海が砂漠化する

海の森が消えていくの項では、埋め立てが海森を消してきたと書いた。ここでは、埋め立てていないところの問題について書こうと思う。埋め立て以外は問題ないかというと、そうじゃないから問題は、深刻で根深い。今や日本中の海で問題となっているのが、「何もしていない」はずの海から海森が消えている現象で、それが「磯焼け」だ。

我が家は、神奈川県の三浦半島の海辺にあるのだが、家の目前には海岸道路を挟んで磯と砂浜が広がっていた。娘たちが小さい頃は、タコなどを捕まえて遊んでいた浜があった。だが数年前から砂浜が消え、海岸を浸食した。残っている磯の景色も変化した。そして、ある日の大潮の干潮時、磯を見た僕は言葉を失った。

海面上に露出した磯に、今まではびっしりと生えていたはずの岩ノリや海藻など、磯にいる生き物がいなくなっていた。そこには、ただのゴツゴツした岩場しかなかった。岩場は、白くなり、鳥の糞に覆われているかのようだった。磯焼けだ。

磯焼けというのは、磯枯れともいい、元々は伊豆半島の漁民の言葉で、磯の海森が枯れて、磯が焼け野原のようになり、結果として漁村が疲弊するという意味だった。我が家の下でも、この磯焼けが、ついに起こった。

磯焼けは、藻類学者の遠藤吉三郎さんが1903年(明治36年)に農務省へ出した報告書で使われ、今は環境用語として使われている。もう百年以上前から報告されていた現象である。ちなみにその遠藤さん、札幌農学校水産学科(現北海道大学水産学部)の主任だった人で、日本にノルディックスキーを広めた人としても知られる偉大な藻類学者である。

磯焼けすると磯が白くなり、生き物がいなくなる。白くなるのは、石灰藻(サンゴ藻)とよばれる岩に張り付いている白っぽい藻だけが生き残るから。他の藻類はいなくなり、貧植生という貧しい磯の状態になる。それがさらに進むと、生物のいない砂漠の海、いや死の海になる。

磯焼けによって藻場の消滅が進行していても、なぜかウニがその白い岩場で生き残っていることがある。だから、磯焼けはウニの食害によるものだと思われている。確かにウニによる食害という面もあり、これまでに全国の磯で相当な量のウニが駆除されてきた。しかし、駆除されたウニも寿司ネタになる身の部分は痩せ、栄養が足りない。

また、足の踏み場もないほどウニがいても、海森が豊かに広がっていることもある。だから、ウニの食害だけじゃ説明が付かなくなっている。磯焼けには、もっと根深い原因があるようだ。

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