• 不惑突入の噺家・春風亭一之輔です。落語界ではまだまだ若手。写真家のキッチンミノルに「孔子いわく『四〇にして惑わず』だそうです。師匠も不惑だから人生相談をしてみませんか?」って言われて、流れで「いいよ」と応えてはみたものの……正直、相談にのって欲しいのはこっち。あまり頼られても困るので、とりあえず「話だけは聴きます」。


第17回 『平成が終わろうとしています』

 

本日は皆様からいただいた相談メールを一之輔師匠に問うために四谷のファミリーレストランで待ち合わせ。お昼どきの忙しい時間帯を過ぎた店内は、暑さにぐったりしているサラリーマンや勉強中の学生さん、子連れのママさんなどなど。そんな健全な雰囲気のなかではさすがに飲むわけにはいかないが、気分を盛り上げるためにノンアルコールビールを注文しようとしたのだが…… 

 

キッチンミノル(以後、キ):……あ、お二人はもう着いていたんですね! 遅くなってすみません。

 

一之輔師匠(以後、師):キッチン、ここは東京のど真ん中の四谷だぞ。なんだその格好は! 首から汚ねぇタオルぶら下げて。

 

キ:こんだけ暑いんだから、タオルくらいぶら下げさせてくださいよ。……地方出身者はすぐ東京を神格化させるから困るんだよなぁ。

 

師:千葉は東京のすぐ隣だぞ! ……じゃあキッチンはどこ出身なんだよ!

 

キ:アメリカ生まれの東京育ちですが、なにか?

 

師:ふん…アメリカのどこだっけ?

 

キ:テキサスですけど?

 

師:テキサスのほうが、ずっとど田舎じゃねぇか!

 

キ:グググ…

 

編集の高成さん(以後、タ):えーと……なにか注文しましょうか?

 

師:キッチンは、ドリアにサンラータンメンね。

 

キ:おーい! テーブル挟んだ目の前で人一倍汗をダラダラかいている人が見えませんか?

 

師:で、オレはかき氷ね。こう暑いとダルくて仕方ないねぇ…… 

 

 

師:高成さん、まだお天道様は高いからオールフリーで乾杯しますか!

【編集部注】オールフリー…サントリービール(株)が製造・販売するビール風味の炭酸飲料。「アルコール分ゼロ・カロリーゼロ・糖質ゼロ・プリン体ゼロ」というゼロ尽くし(=オールフリー)である特長を商品名にした。

 

タ:いいですね! オールフリーでも気分は上がりますからね。

 

店員:すみません。本日オールフリーは売り切れでして……

 

師:ええー! 弱ったなぁ。オレ、クルマだからなぁ…

 

キ:クルマどころか免許も持ってないでしょ!! 店員さん相手に小さな見栄をはらないでくださいよ!

 

タ:オールフリーはお店の在庫もオールフリー。…なんちゃって。

 

キ:ええ~~っ! いきなり何をぶっこんでくるんですか! 高成さん!! 

 

タ:あ……へへへ。

 

師:今のギャグには完敗(乾杯)ですよ、高成さん。ふふふ。

 

キ:…………(暑さは人をダメにするんだなぁ…)

 

 

▲師に苦言を呈されても、キッチンミノルの首からタオルがほどかれる瞬間は最後まで訪れなかった……

 

 

師に問う:
昨日(7/1)のラジオで「平成最後の7月が始まりました!」みたいなことを言うのを聞いて、ああまたそういうやつなのねとミレニアムのときを思い出しました。「20世紀最後の◯◯!」みたいなのがいっぱいで呆れた記憶が。
質問は、「平成が終わる前に片づけておくべきことを教えてください」です。
結婚はまだしていません。つきあっている人はいます。元号が変わるタイミングでけじめ婚というのはどうなんでしょうか? 年齢的にはそういう時期なのですが、たくさんいそうな気がして流れに乗るのも微妙な気がします。ほかには引っ越しや転職?
師匠は、平成のあいだにやっておこうという目標はありますか? 筑波山とサーフィン以外にあれば教えてください。(フェアリー/27歳/福岡県)

 

 

キ:「20世紀最後の○○」のころフェアリーさんは……あれ、まだ小学校低学年ですね。

 

師:子どものころはミレニアムで盛り上がる大人に呆れていたのに、自分が大人になったら同じことをやりたくなったんだね。この方、当時のほうが賢かったんじゃないの?

 

キ:ちょ…ちょっと! 大切な読者に、それは言い過ぎです! えーと、「平成のうちにやっておきたいことは?」って聞かれていますけど……

 

師:ない。まったくない。

 

キ:あらら。

 

師:だって、オレはまだ昭和で生きてるから。オレにとって今年は昭和93年だからね。

 

キ:まだ平成になってない!?

 

師:そう!

 

キ:(いやいや、40年間の人生の3/4は平成のはずなのに……)

……あっ!

