• パックンこと、パトリック・ハーランです。
    ここに骨を埋めるつもりの僕が、愛する日本の未来のために、
    毎回「皆さんと一緒に考えたい問題」をひとつ提示します。
    難しい話はナシで、 ちょっとだけ「国内外両側からの視点」
    を知ってもらえたら嬉しいです。


第24回  地球温暖化は終わっていない! 今こそ考えたいエネルギー問題

 

 去年(2017年)6月、アメリカのトランプ大統領は、気候変動抑制に関する国際的な枠組み、パリ協定からの離脱を表明し、世界に大きな波紋を起こしました。温室効果ガスの排出を規制して温暖化を低減させるという世界的な動きに、トランプ大統領はなぜ反対したのか。日本の皆さんは不思議に思うかもしれませんね。
 もちろん石炭業界などの国内産業に配慮した結果でしょう。でもそれだけではありません。実はアメリカの共和党議員の一部には、地球温暖化はリベラル派による“陰謀”や“でたらめ”だと考える人もいるのです。実際、トランプ大統領もアメリカの企業の競争力が下がるような規制を促すための中国の陰謀だと主張し、ツイッターで「地球温暖化はでっちあげだ」と発言したことがあります。また、一部の福音派キリスト教徒は、神様の手によって造られた地球は人間の手なんかによって破壊されることはあり得ないと信じ、温暖化の科学を否定するのです。

 しかし、平均気温やCO²濃度の推移、熱帯低気圧の発生数、海面水位などの観測結果をみれば、今まさに地球温暖化が起きていると考えるのは自然なこと。むしろ、温暖化を示すさまざまな事実を軽視するのは不自然でしょう。
 自分の考えと合わない意見を非常識とか非道徳、でたらめだと決めつけて、社会的な圧力で排除することを “Thought Police”(思想警察)と言います。気を付けたいですよね! 僕も普段からなるべくさまざまな意見を聞きたいと思っているけれど、地球規模においてはあまり個人の意見を尊重しないことにしています。もちろん対策についての議論は受けつけますが、「温暖化は起きていないと思う」という一般人による無根拠な主張より、正確なデータや科学者たちの指摘に耳を傾けたいと思う。それも真摯に。

 たとえば、62カ国の科学者の協力によって作成されたアメリカ気象学会の報告書『2015年 気候の現状』は、「気候変動に関する指標のほとんどが、地球温暖化の傾向が続いていることを示している」と指摘しています。
 世界130カ国から2000人以上の専門家の科学的知見を集約した国連の『IPCC第4次報告書』も、「温暖化には疑う余地がない」、そして「温暖化が人為的な影響である可能性が非常に高い(90%以上)」と指摘しています。こんなふうにあげていってもきりがないくらい、世界中のほぼ100%の気象学者が温暖化は進行中で、人為的な影響によるものだと断言しているのです。

 実際、2017年には南太平洋のソロモン諸島で5つの無人島が消滅しました。千近く点在する島と環礁から成り立つソロモン諸島ではこの20年間で年平均8~10ミリも海面が上昇し、かなり深刻な状況です。さらに南太平洋の島国であるツバルやキリバスも、将来的に水没する可能性が高いと懸念されています。さらに、このまま温暖化が進んでいけば、タイやインド、モルディブ、バングラディシュ、ベトナム、中国などの一部の地域が水没する可能性が高いと言われています。それどころか、世界中の海に面した地域で(その多くが人の集まる都会です)、将来的に大規模な移住が必要になると予想されています。

 問題は、どのくらいのスピードでこうした事態が起きるのかということ。先のことは誰にもわかりません。科学者がどんなに計算しても、さまざまな理由から予測が外れることもあります。
 では、予測に過ぎないからといって無視していてもいいのでしょうか。温暖化による環境破壊が各地で起きてから考えればいい? 
 いえ、それではあまりに無謀すぎます。こうした場合、「温暖化対策をした時の対策費用(コスト)」と「温暖化対策を取らなかった時の損害費」を天秤にかけ、今後どうすべきかを考えるのが、冷静な判断と言えるのではないでしょうか。

