伴田良輔 パズリカ対談
山岸 吉郎さん(イルフ童画館 館長)  武井武雄をひも解いて その1 刊本作品の中の遊び
戦前から戦後へと息の長い活動を通じて、日本の絵本界のみならず、装丁、デザイン、漫画などさまざまなジャンルに 大きな影響を与えた天才武井武雄は、パズルのような謎やキュートな遊び心に満ちた作品をいっぱい残している。函入りの限定出版「刊本作品」シリーズは、彼の仕事の中でもとくにミラクル、日本の出版史上に残る奇跡的作品だ。(全4話)
その1   刊本作品の中の遊び   2010.12.03 UP!
その2   みめうるわしきアナモルフォーシス   2010.12.24 UP!
その3   大人もときめく子どもの玩具   2011.01.14 UP!
その4   「アイウエおもちゃ」   2011.02.10 UP!
その1 刊本作品の中の遊び

伴田

武井武雄のことがずっと気になっていました。
日本の絵本をふりかえって、
あんなキュートでモダンな絵を描く人はほかにいません。
しかも絵の中にアルファベットや数字や、
ことば遊びがふんだんに出てきて、
非常にパズル的なんです。

山岸

武井武雄は1894年に、諏訪湖畔の岡谷市で生まれました。
ここイルフ童画館からも諏訪湖が見えますが、
岡谷市は、諏訪湖越しに八ヶ岳連峰が臨むことができて、
特に冬はたいへん美しいところです。

伴田

冬の諏訪湖は格別ですね。
武井武雄はどんな人だったんでしょう。

山岸

武井は旧制の中学校まで、諏訪地方ですごし、
その後上京して東京美術学校(現東京芸術大学)で
本格的に西洋画を学びました。
アルバイトで子供向け雑誌の挿絵を描きながら
思ったそうです。
「副業意識で子供向けの絵を描いてはいけない。
芸術を作る覚悟で、
全力で取り組まなくてはいけない」と。
「童画」という言葉を創り、「童画」を生涯の仕事にしました。

伴田

僕は昭和29年の生まれなんですが、
幼稚園のときにフレーベル館の「キンダーブック」を
毎号読んでいました。
その中に武井武雄の絵があったはずです。
4、5歳ですから、ほとんどはじめて出会う絵本の中に
武井武雄の作品があったというのは、
今になってみれば本当にうれしい。
他の絵ではだめで、武井武雄にしか喚起できない、
夢の世界に遊ぶような楽しさがありますよね。

山岸

私も夢の世界、幻視の世界に誘ってくれる武井武雄の絵に
はかりしれない魅力を感じます。
まずは、絵の魅力と、趣向を凝らした装丁、
ストーリーのおもしろさや、パズル的な謎解きも楽しめる
武井武雄の「刊本作品」を、ご覧いただきましょう。
今日は取材用に出してきたもので手にとって
ご覧いただきますが、一般のお客様でも
声をかけていただければ、
直接ふれていただくことができるんですよ。
本に実際さわっていただくと、
そのディテールにびっくりされると思います。



伴田

うわあ、ほとんど全部ある。
日本の出版史上こんな手のこんだ、
ミラクルな本作りをした人は武井武雄以外いないです。
一冊ごとに技を変え、テーマを変え、想像力の限界を、
これでもかというぐらい広げていきますよね。
その「刊本作品」シリーズにさわることができるなんてどきどきします。

山岸

全部は無理かもしれませんが、
今日はたっぷりとご覧になってってください。
これは「木霊の伝記」という刊本作品です。
これ、絵の部分が寄せ木になってるんです。
凝ってるでしょう。



伴田

まず寄せ木で本を作ろうと思ったところが普通じゃない(笑)。
このものすごく小さな部分も寄せ木ですよね。信じられないなあ。

山岸

これを作った職人さんが、もうこれ以上のものは
作れないと言ったそうです(笑)。

伴田

寄せ木と言えば、箱根の伝統工芸ですよね。
今年は箱根で世界的なパズルの集まりがありました。
IPP(International Puzzle Party)と言いまして、
各国持ち回りで年に一度開いているんです。
寄せ木のある箱根は世界のパズリストにとって
憧れの地であるそうです。
武井さんは箱根ともつながりが深かった。この寄せ木の「刊本作品」も
箱根の職人、一ノ瀬鶴之助さんに依頼していますよね。

