になったことなど、日本が抱える大きな社会問題が大きく関わっている。さらに返済に苦しむ人は負担の大きさから、結婚はもちろん、子育てしている余裕もなく、少子化にもつながってしまう。

 本書では奨学金で苦しむ人々の実例を挙げ、ポイントを押さえながらそれぞれの解決策を提示している。

 

「新たな制度の導入の議論が活発になっている反面、この救済制度や返済制度の見直しがないしろにされているということです。もちろん新制度の導入は、滑落の危険のある海岸の岩場に柵を作るのと同じで、とても大切です。しかし、まさにいま、目の前の海でおぼれている人がいるのです。この切迫した問題のほうこそ、解決が急務だと私は考えます」(本文より)

 

 奨学金制度を改革するうえで、今回の給付型奨学金の導入は大きな一歩になるのではないだろうか。そして「これから借りる人」だけでなく、「返済している人」の負担を軽減しなければ、日本が抱える社会問題は改善へ向かわない。奨学金の返済に溺れる若者を救う助け舟になりうる一冊だ。

 

 

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書名  : 「奨学金」地獄

著者  : 岩重佳治

定価  : 本体780円+税

発売日 : 2017/02/01

発行  : 小学館

 

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