• パックンこと、パトリック・ハーランです。
    ここに骨を埋めるつもりの僕が、愛する日本の未来のために、
    毎回「皆さんと一緒に考えたい問題」をひとつ提示します。
    難しい話はナシで、 ちょっとだけ「国内外両側からの視点」
    を知ってもらえたら嬉しいです。


第14回  年金のピンチを救うのは、国民の当事者意識

 

 少子高齢化が進む日本。元気なお年寄りは増えていますが、老後の生活に不安を抱く人はとても多いようです。
 2016年に日本ファイナンシャル・プランナーズ協会が20代から70代以上の男女1200名を対象に行った「老後とお金に関する調査」では、老後の生活資金に不安を抱く人は80%を超えています。特に20〜50代の一番の心配事は「年金がもらえるかどうか」でした。
 今回は、そんな年金について考えてみましょう。

 

人口ピラミッドの逆転で財源不足に

 日本の年金は「国民皆年金」。基本的に20〜60歳のすべての国民が国民年金への加入を義務づけられています(フリーランス、パート、自営業の方は国民年金。会社員は厚生年金、公務員は共済年金の中に国民年金の基礎年金を含む)。そして、受給資格を満たした国民は、老後に年金を受給できるということになっています。
でも今、その財源が大ピンチです! 

 

 そもそも年金は、自分が払った保険料が将来の取り分として貯まっていくのではなく、現役世代が受給世代を扶養する「世代間扶養」の仕組み。三世代が同居する三世帯が一般的だった時代は、親が子を育てて、その子が大人になったら老後の親を扶養するのが普通でしたよね。今は核家族化が進み、子どもが自分の親の面倒を見られなくなったため、社会全体が古来の家族のような働きをする制度が必要とされるようになりました。
 この仕組みがスムーズに機能するためには、「年金をもらう人より、年金を納める人の方が多い」のが大前提。ですが、この大前提を揺るがすことが起こったのです。
 まず、人口ピラミッドが逆転して、若者より高齢者の割合が増えたこと。
 さらに、男女ともに平均寿命がどんどん伸びていることです。
 具体的な数字で見てみましょう。

 

 まず、総人口の中で65歳以上の高齢者が占める割合は、1960年には総人口の5.7%でしたが、2015年には26.7%。約5倍近くも増えています。
 1960年当時の男性の年金受給開始年齢は60歳で、平均寿命は約65歳でした。
 女性の年金受給開始年齢は55歳で、平均寿命は約71歳でした。
 ところが、2015年の男性の年金受給開始年齢は65歳、平均寿命は約81歳。
 女性の年金受給開始年齢は65歳で、平均寿命は約87歳です。

 

 高齢者の数も、それぞれの受給年数も、どんどん増えています。この傾向は今後も続くでしょう。それが年金制度に大打撃になることは単純計算でもわかりますよね。
 今、国は年金の財源不足を消費税引き上げによってまかなおうとしていますが、それでも厳しいのが現状です。さらに皮肉なことに、消費税が上がると税収は増えますが、生活費も上がり、年金受給者が苦しむ結果になります。 

 そして、少子高齢化が進めば、個人に支給される年金額も徐々に下がっていきます。
 2015年に年金の支給額を世代ごとに試算した結果を厚生労働省が公表したところ、国民年金では、2015年に70歳になる世代は負担した保険料の3.8倍の年金を受け取れるのに対して、40歳になる世代以下は1.5倍でした。
 厚生年金も同じように世代格差が大きく、70歳になる世代は負担した保険料の5.2倍もの年金を受け取れる見込みなのに対し、30歳になる世代以下では2.3倍。
 具体的に金額で見てみると、2015年に70歳になる世代は、厚生年金で保険料1000万円を支払って、5200万円の年金を受け取れるのに対し、2015年に40歳になる人は2400万円の保険料を支払って、受け取る額は5900万円になる予定です。ただし、年金の支給額は経済成長の状況次第で変わっていきますから、今後、どうなるかはわかりません。
 この世代間の格差が、不公平だ! と問題になっているんですね。

 

年金保険料は累進課税にするべき

 また、納付率の低さも問題です。
 会社員や公務員は、企業や組合が個人の負担分を天引きして保険料を納付していますが、自営業者やフリーランスの方々は銀行振込や口座引き落としで支払っています。
 この納付率が60〜70%と低迷していて、国は納付率を上げるため、最近では強制徴収の基準を広げて取り立てを厳しくしている、とか。
 ただ、やっぱり保険料を毎月自分で払うのって面倒くさいですよね。国民年金の保険料も、所得税の源泉徴収のようにあらかじめ引かれるシステムにしないと、納付率はなかなか上がらないんじゃないかな。