山岸

ジグソーパズルのような仕上がりです。
武井は遊びが大好きでしたから、仕かけのある、
おもしろい作品が多いですよ。
これは螺鈿(らでん)細工を使った本です。
このキラキラしているところが貝でできてるんです。
「人魚と嫦娥」というタイトルがついています。



伴田

螺鈿をじかに見ると本当にきれいですね。
「刊本作品」の函も装丁も、仕かけが繊細で手が込んで
ものすごく贅沢なんだけど、
それを押しつけず、楽しさ、軽やかさがある。
その着地の仕方が見事ですね。
別の人が同じことをやると、
「どうだ、すごいだろ」という感じになってしまうと思います。



山岸

その、自分にしかできないテイストを
残そうという気持ちが強かったんでしょうね。
1ページ1ページ計算して作っている。

伴田

このお話はアンデルセンの「人魚姫」ではなくて、
オリジナルですね。武井武雄の文章は奇妙な味があって、
僕は大好きです。

山岸

これなんて、極めつけですよ。
パピルスで本を作っちゃった。
10年くらいかけて、パピルスそのものを育てるところからやった。



伴田

ここまでくると凄まじいですね。
手技職人と交渉する「プロデュース力」があり、
それを完遂していく「編集力」があり、
その器に盛る物語を飛躍させる「作家力」がある。
この三位一体というのは、実際には相当むずかしいんですよ。
普通はできることではないですね。
刊本作品を購読していた会員は、次に何がくるか、
本当に楽しみだったろうなあ。

山岸

武井の何事にもトライする精神はすごいですよ。
職人に依頼する一方で、版画にしろ、タイトルロゴにしろ
ひとりで作り上げているんですからね。
新しいものを取り入れる精神と技術者の手業の両方を持っていたんです。

伴田

パズル作家で言うと、
サム・ロイドは新しいものをどんどん取り入れるタイプで、
デュードニーが職人的なタイプであったと言われています。
武井武雄はその両方を持っていたんですね。

山岸

新しいことに挑戦し続けるのか、技術者として生きるのか。
或いはあくまでも芸術家であろうとするか。
武井でも若い時期は悩んだようです。
伴田さんがおっしゃるとおり、
すべてを兼ね備えた稀有の人であったと思います。
強いチャレンジャー精神と、
それを支えた芸術家としての魂。

伴田

武井武雄の作品は、
今第一線で活躍してるクリエーターたちに
かなり影響を与えていますよね。
でも僕はもっともっと大きな存在だと思っています。

山岸

ありがとうございます。
もう少し「刊本作品」を見ましょうか。

(対談その2に続く)


その1   刊本作品の中の遊び   2010.12.03 UP!
         
その2   みめうるわしきアナモルフォーシス   2010.12.24 UP!
         
その3   大人もときめく子どもの玩具   2011.01.14 UP!
         
その4   「アイウエおもちゃ」   2011.02.10 UP!

武井武雄(たけい・たけお)

(1894〜1983年)岡谷市出身の芸術家である武井武雄は「こどもの心にふれる絵」の創造を目指して、自ら「童画」という言葉を生み出した。大正から昭和にかけて童画・版画・刊本作品など様々な芸術分野に活躍し、いつも探究心をもって生涯創作活動を続ける。『コドモノクニ』や『キンダーブック』等の児童向け雑誌の挿絵などで活躍、子どもが喜ぶだけでなく、大人が見ても満足する芸術性の高いものとして評価を受ける。武井武雄の作品は今もなお色褪せることなく、生き続けている。


「ラムラム王」
代表作の「ラムラム王」は刊本作品の中にも登場する。作中に登場するラムラム王を自分の生まれかわりだとして、「RRR(Roi Ram Ram)」を作品につけるサインに使用していたことでも有名。

イルフ童画館

武井武雄の作品を中心に「童画」をテーマとして、日本のみならず世界中の作品を紹介。武井武雄刊本作品展示室では、139冊ある武井武雄の刊本作品から、専用の本箱と併せて15冊くらいを入れ替えて展示。武井作品を一堂に見られるのは世界でここだけ。ほかにも、絵本の読み聞かせができる絵本ライブラリーや、貴重な絵本やオリジナルグッズが充実したミュージアムショップ、ゆったりとくつろげる喫茶ラムラムなど、絵本好きにはたまらない美術館。


〒394-0027 長野県岡谷市中央町2-2-1
Tel. 0266-24-3319
Fax. 0266-21-1620
http://www.ilf.jp
開館時間 AM9:00〜PM6:00
休館日 毎週木曜日 (祝日の場合は開館)