第5回  日本は移民を受け入れる、受け入れない?(後編)

 
 前回は、移民に対して、多くの人が漠然と抱いている不安と誤解についてまとめました。
 今回はその続き。移民の受け入れに伴う課題について、さらに触れたいと思います。
 
 ■日本は、海外市場にとって魅力的な市場?
  
 そもそも、こちらが望むような高度のスキルを持った人材が、発展著しいシンガポールや香港ではなく、日本に来てくれるのかという問題もあります。
 例えば、安倍政権は今、経済特区をつくって外国企業を誘致しようとしています。しかし、そうした外資系企業では、本社と、日本へ派遣された外国人社員と、海外の取引先と、世界の学者や技術者と、世界の消費者と、実に様々な人と、いろいろな場面で英語力が必要になるのです。その上、高度な専門スキルを持った即戦力、交渉力、判断力、プレゼン力なども求められます。でも日本にはそうした人材が不足していて、今でも外資系企業では優秀なバイリンガル人材を奪い合っている状況だそうです。せっかく特区を作って誘致しても、人材がいなければ、外国企業は来ません。
 まず、日本企業はもっと英語力をつける必要があると思うけれど、例えば5年もあれば、英語教育の変更で少なくとも新入社員の英語力を画期的に上げることができるはずです。ほかの「○○力不足」も学校教育だけではなく、社会人に対しる教育訓練などでも補っていけるはずです。「グローバル人材」は聞き飽きるほどはやっている言葉だが、実際にその人材づくりに本腰を入れているとはまだ思えません。
 
 また、移民の受け入れはそんな貴重な人材育成にもつながるかもしれません。海外へ留学や転勤しなくても、国内で外国人と接することで世界の文化、言語、ビジネス・スタイルなども勉強できる。さらに、移民にとって住みやすい国になれれば、国際企業の社員も住みたくなる国になるはずです。その環境づくりにおいても、人材づくりにおいても、移民はインストラクターだと考えると、だいぶ前向きになれる気がしますね。
 
 ■外国人技能実習制度の建前と実態
  
 「外国人=安い賃金の労働力」という概念も、そろそろ考え直さないといけないかもしれません。
 日本は今のところ移民を受け入れていませんが、実は「外国人技能実習制度」という制度で、期限付きの外国人労働者を大量に受け入れているのをご存じですか?
 この制度は、農業や漁業、建設業など特定の職能を学ぶ前提で、外国人に「技能実習生」として在留資格を与え、3年間の滞在を認めるというものです。3年の実習を終えた人が、その後も日本滞在を希望する場合は、さらに2年間の滞在も認めます。今や、20万人以上の実習生が日本各地で働いているわけですが、それぞれ来日から長くて5年がたつと帰国せざるを得ないので、移民にはならないですね。
 
 もちろん、実習といいながら、習っているより働いているのが事実。それも重労働の場合が多い。2014年4月、この実習制度で働いていたフィリピン人男性が過労死しました。フィリピンにいる妻子を養うために岐阜県の鋳造会社で働いていた27歳の男性が、最低賃金で1カ月に78時間半から122時間半の時間外労働をしていて、過労から心疾患を起こしたのです。

 この制度の“キモ”は、外国人を「労働者」ではなく、「実習生」として扱うこと。だから、日本を支える元気な若者を誘致する政策ではなく、あくまで「国際貢献の一環」という設定になります。「あなたの国のために実習生に技能を教えて帰します。人づくりをします」っていう建前なんだけど、現実はそれほどうまくいっていない。
 だって、働く先は慈善活動を中心とするNPOとかではなく、営利目的の会社です。数年しか日本にいられない外国人労働者に、どれだけ技術を託せます?時間と気力をかけて一生懸命何かを伝授しても、会社や日本のためにそれを役立たせる暇もなく帰国することになってしまいますね。
 当然の結果、実習生に安い賃金で辛い肉体労働をさせているのが、この制度の実態なのです。

 実習生の中には、最低賃金で日本人が嫌がる辛い仕事に就く人もいます。賃金未払いや長時間労働など、労働環境が劣悪で強制労働に当たるケースもあるとして、国連や国際労働機関(ILO)から批判も出ています。
 実習の途中で逃げ出して、そのまま不法滞在者になる外国人も少なくありません。そんな方がもっといい環境で働ける場を探して長期滞在すると移民になるが、結局不法移民になるわけです。活躍の場があるのに、正式に認められないから、税金も払わないし、住民の権利も得られない。国も個人も企業も損する形になりますね。
 そうやって、日本企業と外国人がお互いに嘘をつきながら利用しているのが、この制度なのです。

 
 ■外国人は、安い賃金で使えるだけ使う労働者?
 
