第6回  AI革命は、僕たちを幸せにするのか?

 

 日本をはじめとした先進国で、ますます進むとみられている少子高齢化や労働力不足。
 そうした中で、今、大きく注目されているのが、人工知能(AI)やロボットの積極活用です。

 実は、人間の代わりに作業を行う「産業用ロボット」の稼働台数は、日本が世界1位(2014年)。
 その数は世界全体の約5分の1を占めるというから、日本はまさに「ロボット大国」。もう寿司だってロボットが握っていますね。
 産業用ロボットはすでにあらゆる業界に導入され、僕たちの暮らしを支えているけれど、AIも、この数年間に人間の脳の働きに似た方法で学習する「ディープラーニング(深層学習)」の技術が発達したことで、大きく飛躍したと言われています。

 例えば、AIは医療現場でも活躍しはじめています。
 IBMのコンピュータ「ワトソン」は、患者の症状や個人情報を入力すると、膨大な臨床データを瞬時に解析して、精度の高いアドバイスをしてくれるそうです。今や新しい治療法や薬に関するデータは膨大になり過ぎて、人間がすべてを調べるのは不可能に近いけれど、ワトソンはわずか3秒で2億ページ分のテキストを読み込んで、正確な分析結果を導き出せるんだって。
 AIは人間よりもデータを握っていて、人間より正確な診断ができるということです。これは実にありがたい展開。例えば、アメリカ人の死因は1位が癌、2位が心臓病だけど、3位に入るのは診断ミスなどを含む医療ミスだという。AIが医療現場に立ち会うことで、年間何人の命が救われるのでしょうか。これも僕にはできない計算だけど、AIならすぐできるでしょうね。

 また、車の自動運転技術も、めざましい進化を遂げています。
 今はまだ運転手なしの自動運転まではいかないけど、AIが障害物を察知して自動ブレーキをかけるシステムや、一定の車間距離を保つシステムはすでに普及していますよね。こういう補助機能がもっと進めば、今話題の高齢ドライバーの事故も減るんじゃないかな。
 そして、あと10年もすれば、運転手が不要になる「完全自動運転」も実用化される予定です。完全自動運転が普及したらどうなるか、ちょっと考えてみましょう。

 まず、交通事故が減る。当然のことです。AIは居眠り運転や飲酒運転をしないし、ブレーキとアクセルを間違えることもない。運転中にスマホを見ないし、わき見運転もしない。ポケモンGOも、もちろんやりません。
 公共交通機関が少ない地域では、高齢者や障害者などの貴重な移動手段になります。
 また、AIがGPSで連携し合って渋滞緩和につながり、燃料のムダ遣いが減る見込みもあります。
 自動運転になれば、車を乗りたい時に呼んで、降りたいところで降りるようになるから、マイカーを持つ必要がなくなる。車の台数も、駐車スペースも減り、やはり燃料消費が減るはずです。
 自動運転なら狭い車線でも走れるから、歩道や自転車レーンも十分に確保できるようになるでしょう。歩きたくなる人や、自転車に乗りたくなる人が増えて、むしろ車に乗らなくなる人も出てくるかもしれません。
 …あれ、いいことだらけじゃないですか。環境に優しい、安全な社会が実現できるかもしれない!

 

■ロボット記者やロボットトレーダーが出現?!

 でも、そうしたら、タクシーや宅配トラックの運転手の皆さんはどうなるの?!
 残念ながら、運転手の仕事は減ってしまうよね。
 さらに言えば、車が減れば環境にはいいけど、車や自動車用品を販売する仕事も減ってしまいます。ガソリンスタンドの売り上げも下がるし、駐車違反を取り締まる、あの緑色のベストを着ている方々の仕事もなくなってしまいますね。

 また、AIの進化によって変化が訪れるのは、運輸業や製造業だけではありません。
 最近は、データの入力や計算だけではなく、社員の仕事ぶりなどのデータをもとに、AIが人事評価や配属を行う企業もあるそうです。AIが、企業の財務分析や会計管理を行うサービスも登場しました。つまり、このままではAIは人事部門や経理部門の職も奪いかねない、ということです。
 最近は、ロサンゼルス・タイムズやAP通信などでロボット記者が仕事をはじめたそうです。企業の業績報道や地震速報など、ある程度パターン化されている記事なら、AIがデータを分析して人間よりはるかに短い期間で自動的に記事を書いてくれるのです。この本もAIに任せておけば、締め切りオーバーで編集者に怒られないで済んだんだろうね!
 ゴールドマン・サックスでは、金融取引をコンピュータで自動化した結果、2000年に600人いたニューヨーク本社の株式トレーダーは、現在ではたった2人になりました。
 ホワイトカラーの仕事も、AI革命で奪われます。 