 まずは、温暖化対策をした時のコストを考えてみましょう。
 世界銀行の元チーフ・エコノミストだったニコラス・スターン卿は、イギリス政府の気候変動・開発における経済担当特別顧問として、2006年に「スターン・レビュー」を発表しました。これは地球温暖化を経済的に分析した報告書です。それによると、地球温暖化の対策コストは世界のGDPの約1%と算出されています。世界銀行によれば世界のGDP計は約8000兆円(2016年)ですから、その試算によると約80兆円のコストがかかることになります。
 また、温室効果ガスの規制を強化すれば、GDPが下がるかもしれません。あるいは再生エネルギーの研究に力を注げば、代わりに宇宙開発費や軍事費が削られるかもしれません。カーボン(炭素)税やCO²税も徴収されるかもしれませんね。こうした間接的な影響まで考えれば、温暖化対策にかかるコストは80兆円以上と言えます。

 一方、温暖化が起きたのに、対策を何も取らなかった場合の損害について考えてみましょう。
 このまま温暖化が進めば、数億人規模の人が水不足に苦しむほか、「異常気象」が「通常気象」となり、洪水や暴風雨の被害が拡大し、地球に深刻な影響を与えるだろうと気象学者たちは予測しています。熱波や洪水、干ばつなどが起こり、多くの病人や死者をもたらす可能性があります。干ばつによって農地が減り、世界的な食糧難にも見舞われるでしょう。大規模な難民の発生も予想できます。また、最大で3割の生物が絶滅の危機に瀕すると言われています。

 先のスターン・レビューでは、このまま温暖化が進んだ場合の損失額は、少なくとも世界のGDPの約5%(約400兆円)、最悪の場合は20%(約1600兆円)以上の損失を被るリスクがあると指摘しています。つまり、損失費用は対策費用の5〜20倍以上になる可能性が高いのです。

 でも、このまま温暖化が進んでいったら、とても1600兆円の損害でも済まないんじゃないかと僕は考えています。なぜなら、残った土地や食糧の奪い合いになって、世界的な戦争が起きる可能性が高いから。今、ヨーロッパには数百万人の難民が押し寄せて大変な事態に陥っているのに、それがさらに数千万人規模に膨らんだら、世界はいったいどうなってしまうのでしょう。

 さらに怖ろしいことに、科学者たちの過去の予測が外れていた──それも楽観過ぎだったということで、被害規模や範囲の予測を“より悪い方に”修正しないといけないことが最新の研究でわかってきました。
 2017年12月のネイチャー誌に掲載された論文によれば、これまで主に信じられていた平均的な予測よりも速いスピードで温暖化が進みつつあるというのです。科学者たちはさまざまな要因が気候に及ぼす影響を評価するため、高度なシミュレーション(気候モデル)をいくつも打ち立てていますが、この研究では、気候モデルの予測データを検証してみました。10年以上の衛星観測データを集めて各種の気候モデルと比べたところ、一番悪い予測が一番正確だったのです。
 その気候モデルでは、今世紀末までに地球の気温が5℃近く上昇すると予測しています。これは、これまで主に信じられていた平均的な予測を15%も上回る数値でした。このように、現実の気候変動が人々の予測より進行しているという論文は、近年いくつも発表されています。温暖化はないどころか、考えられているより、ずっと深刻な状況かもしれません。

 ……ああ、書いていたら、ゾッとしてきました。地球はどうなっちゃうの? 子どもたちは大丈夫? 孫やひ孫や玄孫たちは、いったいどうなるの!?

