関西空港がつくった大漁場

漁師や漁業協同組合などが、人工漁礁といって魚が好む環境を人為的につくることがある。コンクリートのブロックや廃船をわざわざ沈めて作る。2006年には、アメリカ海軍が3万トンの退役空母を人工漁礁としてメキシコ湾に沈めて話題となった。タコ壺の考え方も一種の人工漁礁だろう。住み処を用意してやることで、魚を集めようというのが人工魚礁だ。

その一方で、昔から金気(かなけ)とか金っ気(かなっけ)といった言葉があり、漁師がよく使う。「あそこは金っ気が多いから魚がいる」といった表現がよく聞かれる。鉄橋の下とか、海底に沈没船があるところなど、経験則から魚が集まるとして語られていた。

戦後になり、残った大量の砲弾を沈めた海域などが、いい漁場になっているという話も昔はよく聞かれた。ところが不思議なことに、飛行機が沈んだところには、魚が集まらない。それどころか海藻も生えない。沈んだ飛行機は魚礁にならない。なぜだろうか。

その答えが関西空港にあった。関空は、すべてが埋め立てによる日本初の人工島空港だ。ところが、海底の地盤が粘土質で柔らかいために、当初から地盤沈下が予測され、その対策のために建設時に鉄板や鉄杭を大量に投入した。そして護岸を垂直ではなく緩い傾斜にした。すると、空港の周りに海藻が増え始め、ついには海森ができたのだ。

この結果は、それこそ想定外!だった。地盤補強のために入れた鉄が功を奏したのである。これが、金気である。航空需要の低迷で業績悪化に苦しみ、無駄ともいわれる関空だが、金気のおかげで新たな海森ができ、周囲には魚介類が増えている。

今や関空周辺の藻場面積は57ヘクタールに達し、大阪湾全体の藻場面積の13%にあたるほどになった。魚介類は140種ほどが確認されている。空港島の周囲500メートルは禁漁区になり、海森を恒久的に保護している。大阪湾に自然が戻り始めた。

沈んだ飛行機が魚礁にならないのはなぜか。それは飛行機の機体がアルミ合金であるジュラルミンだからだ。アルミは魚が好きな金気じゃないのだ。金気とは水に溶けた鉄分を意味するのである。「鉄気」と書いて「かなけ」と読むこともある。同じ金属でもアルミは金気じゃない。環境破壊が懸念された関西空港だが、鉄があれば海森ができ、魚たちが集まってくることがはっきりしたのである。

この海の鉄分、それこそがこのエッセイのテーマだ。海の鉄分は、疲弊した海を再生させる救世主となる。そのメカニズムをこれから解き明かしていく。海の鉄分は、これからの日本の復興に欠かせないものとなる。

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