 

■大企業が大人数を雇用する時代は終わった

 野村総合研究所が発表した試算によれば、今後10〜20年で、技術的にAIやロボットに代替できるようになる職業は、日本国内の601種類の職業のうち49%にもなるという。
 仕事の半分をAIやロボットがするようになったら、僕たちは一体、どうなってしまうのでしょう。
 考えてみれば、僕たちコメディアンだって、うかうかしていられないよ!ジョークには一定の方程式があるから、膨大なデータを解析するのが得意なAIがジョークを書けるようになるのは、きっと時間の問題。それがウケるかどうかは人前でやらないとわからないけど、それも結局、生身の人間コメディアンと一緒。

 もちろん、この話はすべて推論に過ぎません。実際に、どんな職種、どんな人材がAIで代替可能になるかは、技術や形態がもう少し進化しないと、誰もわからない。
 でもAI革命によって、さまざまな分野でこれから従業員が大幅に削減されていく可能性は大きい。すでに生産効率を重視する企業では、ロボットやAIの導入で、同業他社に比べて、少ない人数で大きな利益をあげています。
 例えば、アメリカのある調査会社の分析によれば、実店舗で商品販売を行っている小売業者は、売上高1000万ドルに対して平均47人の社員を雇用しているのに対し、アマゾンは売上高1000万ドルあたり、わずか14人しか雇用していません。アマゾンは2012年に北米でシェアを80億ドル拡大したけど、これによって約2万7000人分の雇用が失われたことになるそうです。
 画像共有サービスを提供するインスタグラムは、2012年に時価相場10億ドル(約810億円)でフェイスブックに買収されたけど、その時の社員は、わずか13人。
 同じ写真関連で、対照的な例を見てみましょう。
 ピーク時に14万5千人もの社員を擁し、「フィルムの巨人」と呼ばれたイーストマン・コダックは、デジタル時代を迎えて2012年に破産しました。皮肉にも、世界で最初にデジタルカメラを開発したこのイーストマン・コダックは、新時代を生き抜くことができなかったのです。もはや大企業が大人数を雇用する時代は終わったようです。
 今後はどの業界でも、AI導入によってさらなる効率化を求めるようになるでしょう。

 

■機械は人から仕事を奪う?

 「AIは人類にとって最大の脅威になる」─。ホーキング博士は、かつてこう警告しました。進化のペースがはるかに速いAIは、そのうち人間を乗り越え、競争に負けた人類が自然淘汰する可能性が大きいと警戒しているのです。
 恐ろしい未来だけど、それはまだ先の話。
 もっと近い未来では、AI革命で仕事を追われる人が出てくるでしょう。

 ただし、また同時に、新しく生まれる仕事もきっとあるはずです。
 18世紀にイギリスで産業革命がはじまると、農業に従事していた大勢の人々が農村を離れ、都市部に流入してきました。そうした人々が工業労働の主な供給力となり、製品を安く大量に生産できるようになって、経済は大きく発展していったのです。
 その後も、オートメーション革命やIT革命などの経済革命が起こるたび、転職を余儀なくされた人は大勢出てきましたが、結果的には、革命によって新しい市場が生まれ、雇用が拡大してきました。
 機械は人々の仕事を奪ったのではなく、人々の仕事を変えたのです。また、製造コストとともに製品の値段が下がったことで、裕福な生活が広く普及することになりました。
 産業構造が変化して、仕事が減っても、その後には当時の人が思いもよらないような仕事が生まれ、新たな雇用が生まれる。人類の歴史では、こうした「創造的破壊」が繰り返されてきました。

 AI革命やロボット革命も、これから人間の社会に大きな変化をもたらすでしょう。
 でも、今回は、これまでとは状況が違ってくるかもしれません。失った分と同じだけ、新たな雇用が生まれることを期待するのは、ちょっと虫のいい話のように感じます。
 だって、新しく生まれた仕事もまたAIやロボットが代替するようになる可能性も高いから。 

 

