第1回  世界を変えていくのは、日本人だ!

 
はじめまして。このたび連載をすることになりました、パックンことパトリック・ハーランです。
 どうぞよろしくお願いします。
 このコラムでは、いま日本が抱える課題を皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
 言うまでもなく、この国はさまざまな問題に直面していますよね。 
 パッと思いつくだけでも、人口減少、高齢化、現役世代の先行き不安、デフレスパイラル、縮小する地域経済、年金システムの欠陥、地方の過疎化、原発やエネルギー問題、安保政策と地域の秩序保持、……ああ、暗くなってきた。

 いやいや、これじゃダメだ! 
 もともと根っから楽観主義で前向きな僕としては、この連載では、「こんな考え方もあるよ」とか「こんな解決策もあるんじゃない?」という建設的な議論をしてみたい。
 「パックン、それは楽観的すぎじゃない?」というぐらい、前向きに問題を捉えたいのです。

 アメリカの大学を卒業し、日本に来た僕はこの国の素晴らしさに惹かれ、ここに住むことにしました。
 そしてお笑い芸人になり、日本人の女性と結婚し、2人の子どもが生まれた。彼らは今、小学生です。
 僕は日本の選挙権は持っていないけれど、日本に家を買い、日本の学校に子どもたちを通わせています。
 もっといえば、日本に骨を埋める確率はほぼ100%!
 だからこそ、僕は日本の抱える問題に対しては大きな関心があるし、他人事ではいられません。
 たとえどんな問題があっても、大好きな日本に「No」ではなく「Yes」と言い続けたいのです。
 

■危機感を先送りし続ける日本

 考えてみると、日本が抱える問題はどれもちょっとした「タイムリミット付き」です。
 例えば、次回で取り上げようと思っている、少子化の問題。
 今、日本で一人当たりの出生率(2016年の合計特殊出生率)は1.46。
 人口をキープするためには、約2.1が必要と言われているし、今後も高齢者の死亡数が増加することを考えれば、1.46はかなり低い数字。手遅れになる一歩手前かもしれない。
 でも、これは急に起きた問題ではありませんよね。 
 出生率は、40年前の1973年から下がり続けています。
 当時はオイルショックが起こり、人口過剰による資源の限界という危機感が高まっていたため、少子化に対する問題意識は薄かったかもしれません。
 その後も出生率は下がり続けたけれど、政府はほとんど何もしないまま、十数年が過ぎました。
 そして89年に出生率が1.57となって衝撃を受け、はじめて少子化が問題視されたのです。
 先行き不安の大きい年金もそうだけど、「これはまずい」という事態になるまで、危機意識も対策も先送りにされてきました。


■安心、安全、安定の日本社会で「平和ボケ」に陥った日本人

 日本は「失われた20年」と言われるように、僕が来日してから景気が良いと認識されたことは一回もありません。
 でも、景気が悪いとはいえ、失業率は先進国の中でも低い水準を保っています(ILOのデータによれば、2015年は3.40%で188カ国中159位と、かなりの低水準)。
 もちろん、暴動も、銀行の取りつけ騒ぎもほとんど起きていません。
 就学率や識字率などの教育レベルも、依然として高い。
 電気やガス、水道などのライフラインが安定して供給されていることや、毎日ほぼ正確に運行される交通機関など、社会インフラも世界有数レベルにあると言っていいでしょう。
 オーストラリアのシンクタンク、経済平和研究所が発表した2015年度の「世界テロ指数」では、最下位の124位。1日に平均20件以上のテロが起きているこの世界で、日本はテロがほとんど起きていない、安心で安全な国なのです。
 また、デフレスパイラルが続いていても、日本人の生活はそれなりに安定しています。
 昨今は日本でも貧富の差が広がっていると言われるけど、内閣府による2016年の世論調査では、自分の生活程度が「中」だと感じている人の割合は(中の上や中の下も含めれば)、92.2%もいる。
 
 経済が停滞していると言われても、インターネット速度は上がっている。道路は整備されている。欧米でみるようなポピュリズムやナショナリズムの波も押し寄せてこない。テロも暴動もない。「失われた20年間」でも日本の安心で安全な社会は安定して機能している。少なくともそう見える。