 でも、これまでの記事を読んでいただいている方はおわかりだと思いますが、僕は基本的にかなり楽観的な性格です。だから、こうも考えます。
 温暖化対策をすれば、確かにコストはかかります。でも、その対策によって新たに雇用も生みだされるでしょう。対策にかける費用の一部は誰かの給料になるわけだし、その副産物として幸福度が上がることもある。さらに、新しい技術やイノベーション、これまでになかった発想も生まれてくるはず。だから子どもや孫やひ孫、玄孫のことを考えて、たとえ少し生活レベルが下がったとしても、今の時代の僕たちが我慢する価値はあるはずだと。つまり、対策はできるし、やるべきです。問題は、それを実施する政治的意志と能力があるかどうかです。

 

世界的に進む“脱・炭素化”の動き

 さて、ここまでが前提になります(長くてすみません)。まとめればこんな感じです。
 前提その1、温暖化は過去の予測より早く進んでいる。
 前提その2、その主な原因は人間がつくっているし、その対策も人間ができる。

 さあ、ここからが本題。では、僕たちはこれからどうしたらいいのでしょうか。
 まず、温暖化の大きな原因となる温室効果ガスは減らしていかなきゃいけませんよね。
 日本は今、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料による発電電力量が約9割を占めていて、他の先進国よりも大きな割合になっています。
 しかも、その自給率はわずか6%。ほとんどの燃料を海外からタンカー船で輸入しています。
 第7回の記事でも紹介したように巨大タンカー船からはCO²のほか癌や喘息を引き起こす化学物質も大量に排出されていて、その化学物質の量は一隻につき自動車5000万台分に等しいという。世界には約12億6000万台の自動車があるというから(2015年現在)、巨大タンカー船は25隻で全地球上の自動車と同じ量の化学物質を出していることになる。そして地球にはいま巨大コンテナ船が400隻以上も就航している。これは大変な事態です!タンカー船の燃費を上げたり、排気規制を付けたりするのも大事ですが、化石燃料の輸入量を減らすのも大事。

 では、化石燃料による発電を減らすためには、どんな対策が考えられるでしょうか? 
 まずはエネルギーの消費行動を改めないといけません。そのために考えられるのは、「外的コスト」を「内的コスト」に変えるということです。「外的コスト」や「内的コスト」とは何かって? たとえば、こんな例で考えてみましょう。

 ある海辺の屋台で、焼きそばを売っています。屋台の主人はゴミ箱を用意していますが、多くの客たちは砂浜にゴミを捨てていきます。風に遠くまで飛ばされることもあります。ゴミが放置されたままでは、砂浜が汚れます。それによって海水浴客や観光客が減るかもしれません。仕方なく、地元住民たちがゴミを拾って片付けています。彼らの人件費は、誰が払うのでしょうか。屋台の主人? いいえ、主人は何も払っていません。地元住民たちのタダ働きです。
 この場合、焼きそばを作るための材料費や人件費などの諸費用が「内的コスト」です。もちろん、それを少し上回る値段で売っているから、結局、払っているのは焼きそばを食べたお客様。一方、焼きそば販売によって発生したゴミを片付ける人件費が「外的コスト」になります。これを払っているのはお客様ではなく、おいしい焼きそばを一口も食べていない住民の方々。
 さらに想像を膨らませてみましょう。焼きそばのゴミが海に流れ出たら、魚が減るかもしれませんね。ゴミを食べた魚を人間が食べたら、人体に悪影響が出るかもしれません。漁獲量減少による漁師の損害や、魚を食べて身体を悪くした人の医療費もすべて外的コストになりますが、屋台の主人やお客様はそれらも払っていないのです。

 こうした不公平な状況をなくすためには、利益を得た人、そして最終的にその商品を消費した人に全てのコストを払わせる仕組みが必要です。たとえば食べ物を売るなら、ゴミが完全に回収されるまで店舗側が責任をとり、客を見張ったり、ゴミの回収をしたりする義務を付けましょう。ビーチもきれいになり、海や魚、人のお腹まできれいになります! しかし、ワンマンでやっていた焼きそば店はもう一人の店員が必要になり、人件費が上がるから、焼きそばの値段も上がりますね。これで外的コストが内的コストになるわけ。

