• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第27回 『女子大生とどんな会話をしたいですか?』

 

11月15日は今年のボジョレー・ヌーボー解禁日。落語協会ホームページの自己紹介欄に「趣味:飲酒」と掲載されるほどの一之輔師匠は、どういう心持ちでこの日を待つのだろうか……?

 

一之輔師匠(以後、師):ボジョレー・ヌーボー? よくわかんねぇ……旨いの、あれ?

 

キッチンミノル(以後、キ):……あんまり興味なさそうですね。

 

編集の高成さん(以後、タ):あれは今年の収穫を祝うお祭りみたいなものですから、美味しいとかそういうのとは違う気がしますね。
【編集部注】ボジョレー・ヌーボー…フランスのブルゴーニュ地方ボジョレー地区で醸造された赤ワイン(ガメイ種)の新酒。解禁日が毎年11月第3木曜日と定められている。

 

師:山岡士郎が、あんなもの嬉しがっているようじゃダメだって言ってたよ。

 

キ:“山岡士郎”って…『美味しんぼ』の?

 

師:そう。オレは『美味しんぼ』至上主義者だから。姉ちゃんが結婚するとき、旦那さんになる人がオレに全巻くれたんだよ。

 

キ:へ〜、いつですか?

 

師:小六のとき。

 

キ:……それでも師匠は、とくにグルメではないですよね。

 

師:逆だよ。『美味しんぼ』を読んだことによって、グルメの滑稽さがよくわかった。なんだこいつら?…って。グルメ漫画というよりはギャグ漫画だよ、あれは。

 

キ:そういえば山岡士郎は、料理をしてくれた人の前でも平気で料理をけなしますよね。

 

師:そうなんだよ。……だけどあれはどうかと思うよ、オレも。

 

キ:ですよね。

 

師:相手に言葉のリンチを浴びせるから。

 

キ:ボロクソに言いますからね。

 

師:言わなくていいときに言うんだよ。通り魔的に言ったりするから。たまたま寄った蕎麦の屋台で「蕎麦はうまいけどつゆが最低だ」とか言っちゃうの。言わなくていいじゃん! そんなこと。

 

キ:中松警部が初登場する回ですね。確かに、自分の胸の中にしまっておけば済むことですよね、そういうのは。
【編集部注】…コミックス第2巻収録「そばツユの深味」。アニメ版では第5話。

 

師:それでいて、すべてのことを食いもんで解決するって、どうゆうこっちゃ!…って感じなんだけど。……でも面白いんだよね、マンガとして。

 

キ:私はアニメ派でしたが、何も考えずに見ていた気がするなぁ。当時からそうやって、ひねくれて読んでいたんですか?

 

師:いや、当時は真剣に読んでいた。しかも何度も読み返した。そしてアニメも何度も再放送まで見てるから、オレは。

 

キ:は、はぁ。それじゃ好きな回ってなんですか?

 

師:いろいろあるけど、「トンカツ慕情」だね。
【編集部注】トンカツ慕情…コミックス第11巻収録。アニメ版では第35話。

 

キ:どんな話でしたっけ?

 

師:アメリカで大成功を収めた社長さんが貧乏学生の頃、街のチンピラにボコボコにされて身ぐるみ剥がされた後、偶然とんかつ大王って店の主人に助けられてトンカツをご馳走になるの。そのときに大将が「トンカツをいつでも食べられるくらいの人になりな」って言うんだ。「それが人間、偉すぎもしない貧乏過ぎもしない」……それがちょうどいいって。

 

キ:それって一之輔師匠がよく言っている「毎日寄席に出られれば、それでいい」っていうのに通じる気がしますね。

 

師:……言われてみればそうかも。

 

【「平成最後の11月15日」記念!】 

▲我らが師の、七五三を祝う写真が見つかりましたので“解禁”!
このときは白タイツでなく白ハイソックスだったようです。

 

師に問う:

私は、わりと年上の方に可愛がってもらいやすいのですが、ひとり、師匠ほどの年齢の自由業の知り合いの方と話すときだけ、本当に話す話題がなくて困っています。例えば、「今日の服かっこいいですね!」と褒めると「大体いつもかっこいいから」と。また「~新聞の連載読みました! とても興味深かったです!」と言えば「オフのときは仕事の話をしたくない」などと言われてしまいます。落語好きということは共通しているのですが、私がにわかすぎて相手を苛立たせてしまうこともしばしばで、それ以外の共通の趣味もないため、だいたい道路状況の話になります。
会うたびにご飯はご馳走してくださるので、嫌われてはいないって思いたいのですが、師匠ほどの年齢の方が、女子大生と話したい会話の内容とは、どのようなものでしょうか?
(きのこあめ/21歳/女性/愛知県)

 

師:なんども会ってメシ食ってんでしょ? 嫌われてはいないでしょう、前提として。

 

キ:それでも会話が続かず、ときに相手を苛立たせています……

 

師:苛立っているのにまた会うわけでしょ? この自由業の人には下心があるのかね?

 

キ:さ、さぁ……どうなんでしょう?