 英語も話せて、母国で国立大学を出ているような優秀な方も日本に来ているのに、3年や5年でみすみす帰してしまうのは、実にもったいない話です。
 僕は、せっかく日本に来て、努力した人を5年で帰してしまうのではなく、頑張って成果を出した人は更新可能にして、日本に長くいられる制度に改善したらいいと思っています。それを一定の回数更新したら、永住権を与えるというように、段階的な移民制度に移行していったらいいんじゃないかな。
 さらに、日本企業が劣悪な条件で外国人を働かせないように、実習生にはいつでも働き先を変えられる権利を持たせる。その代わり、労働ビザは、雇用主がいなければ更新できないようにする。
 そうすると、実習生からスタートしても企業は必要な人材と思えば大事に育てるし、外国人も日本にずっと居たいと思えば、勉強にも仕事にも励むでしょう。
 
 いずれにしても、「外国人は、安い賃金で使えるだけ使う労働者」という概念は、見直すべきです。長時間労働など、日本人自身の働き方自体も、改善していかないといけません。
 外国人がきちんと働ける環境をつくるということは、結局のところ、日本社会の働き方も変えていくきっかけにもなるのではないかと思います。
 
 ■移民のパワーと、それを受け入れるアメリカ人の多様性
 
 「移民なしでアップルは存在しません。私たちの成功と革新は、移民の力がなければありえません」。 アップル社のCEOティム・クック氏は、トランプ大統領の入国禁止令に反対してこう発言し、影響を受ける社員にはあらゆる支援をすると約束しました。
 前述の通り、アメリカは現在、人口の約13%が移民です。移民がいなければアメリカの繁栄はなかったというほど、移民やその子どもたちの活躍は、あらゆる分野で際だっています。
 例えば、総収入で全米上位500に入る企業(フォーチュン500)の40%が移民か、その子どもによって設立されています。
 特にIT企業には、アップルのスティーブ・ジョブズ氏(シリア系移民2世)をはじめ、グーグルのセルゲイ・ブリン氏(ロシア系移民)やアマゾンのジェフ・ベゾス氏(キューバ系移民2世)など、その活躍が目立ちます。ピュー・リサーチ・センターの調査では、IT系企業上位25社の創業者の6割が移民か2世です。
 移民やその子どもたちは、向上心や独立心、ハングリー精神に溢れ、新たなビジネスモデルを掘り起こしていると思われるのです。
 
 最近、こんな話を聞きました。
 難民がヨーロッパなどで難民申請をして受け入れられた時、たいていの国では、こう言われます。
 「この国へようこそ。この国で安心して生活してください。で、いつ帰るんですか?」
  でも、アメリカに来た難民は、こう言われます。
 「アメリカへようこそ。この国で安心して生活してください。で、いつ国籍をとるんですか?」
 相手が帰る前提ではなくて、国籍をとる前提で外国人と触れ合うのが、アメリカ人だと。
 僕はこの話を聞いて、嬉しく思いました。
 
 もちろん、日本はアメリカとは違います。もともと多民族で社会が成り立っているアメリカと、島国で均質的な日本では、移民に対する考え方も大きく違うはずです。
 たぶん、多くの方が移民に対して持つイメージは、「何となく怖い」とか「危ない感じがする」というもの。外見の異なる人間や、異文化の人間に対する根源的な警戒感からくるものも少なからずあるでしょう。これはアメリカにも、世界各国にもある反応であって、まったく驚かないところです。
 人口減少が日本を失速させると言われても、外国人が入ってくることにはやっぱり抵抗がある、こうした感情は、法改正や条例ですぐに変えられるものではありません。また実際、移民や難民が入ってくることがあれば、文化的な摩擦や混乱が少なからず起きるでしょう。
 この国民の気持ちも、不都合な事実も認めたうえで冷静に議論を進めないといけないのです。
 
 ■移民が来たら、日本の文化はなくなってしまう?!
 
