自著を語る4
細川貂々
『お多福来い来い てんてんの落語案内』
2018.9

 

生きるのが下手な人へ

 こんにちは、細川貂々です。漫画家をやっております。
 本当のことを言うと私が落語についての本を出すなんて思ってませんでした。私の人生で今まで落語に接する機会はあったけど、ずっと素通りしてきたのです。ツレ(夫)は学生時代から落語が好きだったので「落語はマンガを描く時のストーリー作りの勉強になるから聴きなよ」と勧めてくれたのですが、どうしても興味が持てませんでした。
 それなのに落語を聴いてみようと思ったきっかけは、自分が人より生きづらい何かを抱えてることに気づいて「それって一体なんなんだ?」と研究するようになってからです。研究の結果わかったことは「私は子どもの頃からずっと母親に支配されていた」 ということでした。これに気づいた時は本当に驚きました。他の人もみんなそうして母親に支配されて生きてるものだと思っていたからです。それからは親子の問題について勉強するようになりました。そういう時にご縁があって釈徹宗先生主催の落語会に行くことになり「弱法師」という落語を聴く機会に出会ったのです。
 この落語は親と子の関係性を描いてるもので、私は落語を聴いてる間中「どうかこの親子は仲直りするオチで終わりますように」と祈ってました。でもオチは「何を言ってるのかさっぱりわからない」というもので……、なんだかそれがとっても衝撃的だったのです。だって落語って「聴いてる間も笑えてオチで大爆笑! ああ、今日も思う存分笑った!」とスッキリして終わるものだと思っていたからです。
「なんだ? このモヤモヤしたスッキリしない感じは!」と、帰りの電車の中でずーーっと「弱法師」という落語のことを考えました。そして「人の弱い部分を描いて笑えない作品だったけど、親子のすれ違いの気持ちや時間の流れが鮮明に頭の中に残る不思議な落語だな」となんだか腑に落ちたのです。そこから「落語って単なるお笑いだと思っていたけどもっと奥が深いのかも……」と興味を持つようになりました。
 その後、他の落語もいろいろ聴いてみたのですが、主人公はみんな「生きづらそう」な人たちばかりで、そういう人たちの苦労を馬鹿にするのではなく、むしろちゃんと認めたうえで笑い飛ばしてしまってるところが「なんか良いなあ」って思うようになりました。
 それからだんだん落語の主人公を自分と重ねて考えるようになり「この落語の主人公は自分に似てるな」とか、「好きだな」って思うキャラを見つけました。
 私は上方落語に出てくる喜六が好きです。いろんなことをうまくやりたいのに失敗しちゃうというところが自分に似ている気がします。なので落語を聴いてて喜六が出てくると「わ、うれしい」とテンションが上がり、その落語を好きになります。他にも生きるのが下手な人が出てくる落語を聴くと「いろんな人がいるな、私もいていいんだな」とホッとします。そしてできたら生きるのが下手で回り道をしちゃうけど、最後はハッピーエンドという落語を聴きたいです。
 そんなふうに「自分が大キライ」だった私が落語に出会い、徐々にその魅力に目覚め、登場人物たちの生き方を通して自分の人生に希望を持てるようになったことを描いたのがこの本です。古典落語の名作を紹介していますので、落語に興味がある方にはもちろんですが、私のように生きづらさを感じている人を励ませるよう、たくさんの幸せが来るよう願いを込めて描きました。
 まだまだ私は初心者なので、もっとたくさんの落語を聴いてこれからも落語道を楽しんで行きたいと思います。

 

 


『お多福来い来い てんてんの落語案内』
細川貂々/著 
定価:本体1,200円+税
小学館・刊
A5判 224ページ
大好評発売中
ISBN 978-4-09-396543-9

 
 
 

 
 
 
 

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