 

師:きのこあめにまず言いたいのは、21歳は21歳と話しているのが一番楽しくなきゃダメなんだよ。それが健全なの。こんなおっさんと飯食って酒飲んでなにが楽しいんだよ。話も合わないのに。

 

キ:確かに。

 

師:こんなおっさんに気に入られようとしている了見が良くない。もしこれが仕事ならしょうがないけどさ。

 

キ:まあまあまあ。

 

師:「この服かっこいいですね」なんて言う必要ないんだよ。「大体いつもかっこいいから」なんて本気で答えるヤツとは一緒にいなくていいよ。気持ち悪い。

 

キ:だけど「大体いつもかっこいいから」って本気で言っていますかね? きのこあめさんは本気で受けとめている感じはありますが…

 

師:そういえば、オレもときどきお世辞で「この服かっこいいですね」って言われて、同じように返すことがあるなぁ。

 

キ:自分も言ってんじゃないスか! だけどその返事を相手が真に受けたとしたらキツいっすね。

 

師:そうなんだよ。「アハハ、だと思ってました~」くらいは返してほしい。

 

キ:そうじゃないと、師匠がお世辞を本気で受けとったみたいになりますからね。

 

師:きのこあめには、それくらいの器量は持っていてもらいたいね。

 

キ:師匠も打ち上げで若いコと話をするようなこともあると思うのですが、そういうときにはどんな話をするんですか?

 

師:……あのね。

 

キ:はい。

 

師:オレの打ち上げに若いコはまず来ない。

 

キ:あはは……はぁ。

 

師:びっくりするほど来ない。

 

キ:じ、じゃあ20代のコと話す機会は…

 

師:ないね。

 

キ:…………

 

師:女子大生と話したい内容はなんですか?…ってことだけど、女子大生の自分を前に出すんじゃなく、きのこあめのほうが、相手が話しやすい話題を選ぶべきだよ。

 

キ:「女子大生と話したい内容」ではなく「誰とでも話したい内容」があるはずだから、それに合わせるってことですね。

 

師:そう。もし「女子大生と話したい内容」って決めてしまうのなら、ただひとつ。

 

キ:はい…

 

師:スケべな話だけ。それのみ、おじさんは。

 

キ:アハハ、そりゃそうだ。

 

師:だけどきのこあめは、そういう話をしたいんじゃないんでしょ?

 

キ:そうでしょうね。ちなみに師匠は最近どんな話をよくしますか?

 

師:最近は思い出話しかしない。子どもの頃に見ていたマンガやテレビの話とか。

 

キ:『美味しんぼ』ですよね。

 

師:そうそう。完全にさっきの話。とりあえず『美味しんぼ』のどの回が好きですか?…って尋ねてみればいいんだよ。

 

キ:僕らの世代でまったく見ていないって人はまずいないですからね。

 

師:次に会うまでに『美味しんぼ』を読んだりアニメで見たりして勉強しておけばいい。おじさんは『美味しんぼ』大好物だから。
「♪包丁い〜っぽん、さらしに……」 

 

キ:ジェフだ! 大根の桂剥きの回。
【編集部注】…コミックス第2巻収録「包丁の基本」。アニメ版では第21話。

 

師:そう。……だけど人前で包丁を振り回しちゃまずいだろ。

 

キ:あはは。『美味しんぼ』は毎回ツッコミどころがあるんですよね。だから話が盛り上がりやすい。この自由業の方も『美味しんぼ』を好きそうな匂いはしますよね。

 

師:するする。たぶん好きだよ。

 

キ:相手の好きなフィールドに自分を合わせていくための予習かぁ。

 

師:『美味しんぼ』には有名な回がいくつかあるから。

 

キ:横綱が黒豆を食べる回とか。

 

師:「おせちと花嫁」ね。最後に親方に向かって女将さんがいうセリフが秀逸でね。「現役時代に関脇止まりだったあんたが、横綱の若吉葉になに言ってんだい!」って。
【編集部注】おせちと花嫁…コミックス第10巻に収録。アニメ版では第88話。

 

キ:それを言っちゃーオシマイよ!…ってヤツですよね。

 

師:そうそう、いっぱいあるよ。噺家が出てくる回もあるし。

 

キ:ひとつ思い出すと止まらなくなりますね。
……他にオススメの話題ってありますか?

 

師:あとはテレビで見た映画の話とか。

 

キ:映画館で見た映画じゃなくて!

 

師:じゃなくて。「金曜ロードショー」や「日曜洋画劇場」とかで見た映画。当時の子どもにとって、映画はテレビからだったから。
『吉原炎上』とか『八つ墓村』、『タワーリング・インフェルノ』とかさ。「インディ・ジョーンズ」シリーズもあるよ。

 

キ:『スタンド・バイ・ミー』に『グーニーズ』に『グレムリン』!

