第4回  日本は移民を受け入れる、受け入れない?(前編)


 今回のテーマは「移民」です。
 少子化の回でも書いたように、農業や介護の分野などでは、今後ますます人材が不足することが予想されます。AIやロボットで一部は補えるかもしれないが、やはり生身の人間にやってほしいことはいっぱいありますよね。
 また、僕は社会の多様化にも前向きなので、基本的に日本が外国人労働者を受け入れることには賛成です。特に高度な技能を持つ外国人の受け入れは、日本の再成長のために必要だと思っています。だから、いろいろ含めて、僕は移民賛成派。というか、考えてみたら僕も移民だし。

 でも、日本で移民の話をすると、「移民?あり得ない!」と即座に否定する方も少なくないようです。
 日本には鎖国時代もあったし、開国後も移民に消極的な政策をとってきました。そのうえ最近は海外で移民・難民関係のトラブルが目立ちます。日本国民が不安を抱くのは当然かもしれません。
 でも、このまま少子高齢化が進めば、2050年には労働人口が半減し、3人に1人が65歳以上になると予測されている現在の日本だからこそ、移民の受け入れを呼びかける声も年々増えています。
 実際に移民を受け入れたら日本はどうなるのか、「あり得ない」で話を終わらせるのではなく、今のうちにしっかり考えてみませんか。感情的にならず、あくまでも冷静に(僕も!)。


 ■世界に混乱を招いたトランプ大統領の入国禁止令

 トランプ大統領は就任直後、一部諸国の移民や難民のアメリカ入国を禁止する入国禁止命令を発行しました。結果、国内外で多くの人々の怒りを買い、国際的な混乱を招いています。
 「テロリストとつながりのある個人を見つけ出し、入国を阻止する」ことが目的とされていますが、そもそも「移民や難民に、テロリストや犯罪者が紛れ込んでいる」というのは本当でしょうか。
 国連のグテーレス事務総長は、「国際社会が向き合っているのは、とてもずる賢い国際的なテロ組織で、アメリカに入国する際は、紛争が続いている疑われやすい国ではなく、安心できそうな国のパスポートを利用するはず。すでにアメリカにいる者を実行犯として使うだろう」と語り、入国禁止令を批判しました。

 そういえば、大統領選挙中にトランプ氏の長男、トランプ・ジュニア氏がツイッターで投稿した発言も、多くの話題を呼びました。
 彼は、カラフルなキャンディ、スキットルズが山盛りに入ったボウルの写真と、シリア難民を毒入り菓子に例えたメッセージを添えたのです(多数の批判を受けて、後に投稿は削除されました)。
 「私がボウル1杯のスキットルズを持っていて、この中に食べたら死ぬものが3粒だけ交ざっていると言ったら、あなたは片手一杯分、召し上がるだろうか? これがわれわれのシリア難民問題だ」。

 しかし、それを見たある数学者が、実際の統計から難民の中にテロリストがどれほどいるかという試算をしてみたら、ボウル一杯どころか、オリンピックサイズの大きなプールにスキットルズを並々と入れた時に、せいぜい3粒入る程度だったというのです。
 この試算を報じたワシントンポストの記事(2016年9月20日)によれば、1年間に難民が関与したテロ攻撃で、アメリカ人が殺される可能性は、36億4000万の1。
 それに対して、アメリカの殺人率は10万人当たり4.5人。
 難民にテロで殺される確率より、アメリカ人に殺される確率の方が、はるかに高いというのです。

 実は、移民の多い地域は、そうではない地域よりも犯罪率が低い、というデータもあります。
 イギリスのガーディアン紙(2013年4月28日)によれば、2003年から12年にかけて、イギリス国内で東ヨーロッパからの移民が大量に流入した地域では、盗難、破壊行為、車の盗難などの犯罪が減少していることが、専門家の調査でわかりました。
 日本でも、在日外国人数は年々増えているにも関わらず、警察庁による在日外国人の検挙件数を見ると、2004年に4万7128件だった犯罪件数は、14年には1万5215件に減少しています。
 つまり、移民の増加が、犯罪の増加に直接つながるわけではないということです。
 でも、恐怖心や不安とともに一度根付いたイメージを払拭するのは簡単ではありません。


 ■移民が増えると、社会保障の額が増えて国の財政が悪化する?