 この連載のはじめにも書きましたが、これは日本の皆さんが決める問題です。
 日本の未来には、いろいろな選択肢があっていいと思います。
 人口が減り、高齢者が増えたら、国を支える労働世代の方は重荷を背負います。高齢者も大変になるでしょう。
 それでも、外国人が来るのは嫌だ、日本人だけで乗り切ると皆で覚悟を決めたらできるかもしれない。もしかしたら、AI(人工知能)やロボットをどんどん導入したら、何とかなるかもしれないね。
 
 ただし、「移民には犯罪者が多い」とか、「移民が来たら失業率が増える」というのは偏見であって、議論の邪魔になるものです。移民政策にある本当のメリットやデメリットを知っておいてほしい。その上で、どうするかをきちんと考えたらいいと思うのです。大事な点は、問題から目を背けることではなく、データを精査し、議論を重ねて、国民の感情をも考慮しながら、これから日本はどんな道を選ぶのか、皆で考えることなのではないでしょうか。

 移民が来たら、日本の文化がなくなってしまう、と思っている方もいるかもしれません。
 でも、そういう方は、もっと自国の文化に自信を持ってください。日本の文化はとても魅力的です。
 それに、そもそも日本文化は世界各国から大きな影響を受けていますよね。
 皆、椅子に座り、洋服を着て、パソコンを使って仕事をしている。サンドイッチやパスタやラーメンを食べている。人気スポーツは野球やサッカー。歴史的に見ても、日本人は海外の文化を吸収して、上手に取り入れてきたのです。
 それでも、この国の文化は失われていません。世界に誇る独自の文化を根強く持っています。僕の周りの外国人はみんないうけど、在日の間、日本を外国風に変えるというより、自分んが日本人っぽくなるという。現在、移民は人口の1%ぐらいしかいないが、それが5%になっても10%になっても同じように、海外の皆さんが日本の色に染まるはず。
 逆に、日本の魅力に気づいて来日する人も多い。武道、生け花、書道、日本舞踊などを一生懸命勉強している外国人もいる。日本文化を失う働きより、移民によってそれが守られる効果があるかもしれません。
 日本人は、もっと自信を持ってください。日本の古い文化や新しい文化に、熱い視線を送っている人々が世界中にいるのですから。

 
 ■国際社会の中の日本の役割
 
 もう一つ忘れていけないのは、日本は孤立した国ではなく、国際社会の一員だということです。
 島国の日本に、難民は簡単にはたどり着けません。上に触れましたが、たどり着いた時は、その瞬間から難民として受け入れなければいけないという義務があるけれど(日本も加入している難民条約に、やってきた難民を国境へ追放してはならないという条項がある)、これまで日本政府はやってきた難民の多くを「難民」ではなく「経済的移民」と認定して、移民は受け入れないという方針から彼らを帰してきました。
 それがこの先、国際社会の一員としてどういう目で見られるのか、少し心配ではあります。
 
 国連の発表によると、2015年の時点で、天災や戦禍、人種・宗教・政治的迫害などから母国を離れて他国に逃れている難民は、世界中で6530万人います。
 そのうち、アメリカでは17万2700人、ドイツでは44万1900人、スウェーデンでは15万6000人、ロシアでは15万2500人が、難民として受け入れられました。
 一方、日本に難民申請を行った人は7586人、そして日本で受け入れるべき難民と認定されたのは、わずか27人でした。

 紛争による難民は増えたり減ったりしているが、それだけが心配ではありません。アフリカやアジアでは爆発的に人口が増えています。このまま温暖化が進めば、干ばつや水害で作物がとれなくなる地域も増えるはずです。気候変動による難民は、今後も増え続けるでしょう。
 日本の救助隊は、海外で災害が起きたらいち早く駆けつけて救急援助を行い、世界で高く評価されています。確かに瓦礫の下から住民を助けるのは素晴らしい活動です。医療支援も感謝されています。
 だけど、僕は思う。
 難民が安全に暮らせる国はそれほど多くない。中でも日本はたぐいまれに安全な社会です。難民を月に10人でも20人でも、もちろん何百人単位でもいいけど、日本が受け入れたらどれだけの人命が救われるのだろうか、と。災害援助ももちろん大切。だけど、日頃から難民を受け入れたら、より多くの人を助けることができるのです。
 
 もちろん、決めるのは日本人です。
 日本文化を愛する人だけでなく、日本の国際貢献や人道支援に期待する人もまた世界中にいます。
 この問題を考えながら、日本の皆さんには、ぜひそのことを覚えておいてほしいのです。