■AI時代に僕たちはどう生きるか

 このまま技術が進化して、僕たちの世界はどうなっていくのか。それはまだ、誰にもわかりません。
 ホーキンス博士のように、AI革命を悲観する学者もいれば、人間にとってバラ色の未来が訪れると楽観論を語る学者もいます。
 僕は少し悲観的に捉えています。というか、最悪のシナリオを予想して、備えておきたい。予想が外れて明るい未来が来たら嬉しいし、予想が当たったら怖いけど、それでも何とか乗り切れるように。
 とにかく、今の時点でほぼ確実に言えるのは、これから世界的にAI化が進んでいくこと。そして、仕事を取り巻く環境が大きく変わっていくということです。

 このままAI革命が進んでいけば、人件費は大幅に削減され、多くの企業でリストラが行われるようになるでしょう。失業率が急上昇するかもしれません。仕事を失わなかったとしても、労働人口が過多になって賃金ベースが下がり、労働者の所得が落ちて、消費も冷え込むことになります。
 一方で、人件費削減で企業の利益は上がるから、株主、経営者などのオーナークラスは儲かって、貧富の格差が拡大する可能性も目に見えています。

 そうならないためには、やはり事前の対策が必要です。
 これは前にも書いたけど、大事なのは、AI革命で損害を受ける方へのケアです。AI化で得た利益を経営者が独占するのではなく、仕事を失った人の補填や職業訓練の費用にあてたらいい。
 今、ベーシック・インカム制度(全国民の最低収入を保障する制度)も議論されているけれど、AI化が進むなら、それぐらい大胆な策を考えてもいいかもしれません。AI化で失業した人も、焦ってとりあえずの職に就くのではなく、長い目で見て、本当にやりたい仕事や生産性の高い仕事を見つけることもできるかもしれないから。今よりも起業しやすい環境になり、経済の促進剤になるかもしれません。構造が大きく変わる時には、総合的に大きな利益が生まれても、必ず代償を払う方々は出てくるはずです。その時、国が最低限の生活を保障することで、人々の不満が広がるのを防ぐのです。

 AI時代を生きる子どもたちの教育も重要です。AIに飲み込まれない人材に育てるためには、AIにはない能力(例えば、柔軟な思考や読解力、新しいアイディアを生み出す想像力、複雑な問題を整理し解決する力など)を鍛えることが大事になってくるのではないでしょうか。
 また、僕たち大人も、これからの時代をどう生きるのか、今から考えておかなければいけないよね。万が一、今の職や仕事がなくなったら、どうするのか。その仕事に固執するのか。それとも、新しい可能性を探すのか。これから自分は、どんな生き方や働き方をしたいのだろうか、と。

 悲観的な話が続いたけど、AI革命は今のうちに準備ができます。
 個人個人はもちろん、仕事を追われた人たちのケアも、どの程度の規模のAIを導入したら、どの程度、生産効率が上がるかを計算して、そのうち何%を徴収するかなど事前に決めることができます。
 その税収を、失業手当にまわすのか、職業訓練の支援にするのか、ベーシック・インカムにするのか、新しい雇用につなげるための開発費用にまわすのか、いろいろ方法はあると思うけれど、そうした対策は国民が皆で議論して決めるものです。いざAI革命が進んで、深刻な社会問題になる前に、きちんと議論しておく必要があります。1970年代から気付かれながら、何も手を打ってこなかった少子化問題の二の舞にならないようにね。

 希望を持てる要素はもう一つあります。意外なことに、それは少子高齢化です。
 世界でも有数な少子化大国である日本は、AI革命の時代、ひょっとしたら「ラッキー」と言えるのかもしれません。人口減少に伴う労働力不足がAIやロボットの代替で相殺されて、ちょうど良いバランスになるかもしれないから。
 さらに、AI化によって仕事の効率が上がり、日本の永遠の課題とされる長時間労働や過労死の問題が解決できる可能性もあります。今より休暇がとりやすくなって、日本人が前よりハッピーになるシナリオも考え得るのです。案外、「少子化で良かった。少子化バンザイ!」という日も来るかもしれません。
 人間とコンピュータとの共存は世界共通の大きな課題だけど、「少子高齢化」や「人口減少」という問題に世界に先駆けて直面している日本は、もしかしたら、これまでにない新しい社会モデルをつくり出す最初の国になるのかもしれませんよ。

 

 

■次回、第7回 日本はデフレから脱却できるのか?(前編)は、12月22日(金)公開予定です。

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