しかし、だからこそ日本人の多くは、いわゆる「平和ボケ」に陥ってしまったのかもしれないと、僕は思う。
 賢明な人が多いから、この国にたくさんの問題があることはわかっているはずです。
 でも、それをずっと政府に任せっきりにしてきた。
 
 だけど、政治家に期待しているだけでは、現実はなかなか良くならないのです。
 なぜなら、厳しい現実を見つめて国民に決断を迫る政治家よりも、「いや、この国は強いから大丈夫!」、「税金なんてとらなくていいよ!」、「君たちの利益は守るからね!」なんて国民を安心させてくれる、非現実的な政治家の方が人気を得やすいから(某国の新大統領がいい例かな?)。
 民意が反映される民主主義の国は、もしかしたら政治家がもっとも世論に弱い人たちかもしれない。
 彼らは先導するというよりも、船が先に動いている方向にあわせて後からしか舵を切れないのです。
 だから、いよいよ手遅れとなるまで、問題は先送りにされてしまいます。

 だけど、考えてみてください。『アナと雪の女王』が流行ったのはいつでしたか? 
 2014年です。あら、あっという間に3年も経ってしまいました。
 だから東京オリンピックまでの3年も、あっという間のはずです。2020年はすぐにやってくる!
 日本の抱える問題も、今から議論しなければ間に合いません。


■日本は世界のお手本になることができるか

 僕は今こそ、日本の皆さんに声を大にして言いたいのです。
 日本は安心して住める国だけど、この先もずっとそうとは限らないかもしれない、ということを。
 今、立ち上がらなければ、子どもや孫の世代まで大変な思いをするかもしれないのです。
 でも僕は、これも声を大にして言いたい。
 日本人には、物事をいったんやると決めたら、やり遂げる力がある。
 
 例えば、世界の国々では大きな災害が起きた時、略奪行為が起き、治安悪化や無法状態に陥ることは少なくありません。残念ながら、2005年にアメリカで起きたハリケーン・カトリーナの際や、10年のハイチ大地震の際にも、一部の市民による略奪の光景がメディアで報道されました。
 しかし、東日本大震災の際にはそれが見られず、協調的で秩序ある態度を通した日本人の姿に対して、世界中から賞賛の声が上がりました。
 また震災後の復興に対しても、日本人の持つ我慢強さが「不屈の精神」と評されています。
 もちろん、多くの命が奪われた大災害は特別な出来事であり、滅多にあることではありません。
 でも、日本という国は、何か問題が起きても目的意識を共通にすれば、それに向かって高い技術力や互助精神、忍耐力を発揮することができる国だと思うのです。
 
 大切なことは、国民が危機を認識して、共通の目的意識を持てるかどうかです。
 40年間も手をこまねいて急に慌て出した少子化問題のように、さまざまな課題をこのまま政府任せにしていていいの? と僕は聞きたいのです。

 日本のように治安が安定し、経済が発展し、社会インフラが整い、教育や道徳が行き渡り、文化やマナーが成熟した国は多くありません。
 ヨーロッパやアメリカなどの大国より、この極東の国を参考にしたいと思っている国は多いはず。
 そして、少子化や高齢化は、どの先進国もいつかは通る道です。
 今この問題に直面している日本は、世界より先を走っているとも言える。
 だから、もちろん少子化はピンチだけど、捉え方によっては、日本が世界に向けて「正しい走り方」を見せ、問題解決力を示すチャンスでもあるということです。
 
 ただし、後から舵をとる政治家に失望しているだけでは、何も変わらない。
 きちんと問題を見つめよう。そして前へ進もう。
 日本人が皆で考えたら、きっと大変な問題も解決できるはずだから……なんて思ってしまう僕は、やっぱり楽観的すぎるのかな。
  
 次回からは、具体的に課題を一つずつあげていきたいと思います。
まずはじめに取り上げる「KAIZENのタネ」は、懸案の「少子化問題」です。