 

 アメリカの会社員も、年金の保険料は給与から天引きで一律6.2%、自動的にとられています。企業も同じく6.2%を収めます。自営業の人は全額の12.4%を負担します。ただし、一律の税率に対しては批判も出ています。
 僕は、日本のように年金保険料は一律ではなくて累進課税にするべきだと思う。生活に余裕のある富裕層からはより多く、生活の苦しい貧困層からはより少なくとるということです。所得税もそうなっていますが、株などの金融商品の売買などで得た収入に対する税率が低かったり、まだまだ累進の度合いを上げる余地はあると思います。
 試算の再分配をすることで、貧富の差を是正し、分厚い中流階級の層を保つことで社会的な摩擦も減り、より多くの人にチャンスと資源を与えることでより流動性のある、ダイナミックな経済活動ができると信じています。あと、単純に弱者を守ることが気持ちいいですね。
 また、一般的には年金の財源を増やすために「消費税を引き上げて、国庫負担を増やす」という考え方もあるようですが、僕はそれには反対です。
 なぜなら、消費税の引き上げは貧困層へのダメージが大きいから。
 所得の多い富裕層にとって、消費の占める割合は大きくありません。
 でも貧困層の世帯では消費は所得のほとんどを占めています。所得の9〜10割が衣食住の消費ということもありますから、消費税の引き上げは死活問題になります。
税制を設定する国会議員の方々の年収は2000千万円オーバー。彼らは消費税が上がっても、毎月の貯蓄額が少し減るだけだが、収入がほとんど生活費に消える貧困層の方にとっては税金を払うため、食費や光熱費を減らしたりすることになる。議員の給料が400万円台だったら、政策がだいぶ変わるのではないかと思います。
 ただし、国民全員が公的なサービスを受けていますから、所得のない方でも、「社会の参加費」として何等かの税金を支払うべきだと思います。消費税も10%程度ならいいでしょう。でも、財源が足りないからといって消費税をどんどん引き上げていくのは危険です。貧困層に影響の少ない相続税や所得税、投資にかかる税(売却益や配当金にかかる税)、または法人税などはもっと引き上げてもいいと思いますが。

 

年金は「困った時の保険」?

 さて、年金はこれからどうすべきでしょうか? 先述したように、相続税を上げて富裕層から多く徴収して国庫を増やすのも一つの手ですが、それだけでは不十分です。
 僕はもう、国も国民も、年金に対する意識を変えるしかないと思っています。
 というのも、今の日本の年金は「手当て」的な性格が強く、「年金によって老後の生活が保障されるはず」という考え方が主流になっています。
 ですが、多くの国では年金は「社会保険」の性格が強く、皆で保険料を出し合って、大きなリスクに遭遇した時に保険が給付されるという考え方が主流です。
 アメリカでも公的年金制度があり、高齢者に年金が支払われていますが、多くの国民はそれに老後の生活を頼ってはいません。勤めていた企業から受け取る職域年金や、私的に準備した個人年金、貯蓄などを合わせて生活する人がほとんどです。

 

 日本では、今のお年寄りと同じ額をもらえないことに不満を抱く人も多いかもしれませんが、そもそも年金保険は本当に困った時の「保険」。そう捉えて、国は老後の資力調査をした上で、本当に困窮している人にだけ最低限の生活を保障する。国民は、基本的に年金に頼らないで、まずは貯蓄や私的な個人年金で生活することを目指す。
 あるいは、逆に年金を頼るものとし、現状の年金制度にさらに選択肢を増やして、保険料を多く払った人には、その分、支給額が上乗せされる、といったバージョンアップも考えられます。
 また、たとえば5万円の保険料を払ったら3万円分は後で戻ってくるけれど、2万円分は生活保護が必要な高齢者に回す、といった融合案もあるかもしれません。
 いっそ、デフレの記事にも出てきたベーシック・インカム(所得に関わらず国民全員に一律の金額を支給する制度)に移行するという大胆な策もあるかもしれない。

 

 まあ、このようにいろいろな策が考えられますが、やはり少子高齢化に合わせて、徐々に制度を変更していかないと、下の世代はますます苦しくなるんじゃないかな。
 ただ改革を行おうとすれば、当然大きな不満が出てくるでしょう。その前に国民がしっかり話し合わなければいけないし、実施の時期には段階的な移行策が必要です。

 