 コストは本来、その恩恵に与る人が払うべき代償です。残念ながら、エネルギー市場では上記の焼きそば店とその近所の皆さんと同様の構造が見られます。先進国に住む僕らは一年中、冷暖房や電気を使って快適に暮らし、排ガスを出す車に乗っています。それらは主に化石燃料による恩恵です。もちろんガソリン代や電気台は払っていますが、それに入っているのは、その燃料の採掘、運搬や販売家庭で生じたコストのみです。温暖化によって生じる大きな代償を背負っているのは、恩恵を受けている僕らではありません。アジアやアフリカなどの貧困国の人々です。皮肉なことに、旱魃や洪水など、温暖化による悪影響を受けているのは圧倒的に途上国が多いのです。
 焼きそばを食べた人がゴミ拾いのコストを払うべき。車に乗る皆にも、その廃棄ガスによる被害コストをとってもらいましょう。

 そこで出てくる発想が、カーボン税(炭素税・CO²税)という考え方です。化石燃料を使った人たちに、使った分だけの追加料金を払わせるのです。燃料を何かの商品の生産や運送に使った場合、最終的に商品の値段が上がり、消費者が負担することになります。
 たとえばバナナ。農家が畑を耕す時に使う農機の燃料代も、バナナを運ぶ船の燃料台も、スーパーの電気代もカーボン税のおかげで高くなるなら、当然、バナナの値段も上がりますね。でも、それは環境に悪い分だけ上がっているので、食べる人が払って当然ではないでしょうか?
 カーボン税が導入されれば、当然、消費者はより環境にいい、つまりより安い商品を選ぶようになるはず。さらに生活費で電力が高くなった分、節電を心がけるはず。その上、カーボン税の税収は温暖化対策や温暖化による被害を受けた人への代償に使えるのです。
 燃料にかけるだけではなく、たとえば農家が森林を燃やして畑をつくるなら、その分お金を支払うというルールも考えられます。逆に木を植えたり、何かの措置で大気からCO²を減らすことができたらお金をもらえる仕組みもあり得ます。ヨーロッパのいくつかの国では、すでに企業からCO²排出量に応じた税を徴収する制度が導入されています。日本でもこうした税制度を導入してもいい頃だと思います。

 しかし、日本だけがカーボン税を導入すると、それがない国の企業に比べて日本の企業の競争力が下がる懸念はもちろんあります。そこで、僕は数年前から言っているのですが、TPPなどの自由貿易協定などにもカーボン税を取り入れるべきだと思っています。願わくば、WTOを通して世界規模の同一制度ができると最強です。それなれば、タンカー船で運ばねばならない輸出業には今以上に税金がかかり、海外からの輸入商品の値段が上がります。運送費は全般的に上がるはずです。
 つまり、地産地消の後押しになり、自由貿易化が進んで、関税が撤廃されても地元の産業はある程度守られます。地方活性化にもつながるかもしれません。それよりも、環境が守られ、生活可能な地球が後世に残せるのがポイントですけどね。

 そうして集められたカーボン税をどうするか。前述の通り、温暖化対策に充てたり、被害者援助に使ったりするのが筋でしょう。でも、たとえば、干ばつが続く当事国の政府に渡したら一部の官僚や為政者が不正に使ってしまう可能性もありますから、ODA(政府開発援助)や国連などによるクリーンエネルギー開発にまわしてもいいかもしれません。該当国からの難民の優先策や職業訓練費、教育費などにまわすのも一つの手です。
 これは温暖化対策だけではなく、途上国への大きな支援にもなり得ます。世界の貧富の差の是正にもつながるかもしれません。なぜなら、先進国の一人当たり排出量が途上国よりはるかに高いからです。ベトナム人の一人より日本人の一人が10倍ぐらいCO²を出しています。アメリカ人だと、さらに日本人の倍ぐらいです。温暖化の加害者である富裕国から被害者である途上国にお金が動くことになりますね。
 でも、日本の消費者や企業には大きな打撃になります。なぜなら、輸入の火力発電に頼っているからです。発電に使う化石燃料自体にも、それの採掘や運送に使った燃料にもカーボン税がかかります。ただでさえ高い日本の電気代がさらに上がってしまうのです。製造業は特に苦しくなりますね。でも、それでやっと代替エネルギーへのシフトに拍車がかかり、地球が救われます。
 とにかく、化石燃料を使い続けることによって地球上の全人類がリスクを負うことになるのです。今後、化石燃料の使用が規制される方向に向かっていくのは間違いないでしょう。