 「移民は失業手当など社会保障を食い物にし、財政を悪化させる」─こんな懸念も、よく聞きます。
 これに関しては、こんなデータがあります。
 イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの2014年の研究によれば、イギリスに来た移民は、01〜11年の間に約200億ポンド(約3.4兆円)の財政貢献を果たしました。つまり、移民が国の財政にもたらした額が、移民に対する社会保障などの支出額を約3.4兆円も上回ったのです。
 また、ドイツには約6600万人の移民がいますが、彼らが国の財政に貢献した総額は、年間およそ220億ユーロ(約2.6兆円)にのぼるそうです。
 意外に思われるかもしれませんが、移民が納税する額は、移民が受ける社会保障の額を上回り、国の財政へ利益をもたらすことの方が多いのです。
 ちなみに、移民は仕事をしに来るものだから、これらは当然の結果だけど、助けを求めに来る難民についてはどうでしょうか? 実は米政府がその計算をしているのです。この10年間で難民が納税した額から、難民が受けた公的サービスなどの政府出資額を引いたところ、630億ドルの黒字だということがわかりました。
 しかし、そうわかったところで、トランプ政権は納税額の数字を無視し、出資額だけにスポットを当て、アンチ難民の感情を煽っているのです。その情報操作も発覚され、ニュースになっていますが、まあ、現政権のスキャンダルの中ではマイナーすぎて、あまり注目されていません。

 移民・難民は治安、財政に貢献しているようですが、考えてみれば、外国人がもたらすものはそれだけではありませんよね。
 外国人が日本社会に入ることで地元の国とのつながりができます。他国のライフスタイルやニーズも掌握し、当事者ならではの情報や見解を握っているのです。グローバル化を目指す企業などに重宝されて然るべきです。さらに日本人とは違う教育を受けてきた外国人の発想で、アイデアが多様化し、新しい商品開発につながったりして、世界市場を視野に入れた事業展開も可能になると思われます。


 ■移民が増えると、失業率が上がる?

 移民の受け入れは、その国の職を減らすのではなく、職を増やします。移民によって労働人口が増え、国内需要も増えますから、国内市場は大きくなる。消費の増大によって新たな雇用も創出され、結果的に経済成長が促されると考えられるのです。
 実際、1990年代半ばから移民の人口比率を増やしたスペインは、移民の流入によって高い経済成長を達成しましたが、2008年までは失業率も上がっていません(ただし08年以降は深刻な金融危機によって経済が低迷し、失業率も大幅に増えています)。

 日本でも、最近、コンビニや飲食店で働く外国人従業員がどんどん増えていますね。ローソンはベトナムに研修所を開き、日本に留学が決まった学生にレジ打ちや接客の基本を教え、日本に留学したらアルバイトとして働いてもらうそうです。
 少子化による労働者不足が続く中、今や小売業や飲食店等、あらゆるサービス業で外国人の労働力は必要不可欠になりました。それでも人手不足で、24時間営業をやめるファミレスも出てきました。
 だから、外国人が来たら自分の職が失われちゃうと思っている日本の皆さん、安心してください!
 外国人、もう来ていますよ。もう働いていますよ。
 でも、日本の失業率は上がっていません。むしろ、全国の求人倍率は歴史的な高水準で完全雇用に近い状態です。もしかしたら、外国人が来ている分だけ経済が成長していて、来ていない分だけ成長していないと言えるのかもしれません。