 今や少子高齢化や長寿化は日本だけの問題ではなく、どの先進国でも年金の財源不足や安定した制度の運営が大きな課題になっています。でも、日本は少子高齢化が顕著で、この問題ではいわばトップランナー。事態は差し迫っています。
 世界最大の人事コンサルティング会社マーサーは、毎年各国の年金制度を比較して評価指数のランキングを出していますが、日本は毎年下位の評価が続き、2016年度は27ヵ国のうちなんと26位! 年金制度が急激な少子高齢化や長寿化に追いついていないこと、税制や個人年金の仕組みが年金受給を促す形になっていないこと、政府の債務残高が大きいことなどが指摘されています。

 

変化を待っているだけでは、変化はやって来ない

 もちろん政府による制度改革は必要ですが、僕は国民一人ひとりの意識改革や対策もとても大事だと思っています。
 なぜなら、日本の皆さんは年金が不安と言いながら、自分が働けなくなった時にどうするかという危機感が薄いように思うのです。2014年に内閣府が行った国際比較調査(日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの4カ国)でも、老後の備えについて「特に何もしていない」と回答した高齢者の割合は、日本以外の3国では20%台なのに日本は42.7%。老後の準備を何もしていないという人が4割もいるのです。
 対策の方法も、日本以外の国では預貯金の他、個人年金加入や各種投資、老後のための職業訓練など多岐に渡っており、国民が当事者意識を持って備えているようです。

 

 僕のイメージでも、一般的にアメリカ人は日本人より自分の老後に危機感や当事者意識を持って備えているように思います。たとえば僕の母は67歳でまだ元気ですが、ちょうど今、自分の老後施設について調べています。彼女は小学校の先生で、アメリカの中産階級の平均より少し低いくらいの年収でしたが、家族に頼るつもりはないようで、早くから私的な個人年金にも加入していました。
 アメリカにはさまざまなタイプの老後施設がありますが、母は、病院併設タイプの施設に元気な今のうちから夫婦で入って、新しい人間関係を築こうとしています。
 このように施設や場所、コミュニティーなどの選択肢から「自分の老後ライフスタイルは自分で選ぶ」というのがアメリカの常識。暖かいところに引っ越す人も多い。だから、フロリダに行くと、ニューヨーク訛りの老人ばかりです。

 

 当事者意識と言えば、年金保険料の一部に積立制度を導入している国もありますよ。
 たとえばスウェーデンでは年金保険料は収入の18.5%ですが、このうち2.5%を自分の選ぶ運用機関に任せて積み立てることができるそうです。大まかに言えば、保険料の1/7を自分で運用できるのです。運用が成功すれば積立金を増やせますが、失敗したら自己責任。でも、全部なくなる訳ではない。なかなか面白い制度ですよね。

 

 日本人には、自分の年金が保険料の何倍にもなって戻ってくるのは当然、何かあっても国が守ってくれるのは当然、という考えの方も多いようです。
 でも、その「当然」は、今後はもう通用しないかもしれません。これからの時代を乗り切っていくには、「自分で何とかする」という当事者意識が必要だと思います。

 

 もちろん、世代格差が不満だと怒る若者の気持ちもわかります。怒って当然です。
 でも、怒るなら、そして現状を変えたいなら、まずは選挙に参加しなくちゃ!
 政治家は、責任も取りたくなければ、厳しい選択もとりたくないため、年金制度の失敗は認めないでしょう。失敗を認められないから、なかなか改革も進みません。
 もしもこんな政治家がいたら、話は別です。
 「年金制度は、今まで素晴らしい功績を残してきました。一番苦しかった戦後に日本を再建してくださった高齢者の方々に恩を返しながら、大勢の人々を救ってきました。ただし、このままではこれからの少子高齢化時代は維持していくのは不可能です。今こそ、皆で勇気ある改革を始めましょう!」
 ……まあ、似たような発言なら、ときどき選挙中に聞かせてくれる人はいますが、一度就任してからは改革の勢いが一気に消える傾向にあります。
でも、人間である政治家は当然、次の選挙だけを考え、人気取りの政策を重視するのです。だから、このままだと、有言実行で年金改革に踏み切る政治家は永遠に現れないかもしれません。ただ待っているだけではね!
 現状に不満を持つ若い人こそ、選挙に行って声を上げ、自分たちで動き出さないと、時代に合った政策や先を読める政治家は出てこないのです。

 

 何度も言うけど、日本は世界でもっとも少子高齢化の進んだ「高齢化先進国」。日本の皆さんが当事者意識を持って課題に取り組んでいけば、さらに安心できる、住みやすい社会は作れるはずです。今こそ世界の先駆けモデルを作るチャンスと捉えて、まずは皆さんから議論を進めてみませんか?

 

 

次回、第15回  いつまで他人事? 沖縄の基地問題 は、4月27日(金)公開予定です。

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