 実際、“脱・炭素化”の動きは世界的に進んでいます。2017年12月、世界銀行は、2019年以降は石油や天然ガス開発に新たな融資をしない方針を明らかにしました。さらに欧米の225の機関投資家や金融機関も、温室効果ガスの排出量が多い企業100社に対して、気候変動対策のためのガバナンス強化や気候関連の財務情報開示の強化を求めることを表明しました。
 むしろ、いつまでも化石燃料にすがりついていたら、日本は世界から取り残され、世界中から糾弾される羽目に陥るかもしれません。まあ、アメリカの方が派手なカーボンユーザーですが。

 

原発は本当に「夢のエネルギー」なのか?

 次に、原発について考えてみましょう。
 ウランが発見された19世紀頃は「夢の物質」と大いに期待されたものでした。以降、20世紀初頭までウランやラジウムは人体にもいいとされ、歯磨き粉や化粧品に入れられたほか、ラジウムチョコレートやラジウムパン、ラジウム入り飲料水なども作られました。(実際は、ウランやラジウムを人体に入れるのは有害ですよ!)。日本でラジウム温泉を見るたびに不思議に思います。

 同様、ウランやプルトニウムを使って発電することができるようになった時代も、神様から与えられた「ミラクル電源」として異常なほど期待されていました。核に関する化学の進歩が、そこまでと同じように凄まじいペースで続くと思われ、使用済み燃料の処分などの問題がまだ解決されていないまま電子力発電所を次々とつくり始めたのです。「そのうち説かれるから」と、期待からの楽観的な考えが、結局は次世代への責任転嫁になってしまいました。

 でも、原子力発電は今も温暖化対策のために、エネルギー自給率向上のために期待度は高いです。確かに、温室効果ガスを排出する化石燃料に比べれば、原発はウランを一度輸入したら長く使えますから、環境にやさしい有意義なエネルギーと言えます。さらに毎日輸入しないといけない石油などに比べて、ウランの輸入量が少ないし、核燃料のリサイクルが実現できたら、他国に頼らないで電源の確保ができるものです。しかも、発電コストも低く、効率が高いです。たとえば、各電力を発電コストの高い順から並べてみると……。

 

 石油(30.6~43.4円)、太陽光(24.2円)、風力(21.6円)、天然ガス(13.7円)、石炭(12.3円)、原発(10.1円)。【2015年、資源エネルギー庁の資料より】

 

 代替エネルギー推進派はこんな数字に意義を唱えますが、少なくとも日本政府の見解によると原発の発電コストが一番低いのです。こうした点にも再稼働のモチベーションがあるのでしょう。原発は発電コストが低いし、化石燃料より空気を汚さないなどのメリットもある。だから、リベラルな僕も、原発に関して「100%反対!」というわけではありません。

 しかし、何といっても原発で一番心配なのは危険性です。福島の例を出すまでもなく、実はアメリカでも大小かかわらず、年に数百回も事故が起きています。メルトダウンまでは起きていませんが、亀裂ができたり、運転停止になったり、住民が避難するような事態も相次いでいます。人命にも危ないし、大型事故があると大量の放射性物質をばらまくことになる発電方法は「環境にやさしい」とは断言しづらいと思います。
 また上述の通り、使用済み燃料をどうするかという大問題も解決できていません。

 毎日新聞が2017年3月に実施した全国世論調査(18歳以上、1012人回答)では、原発の再稼働に「反対」という回答は55%で、「賛成」の26%を大きく上回っています。安倍内閣の支持層でも、賛成派より反対派が多いというのです。
 今、安倍内閣は原発再稼働を進めようとしていますが、民意の大半が反原発なのに原発政策を押し通そうとすれば反民主主義になります。このように、原発にはいろいろと難しい問題があります。

