• パックンこと、パトリック・ハーランです。
    ここに骨を埋めるつもりの僕が、愛する日本の未来のために、
    毎回「皆さんと一緒に考えたい問題」をひとつ提示します。
    難しい話はナシで、 ちょっとだけ「国内外両側からの視点」
    を知ってもらえたら嬉しいです。


第23回  進まない地方創生、どうしたらいい?(後編)

 

 前回は、地方創生が必要な理由を考えてみました。そして、現状の対策がうまくいかない理由も考えた上で、地方が活性化するためには一時的な対策ではなく、もっと長期的な視点や構造改革が必要だ、という結論を出しました。では、今回は具体的にどんな案があるかを考えてみましょう。

 ところで、この「地方創生」という言葉。考えてみたら「創生」は作り出すという意味で、地方はもともとあるんだから、ちょっとおかしくないかな。「地方創生」よりも、「地方活性化」とか「地方存続」の方がいいんじゃない? ぎりぎりの自治体なら「地方蘇生」でもどうでしょうか。

 間をとって、ここでは地方「創生」ではなく、地方「存続」のためのアイデアを考えましょう。

 まずひとつ考えられるのは、都会に住む人の内的なコストを上げること。都会に人口が集中することによって地方が過疎化し、その過疎化によって全国民がリスクを負うなら、「地方に住むメリット」をつくり、「都会に住むデメリット」を作り出せばいい。つまり「都会税」のようなものを作って、その税収を地方へ回すのです。
 前回の記事で登場したふるさと納税の仕組みでは、特産品を安売りすることで、その価値を下げてしまいます。ですから、モノは絡めずに都会と地方の現状をしっかり理解してもらった上で、それでもなお都会に住みたい人には、税金を多く納めてもらうのです。反対に、地方では住民税を減らすことも考えられます。

 そして、民主主義のもとでは、こうした政策が透明性をもって国民に提示されることが何より大事ですよね。東京に住んでいる人はいくら税金を払っているのか、地方に住んでいる人はいくら払っているのか明確に提示するのです。それによって、やはり地方に住みたいと思う人も増えるかもしれません。
 もちろん、こんな制度を嫌がる人は多いはずです。特に都会に住んでいる皆さんは猛反対するに違いありません。だから、導入する前にしっかり「地方存続の必要性」についての議論を通して説得しないといけません。ほかの制度をとる、地方の存続を諦めるなども、すべての選択肢を吟味した上で、納得する国民が半分を下回ったら当然、成り立たないのです。

 ほかに、年代別の対策も考えられます。
 たとえば、若い頃は都会でバリバリ働きたいけれど、子育ては地方の広い土地でしたいという人も多いでしょう。地方や郊外の自治体では子育て支援に力を入れ、子育て世代の税制を優遇し、子育て環境の充実を図るといった政策を、国と自治体をあげて、もっと積極的に推進したらいいと思う。今、大学の無償化が検討されているけど、まずは地方大学を無償化してもいいかもしれません。地方の空き家を使い、低コストで学生用のシェアハウスを提供することもできるのではないでしょうか。
 高齢者層にフォーカスして、地方の空いた土地に老人ホームを率先して作るのも一つの手です。アメリカやヨーロッパでよく見る「老人コミュニティ」も検討するべき。こじんまりした住宅が並び、医療施設、スーパー、公民館などがすぐ近くにあって、お年寄りのニーズに備えた環境で同世代の皆さんと交流しながら暮らせるわけです。日本でもできない理由はないです。

 地方に若い層に住んでもらいたいなら、その世代にフォーカスした対策を練った方がいいですよね。たとえば、福井県では実際に若者世代にフォーカスした政策を考えています。以前、担当者の方に聞いたところ、県内の方にも県外の方にも、大学卒業後にとにかく5年間福井に住んでもらうことを考えているそうです。5年住めばその土地に根っこが張り、そこでそのまま暮らす人が多いから。そのために若い人の働く場を増やし、職業紹介の制度を充実させたりしているそうですが、さらに職業訓練の場や人材教育のシステムなど、さまざまな整備も必要でしょう。5年間住めば、県が大学の学費を肩代わりするとか、空き家に住めば家賃が免除されるなどの政策も考えられますね。大胆な支出になるけど、それ以降も住み続けたら元は取れるでしょう。
 この場合は、自治体の自信が大事ですね。一回住んだら離れられないほど、福井は魅力的です! 2年半福井に住んでから東京へ移住した僕が言うから間違いない…。

 

長期的な視点で「サテライトシティ」構想を考えよう

 自治体を支える人材を集めたいなら、働く環境の整備がもっとも大事な点です。
 それを考えれば、企業が地方に移転するのが一番手っ取り早いのですが、実はすでに企業の地方移転を促す優遇政策は実施されています。政府は首都圏から地方へ本社機能を移転する企業の税制優遇を進めていますし、法人事業税を3年間は95%減額する長野県、90%減額する富山県や石川県など、誘致する自治体側が独自の優遇措置をとっている例もあります。

 でも、その成果ははかばかしくありません。2016年の帝国データバンクの調査では、地方から東京圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)へ転入した企業の数は、東京圏から地方へ転出した企業の数を6年連続で上回っています。地方では、慢性的な人手不足など労働市場が厳しいこともあって、むしろここ数年は東京圏から地方への転出数が減少しているのです。 