 

師:『スーパーマン4』も!
【編集部注】…正式な邦題は『スーパーマンⅣ/最強の敵』。

 

キ:『ロッキー4』もだ。
【編集部注】…正式な邦題は『ロッキー4/炎の友情』。

 

師:なぜか「4」なんだよ、テレビでは。そんな気がする。

 

キ:そうそう、なぜか『ロッキー4』ばかりやっていた印象があります。

 

師:ときどき続けてやってたりはしてたけどね。

 

キ:私は『ロッキー4』を最初に見たのですごく好きなんですけど、大人になってから4の評価がすごく低いのを知ってびっくりしたんですよね。

 

タ:「ロッキー」は最初の作品が最高に面白くて「2」がぼちぼち、「3」以降はダメ映画ですよ!
【編集部注】…と言いますか、個人の主観なので御容赦を。

 

師:ロシアと戦うヤツだよね。ドルフ・ラングレン。

 

キ:ロシアのボクサー、ドラゴですよね。よく覚えてますね〜ッ!

 

タ:『ロッキー4』はもう国家vs.国家の壮大すぎる話になっちゃって……。“1”はダメ男が頑張ったけど結局は負けて終わるというのが素晴らしく良いんです!
【編集部注】…あくまで個人の主観です。ついでに主観を連ねると、シリーズ最終作『ロッキー・ザ・ファイナル』(’06年)の本編自体はアレですが、エンドロールは感涙必至です!

 

師:「イタリアの種馬」って呼ばれていてね。

 

キ:そうでした!

 

師:子どもの頃、その意味がわからなくて親に訊いたもんね。

 

キ:アハハ。「種馬ってなぁに?」と無邪気に質問された親が困惑している風景が目に浮かびます。

 

タ:あれは韻を踏んでるんですよ。「イタリアン・スタリオン」って。

 

師:あーッ! そういうことだったのか。テレビ派で吹き替えだから、そこまでわからないんだ。「イタリアの種馬」じゃわからんはずだ!

 

キ:テレビで映画を見ると、吹き替えの声でセリフを覚えていますからね。モノマネも吹き替えの声。「スタンド・バイ・ミー」を字幕で見たとき、かなり違和感がありました。

 

師:あるあるそういうこと!
……いやー止まんないね、こういう話は。つまりこういうことよ。

 

キ:本当に。それじゃ、きのこあめさんは少し勉強していったほうがいいですか?

 

師:勉強って思わずにさ、見てみたらいいんだよ。普通におもしろいと思うよ。それに知らなくたって話を聞くだけでもいいじゃん。きのこあめが少し歩み寄るだけで、向こうが勝手に話してくれると思うよ。

 

キ:教えてもらうって姿勢で挑めば、いろいろ教えてくれそうです。

 

師:「ドリフターズの誰が好きですか?」でも、「初めて買ったファミコンのカセットはなんですか?」でも、「ドラえもんの長編映画で何が好きですか?」でもなんでもいいんだから。

 

キ:あはは、どんどん出てきますね。

 

師:手塚治虫のマンガで何が好きかとか、水木しげるの妖怪で何が好きかとか……

 

キ:そう考えると、きのこあめさんが現在好きな分野と関係があるものが必ずありそうですね。

 

師:あのね…

 

キ:はい。

 

師:おじさんは思い出を食って生きてんの。大好物なの。
だからきのこあめは、先方が思い出を美味しく食べられるようにその場を調えさえすれば…

 

キ:おじさんは勝手に食べはじめる。

 

師:そういうこと。
なんなら、きのこあめは一回、前座になったらいいんだよ。師匠たちから、ずーっと思い出話を聞かされるからね。打ち上げなんて思い出話でいっぱいだから。

 

キ:それはめちゃくちゃ聞きたいかも。

 

師:こんなしくじりやったとか。あいつとどこそこ行ったとか。

 

キ:二度も三度も同じ話を聞くんですか?

 

師:二度三度どころじゃなく毎回聞かされてるよ。

 

キ:それじゃあ、師匠が前座のときは「うるせ〜なぁ」と思って聞いていた?

 

師:この人また同じ話をしているな…とは思ってたよ。だけど、「えっ! そうなんですか!?」って、そこは初めて聞くような感じで聞かないと。

 

キ:あっ、それはきのこあめさんにもできますね。相手に気持ちよくしゃべってもらうコツだ。

 

師:でも、一般の人と違うのは噺家の思い出話って歌みたいなもんで、何回聞いても面白い。師匠それぞれに十八番の話があるから……無駄が削ぎ落とされた話が。ちゃんとオチもあるし。

 

キ:それ自体が落語みたいになっているんだ。それは素人のおじさんと大きな違いだなぁ~。普通のおじさんの場合、苦痛でしかないときがあるからなぁ……

 

師:あのね、若手っていうのは、その人にご馳走になるんだから気持ちよくしゃべってもらうように努めるものなんだよ。
先方だって、この話をするの何度目かだよなと思ってしゃべってるし、この若手は何度も聞いたことあるのに笑ってくれてるんだなって……わかってるから。

 

キ:なるほど、若手の作法かぁ。ちなみに師匠は現在は…

 

師:思い出を食べて生きてます。はい。

 

キ:あはは。

 

師:……いつの間にかそうなってるね。完全に。

 

 

師いわく:

 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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※次回は11/21(水)〜一の位「いちの日」に更新いたします。