 

「再生可能エネルギー大国・ニッポン」という新しい可能性

 では、どうしたらいいのか。いよいよ、ここからが僕のお気に入りの対策です。
 化石燃料の使用を減らしたい。国民には原発反対派の方が多い。それなら、コストが高くても、技術を結集して、太陽光発電や風力発電、地下熱発電などの再生可能エネルギーを推し進めたらいいんじゃないかな。皆で「再生可能エネルギー大国・ニッポン」を目指すのです。

 大きな障壁だったコストの問題も、徐々に明るい兆しが見えてきています。これまで再生可能エネルギーは初期コストが高いと言われていましたが、2010年以降、市場が急速に拡大したため初期コストも下がってきており、今後さらに下がると予想されています。また太陽光や風力などは一度導入したら半永久的に使えるため、100年単位で考えれば、それほど高くないとも言えます。しかも、コストの大部分が人件費。燃料代を外国に収める火力発電とちがって、日本国民に支払われるのです。

 また、稀とは言え、原発の大型事故は起きうる。その場合のコストに比べると、代替エネルギーの導入費用はとても安く感じられます。たとえば、福島第一原発事故の後処理。いろいろな試算があり、高くて70兆円とも言われていますが、少なくとも政府発表では22兆円かかります。
 一方、長崎県佐世保市の宇久島に日本一大きい太陽光発電所(メガソーラー)が計画されていますが、出力は爆発した福島第一原発一号機とほぼ同じ480MWで総投資額は2000億円。つまり、22兆円があれば、この規模のメガソーラーを100個も作れる!

 この費用は商品開発の投資にもなります。日本は原発の技術や建設、管理を主要な輸出商品にしていますが、代替エネルギーセクターでも同じことができるはず。特に早くとりかかって他国との技術の差を広げ、高く売れるようにするのが得策。オランダの干拓事業が良い例です。オランダは国土の約25%が干拓地(ポルダー)ですが、13世紀から堤防の造成や水の汲み上げなどの干拓事業を行い、自分たちで土地を広げてきました。「世界は神がつくりたもうたが、オランダはオランダ人がつくった」と言われるのはそのためです。そこに喫緊の課題があるからこそ、解決のための技術が生み出されるのです。オランダの世界一の干拓技術は日本の干拓地にも取り入れられていますが、温暖化が進む今後は、より大きな輸出産業になることでしょう。
 日本も「再生エネルギー大国ニッポン」になれば、大きな付加価値になるはずです。

 現在は、世界の発電量のうち24%を占める再生可能エネルギーですが(2016年現在)、2040年には40%を占めるようになるだろうとIEA(国際エネルギー機関)は予測しています。
 だから、日本もやるなら早い方がいい! そう思って、実は僕は5年ほど前から具体的なアイデアをラジオやテレビを通して東京都に提出しています。それはこんな案です。

 実は太陽光発電を進める際、障壁となるのがパネルを設置する土地の確保です。出力が1ギガワットの超大型太陽光発電で原発1基分の発電量を作るために、どの位の面積が必要かご存知ですか? 
 答えは58km²。東京の山手線の内側面積と同じくらいのスペースが必要と言われています。そんなスペースはないと思うでしょう。でも、あるんです。どこかわかるかな?

 それは、東日本大震災の原発被害で立ち入りが禁止された帰還困難地域です。369km²にわたる原発被害エリアから避難されている住民の方々は財産を放置している状態で、非難先で生活に困窮されている方も少なくありません。それなら一括買い上げでも100年リースで借りてもいいから、その土地に太陽光パネルを設置させてもらって太陽光発電を稼働させ、その収益から住民の方々にお金を支払えばいいのではないでしょうか。
 単純計算では、このエリアにパネルを敷けば原発6基分の発電量に相当します。18年現在、日本で稼働している原発は4基ですが、その量は十分カバーできるでしょう。