 それはアメリカでも同じです。先進国の中で成長率が著しく良いアメリカですが、移民の経済効果を除けば、それが日本と同じ低水準になる試算もあります。何より、全人口より移民が働いている確率も高く、人口の割合より、GDPの割合が大きいとみられています。しかも、経済に貢献しているのは、何も高学歴や高度の労働者だけではありません。
 例えば、アメリカの農業で働いている労働者の8割近くが外国人。特に多いのがメキシコ等中南米からの移民です。同じ時給を出しても、アメリカ人は辛い農作業をやりたがりません。移民がそれをやってくれるおかげで、アメリカや、日本も含まれる輸出先の外国の食卓が豊かになっているのです。
 それと同時に、移民が1人働いてくれるおかげで、農場で働かなくて済むアメリカ人が1人、手があくようになりますね。その人は本を書いているのかもしれませんし、映画を作っているのかもしれません。デザインを勉強しているのかもしれないし、次のグーグルになるような会社を起業しているかもしれません。とにかく、重労働をやってくれる外国人のおかげで、より「適材適所」ができ、アメリカの経済は早いペースで成長していると僕は思います。

 アメリカで2番目に大きいテキサス州を例にあげると、1兆6388億ドル(2015年)という巨大なGDPを持っています。これはオーストラリアと同じくらいのGDPです。
 そして、テキサス州の人口の17%が移民。さらに、労働人口のうち不法移民の割合は9%。つまり、ビサをもっていないために、いつでも強制送還され得る人が、州の9%の仕事をしているのです。
 一方、テキサス州全体の失業率は約4.5%です。
 ここで、少し考えてみてください。その9%の不法移民を追い出すとしましょう。空けられた仕事に、現在の失業者が(奇跡的に適切なスキルを持っているとして)全員、就職できるかもしれません。しかし、9%の労働者がいなくなり、4.5%の分だけ穴埋めができたことになります。つまり、4.5%の人手が足りなくなるのです。不法移民を追い出してしまったら、テキサス州の建設業者や農業者等は次々に破産するはずです。州全体でも生産力が落ち、消費者数も減り、経済が縮小する以外の結果は考えられません。
 アメリカの総GDPは世界1位ですが、アメリカ人だけでなく、移民もそれをしっかり支えているのです。というか、人口の13%が移民。親が移民の人を入れると、27%に上ります。「アメリカ人」と「移民」を区別すること自体が間違っているかもしれません(都合上、そう分け続けますけどね)。


 ■大事なことは、再配分とサポート

 もちろん、移民の受け入れが、その国に明るい未来だけをもたらすわけではありません。
 移民と失業率は比例しないと書きましたが、移民や難民が一気に大量に押し寄せてきた時、国民は混乱し、特に若者層の雇用が圧迫することも予想されます。実際、現在のヨーロッパの多くの国では、難民と国民の間に大きな軋轢が生まれ、社会不安に陥っています。

 こうした状態を防ぐためには、移民の受け入れを行う際に、どの国から、どんな資格や能力を持った人をどの程度、受け入れるのかという枠組みを事前にしっかり決め、徹底する必要があると、よく主張されています(もちろん、難民の場合は資格など関係なく、受け入れる義務が国際法上にあるけど、移民は条件を付けることできるのです)。
 例えば、特殊な技能を持っている外国人に限定するとか、医療や介護の勉強をした外国人に限定するというように、選定基準を絞ることもできます。
 僕自身は、テキサス州の話のように、特殊な技能を持ったスペシャリストでなくてもモチベーションや活力のある労働者が来て、力仕事をしてくれる代わりに、高度なスキルを持っている日本人がより生産力の高い仕事に就ければいいと思います。でも、一概に移民を拒絶するよりは、日本人が入れたい人にだけドアを開ける方がまだいいと思います。

 また、これが大きな問題だと思うけれど、AIの導入と同じように、移民を受け入れることによって、それまでの職を追われてしまう人は、やはり出てくるでしょう。
 社会構造が大きく変化していく時、いわゆる「負け組」(失礼!)は必ず出てきますから。
 そこできちんと考えなければいけないのが、「再配分」の方法です。移民の受け入れで、負け組になってしまった日本の労働者に対して、国がどうケアするか、ということです。