 2021年には文化庁が京都に移転する予定ですが、当初は他の省庁も移転を検討していました。でも、「移転による機能維持や向上」が見られないなどの理由で、話は進んでいません。
 雇用面の他、情報のスピード感やマーケットの大きさなどを考えれば東京圏にはかなわないし、東京圏に取引先が集中している影響も大きいのでしょう。

 では、どうすればいいのか。地方と都会の格差は、一朝一夕では解決できません。こうしたことは数年の短いスパンで考えるのではなく、10年や20年などの長期的な展望が必要です。
 特に日本は、政治機能も経済機能もすべて東京に集中していることが問題なのだとしたら、長期的に「分散型社会」を作っていく必要があるでしょう。
 たとえば首都圏に1時間程度で来られる埼玉県、神奈川県、千葉県、茨城県、群馬県などに「分散型特区」をつくることを考えてもいいかもしれません。金融関係は大手町ではなくて千葉に、製造業は筑波に、メディア関係は鹿島に、政府は高崎に……というように、各特区に企業が集まるインセンティブを積極的に増やしてサテライトシティをつくるのです。
 各地方にサテライトシティを作ることができれば、分散型社会はさらに広がります。少なくとも関東近辺の各県は存続できるでしょう。

 一極集中型以外のモデルはすでにあります。たとえば、都市化は進んでいるけど、アメリカは分散型経済になっています。経済の中心であるニューヨーク以外の地域に、多くの大企業が本社を置いています。アメリカで2番目に社員数の多いアマゾンの本社はシアトルにありますが、この本社では4万人以上が働いています。シアトルには、マイクロソフトやスターバックスもありますね。
 シリコンバレーは、アップルやグーグル、ヒューレット・パッカードなどのIT系企業が集まっていることで有名です。GMやフォードなどの製造業はデトロイト周辺に多いですが、シカゴのボーイングやモトローラなど、全国各地に分散しています。もちろん、政府関係はワシントンで映画関係はロスアンゼルスなどの文さんもあります。
「全ての中心地」東京と違って、一番の大都会、ニューヨークに集中しているのは金融業と放送業界だけだと言われています。

 ヨーロッパでも都市に人口集中していますが、首都に企業本社が集中する割合は、(2004年とやや古いデータですが)東京51.3%、ロンドン39.5%、パリ26.8%と、東京が一番です。東京に日本の半数の企業が集まっているんですね!
 人が集まるから、企業が集まる。企業が集まるから、人が集まる。ニワトリが先か卵が先かという話ですが、やはり企業の地方移転を進めなければ、東京一極集中はますます進んでいくでしょう。

 起業の移転を促進するためには地方でより積極的に職業訓練所や人材教育の場を提供すること、地方で起業しやすい環境を作ることなども大事だと思います。

 

働き方の見直しの一環として、地方存在の意義を考える

 さて、これまで地方存続のアイデアを考えてきましたが、これはとても複雑な問題です。この連載の中でも、かなり難しいテーマかもしれない。政府も自治体もいろいろな政策を考えています。でも、本当に地方存続を目指すならば、もっと長期的で根本的な改革が必要だし、国民の皆が意識しなければ解決できない問題です。

 時々、この問題に関しては “文化的な魅力のある地域なら若者も引っ越してくるはず”と言う方がいます。でも、僕はその見方は甘いと思っています。
 なぜなら若者はそこまで文化を見る目に長けていないから。例外もあるけれど、街の文化的な魅力や暮らしやすさに目がいくのは、だいたい成熟世代になってからでしょう。
 若い世代にとって一番大事なのは、自分のやりたい仕事があるかどうかじゃないかな。道に迷っている人でも、大都会なら選択肢が多くて、探している「何か」が見つかると思うでしょう。「東京に出たら何か仕事があるはず」とか「とにかく東京に出たい!」という人もきっといるよね。

 確かに、衰退していく故郷を見ていたら、そんな気分になってしまうのもわかります。でも、若い人たちの協力がないとこの問題の解決もないはずです。これからの地方を、日本を作っていくのは、そして地方経済、日本経済を支えていくのは若い人たちだから。けっして政治家のおじいちゃんたちじゃない(失礼!)。学校でも、こうした問題について考えて議論する機会が必要でしょう。

 でも、地方の存在意義がわかっていても、問題意識が高くても、なおる補償はありません。財政赤字を問題視しても、率先して税金を多く収める人もいなければ、自分の収入や生活を犠牲にして「地方創成」のために過疎地に引っ越す人も、なかなかいないでしょう。
 でも、皆が皆、高い家賃の狭い住宅と満員電車通勤を好むわけではありません。未来が明るい、元気な自治体で魅力的な仕事をしながら、ゆとりのある暮らしができるとしたら、その「地方の選択」をとる国民も少なくないはず。
 政府がリードをとり、問題解決につながる政策を進めた上で、魅力的な選択肢を個々の国民に見せないといけません。日本では今、さまざまな面から働き方や暮らし方の見直しがはじまっています。そうした動きと連動して、地方存続の問題も考えて、解決策を説くべきです。政府が動いていないなら、国民が背中を押せばいい。生活拠点を変えるのは難しいが、票の行き先を変えるのは簡単ですからね。

 

次回、第24回  地球温暖化は終わっていない! 今こそ考えたいエネルギー問題は、9月7日(金)公開予定です。

 

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