 ……という具体策を僕は小池都知事に直接提案したこともあるのですが、素晴らしいことに、東日本大震災の津波で大被害を受けた地域を中心に、福島県内の数カ所で1、2年前から太陽光発電所の建設や稼働がはじまっているそうです。東日本大震災によってもっとも大きな原発被害を受けた福島県ですが、2040年までに電力を再生可能エネルギー100%にする計画を進めています。ぜひ実現していただきたいと思っています。

 再生可能エネルギーを増やすことや、CO²の排出量を減らすことは気温の上昇速度を下げるためにとても大事なことですが、それでも温暖化はおそらく止められないと思います。そうなると、より暖かい地球、より激しい気候現象、環境難民の増加などによる、より不安な国際情勢に付き合うための対策も考えないといけません。
 たとえば、海に囲まれた日本では水害に耐えるため水はけのいい街づくりに挑む必要があるでしょう。街並みを海岸寄りから内陸に移動させるのも一つの手です。また自然界への助けも促進しましょう。サンゴ礁の再生に努めるとか絶滅危惧種の保護に努めるなど、いろいろな対策が考えられます。

 それからまったく新しい方法として、気候や地球環境を人為的に変化させる「ジオ・エンジニアリング」という技術が今、注目を浴びています。そのうちの一つの方法は、成層圏に反射性エアロゾルという物質を散布して太陽光を反射させ、地球上の太陽エネルギーを減少させるというもの。実は、これはすでに見られている現象です。
 というのも、火山が噴火する時、同じような現象が起きるのです。火山が噴火すると成層圏に大量のエアロゾルが吐きだされ、一部の太陽光が遮断され、世界の気温が下がるわけ。マサチューセッツ工科大学の研究によると、2000年からの火山の噴火のおかげで地球の気温が0.05℃~0.12℃下がっているようです 。
 これはこの15年ぐらいの期間にあった十何回かの比較的に小さな噴火の話です。人間もそれぐらいは真似できるという見込みです。毎日、数千機の飛行機からエアロゾルをばらまくだけのとても原始的な手段だけど、計算上はできなくないはず。しかし意図的に操作するため降雨量にも多大な影響を与えるでしょうし、世界規模で気候バランスを崩す可能性もあります。過去の火山のデータがあるから、そこまで未知の世界ではないけど、万が一環境が悪化することになったら、誰がどうやって責任をとるのでしょうかね。こんな不安もあって、今はまだ国際社会の正式な場でジオ・エンジニアリングについて議論されたことはないようです。
 でも、先の方法は年間数十億ドル程度でできると予測する人もいます。温暖化による被害額よりはるかに安い数字です。世界規模の話ですから一国が勝手にやるわけにはいきませんが、多くの国が歩調を合わせてやってみる価値はあるかもしれませんね。

 そう、世界が力を合わせれば、きっと最悪の事態は回避できると僕は信じています。現代人の僕たちは快適さや利便性を手に入れた代わりに、地球温暖化や環境破壊という大きな宿題を背負ったのです。それにどう向き合うのか、今、人間の力が試されているのかもしれません。

 でも、以前はテレビでも毎日のように地球温暖化の話をしていたのに、最近はめっきりその話が減ってしまいましたね。温暖化がストップしたわけでもないのに……。人間は、近い危険は意識できても、遠い危険はすぐ忘れてしまう生き物です。注目し続けることが難しいのはわかります。でも、その癖も意識して、頭脳で本能に勝てるはずです。人間という種の存続がかかっていますから、芸能人の浮気やトランプの失言などに気を取られないで、こっちに集中しましょう。
 政府もこれまで火力発電所や原子力発電所に予算をかけてきたから、そう簡単に舵を変えられないという事情もあるかもしれません。既得権益も大きいため、さまざまな抵抗もあることでしょう。 
 でも、エネルギー政策は、種の存続も、国の繁盛も、国民の生活もかかっている問題です。世界規模でエネルギーの見直しが始まる中、日本はどうするのか。今こそ真剣に考えたいですよね。

 

次回、第25回  テロの「悪の循環」から抜け出すために日本ができることは、9月21日(金)公開予定です。

 

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