 移民効果で経済が上向いた時、もっと美味しい思いをするのは所得層の上の方にいる人たちです。自分の仕事を失うことなく、より良くて安いサービスや商品がいただけるから。さらに、消費者が増えるから商品が売れるし、人件費が抑えられ、生産性が上がるから企業の利益率があがります。よって、経営者や株の持ち主は大喜び。
 一方、単純労働者などは、移民が国全体の経済に貢献したとしても、自分の職を奪われたり、雇用競争に巻き込まれたり、賃金が下がったりするかもしれない。そうであれば、現状への不満が鬱積し、移民への怒りが湧き上がるのは当然です。

 だから、もしも移民を受け入れるなら、移民によって追いやられる人たちの「受け皿」をつくる必要があります。移民の受け入れによって得た収益を、ある階層が独占するのではなく、収益の一部で、例えば、職を奪われそうな人に、職業訓練の制度や補助金扶助の制度をつくるのです。
 「あなた方が、移民の受け入れを脅威に感じるのはよくわかります。今年度はこの人数の移民を受け入れる予定ですが、それと同程度の人数の職業訓練枠を設けます。国民の収入増につながるための機会を政府が提供します」などと、移民制度や職業訓練制度について説明することも大事です。
 もちろん、ベーシック・インカムと同じように、複雑な制度をつくらずに、影響を受けた人に現金を配るシステムも考えられます。その方が効率よく個人のニーズに答えながら、経済の発展につながるかもしれません。
 一部の「勝ち組」だけに美味しい思いをさせるのではなく、負けた人に対する気配りができるかどうか。それが解決できれば、移民の受け入れは日本を再成長させる大きな原動力になると思います。

 もちろん、他にも課題はたくさんあります。
 日本に来た外国人が安心して住めるような、インフラの整備や医療的なサポート、日本語教育、外国人が日本社会になじめるための公的サービスなど、社会全体としての取り組みが必要です。
 外国人の増加と犯罪率は直接、比例しないと書きましたが、外国人がその国になじめず、差別や不遇を受けることがあれば、不満が蓄積して、住民との間に軋轢や衝突が生まれるのは当然です。また、欧米でみる「ホームグロウン・テロ」の中で、移民の子どもや孫、つまり2世、3世によるものが目立っています。これは、外国人が平等に扱ってもらえず、その国に生まれ育っても溶け込めない、膠着状態の社会が問題だと指摘されています。
 外国人やその家族や子孫が、日本社会に受け入れられるための対策はいろいろ考えられるはずです。
 例えば、日本の言語や文化、生活スタイルやマナーについて学ぶ機会をつくるとか、暮らしに関する相談窓口をつくるなど、アシストを提供するべきではないでしょうか。主な移民は、地元のすべてを捨てて来日しています。チャンスを与えれば、彼らだって一生懸命、日本社会に協調するはずです。
 一方、日本の皆さんも、大事な仕事をやってもらうこと、社会において大きな役割を果たしてもらうことを忘れずに「来させてやっている」ではなく、「来てもらっている」気持ちを持つのも大事だと思います。受け入れる側も興味をもって学習する、柔軟なスタンスをとれば、双方のギクシャクはだいぶ減るのではないでしょうか。

 適正な再配分も、日本の労働者へのケアも、移民へのサポートも、既存コミュニティーとの調和も、もちろん難しい問題です。抵抗する人たちも出てくるでしょう。
 でも、方法はないわけではありません。
 皆できちんと議論して、「この国の未来をどうするか」を決めなければいけないのです。もちろん、その結果、移民を受け入れない決断を取る自由もある。
 でも、選択肢を考えず、議論もせずに、問題にも解決策にも目をつぶるのはよくないでしょう。

 次回は、移民受け入れに伴う感情的な問題について、さらに触れたいと思います。

 

次回、「日本は移民を受け入れる、受け入れない?」(後編)は、11月24日(金)公開予定です。

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