 

師:なんだよ!

 

キ:フェアリーさんは平成生まれだ!!

 

師:違うだろーがよ! フェアリーは27歳だろ。それで今年は平成…

 

キ:30年です。

 

師:あっ、本当だ。

 

キ:ふんっ、昭和で生きている弊害ですね。

 

師:うるせぇーよ。

 

キ:……えーと。次の元号ってなにになるんでしょうね。

 

師:なにかなぁ。早く発表すればいいのにね。もう一年切ったんだから。

 

キ:元号って、日本史と世界史の勉強するときにすごく覚えにくいんですよ。

 

師:世界史に元号は関係ないだろ。

 

キ:いや、だって日本の出来事が世界ではいつ頃なのかなって考えて覚えたら楽しいじゃないですか。

 

師:ふ~ん。キッチンがそれほど几帳面に勉強をしていたとは信じられないけどな。

 

キ:……ひどい!

 

師:いっそのこと横文字にしちゃうか!

 

キ:えー! それは変でしょ。それに横文字にしたところで覚えにくいのは一緒ですし。

 

師:キッチンのために変えるんじゃないんだよ、元号は。

 

キ:す、すみません。

 

師:では新しい元号を発表します!

 

キ:え? はい。

 

師:新元号は……「パッション」です。

 

キ: Passion!? ……ダサっ! 高校生の文化祭のスローガンみたいですが。

 

師:だって、いま日本人に必要なのはパッションでしょ!

 

キ:いやいや、以前の相談で「世の中盛り上がりすぎ!!」って苦言を呈していたじゃないですか!

 

師:上っ面の空騒ぎはダメだけど、心の内に秘めたパッションとかそういうのは、むしろアリだろ。そういうことを言ってるんだよ、オレは。

 

キ:はぁ……

 

師:いいじゃん! 「パッション生まれの若者世代」、「パッション景気」に「パッションの大合併」。「〇〇パッション大学」もできるよ。

 

キ:いや〜、どんどん出てきますね…ってただ「パッション」を言いたいだけでしょ! だけど、どさくさに紛れてパッションフルーツが急に売れたりするかもしれませんね。

 

師:いや。……それはないだろ。

 

キ:えっ? ……なぜ急に冷静に?

 

師:あーあ……キッチンの一言で、いまオレの中のパッションが急に冷え切っちゃったよ。

 

キ:安っぽい情熱だなぁ。それじゃあ、えーと……フェアリーさんに向けてなにかアドバイスはありますか?

 

師:いっぱいいるよね。何かが変わるタイミングで役所に行く人たちは。

 

キ:いますよね。きっと。

 

師:自分の人生や生活の節目として、元号が変わるタイミングに乗っかっちゃうこと自体は、いいんじゃないかな。

 

キ:わかりやすいですしね。

 

師:そうそう。……だけど、この方に問いたい。あなたはワンオブゼムでいいのかと。

 

キ:その点はフェアリーさんも、なんとなく微妙だなと思っているみたいです。

 

師:元号が変わってすぐは、役所に婚姻届を出す人が殺到するでしょ。

 

キ:そうかもしれませんね。

 

師:だから、あえてそこはズラしましょうよ。

 

キ:ズラす?

 

師:うん。

 

キ:ズラすのも、“わざと”感が見えてくるといやらしいものですが……どのくらいズラせばいいでしょうか?

 

師:半日。

 

キ:たったの半日……?

 

師:あっ、この人たち寝坊したんだな…と思わせるくらいで。これくらいのドジさ加減が好きだよ、オレは。寝癖なんかつけちゃって、役所に来るのが遅くなったのはどっちのせいだみたいなことで、窓口でちょっと喧嘩したりなんかしてね。本当はもっと早く来たかったんですよって気持ちが滲み出ちゃうの。

 

キ:あはは、その二人はこの後も同じような喧嘩を一生するんでしょうね。

 

師:その記念すべき「結婚して最初の喧嘩」が、元号の変わったときだった…と。いいじゃない。

 

キ:二人にとってはかけがえのない思い出になりますね。

 

師:でもさ、これだと楽しさが一瞬で終わっちゃうからもったいないよね。

 

キ:「もったいない」ですか……?

 

師:新元号について、あなたは騒いでいますけれども。

 

キ:はぁ…

 

師:なんでオレたちがこんな呑気なことを言い合えるのかということを、考えたことがあるのかな?

 

キ:ん? …といいますと?

 

師:慶応から明治に変わって以来、初めて天皇陛下が崩御されないで元号が変わるんだよ。

 

キ:あーッ! なるほど。すごく大事なことなのに、すっかり忘れてました。
だから元号が変わる心の準備もできるし、記念結婚なんて浮かれた発想もできるわけだ。これまでだったら突然訪れることですし、“記念”なんて不謹慎で考えられないことです。

 

師:そう。だからゴキゲンにカウントダウンもできるわけだよ。
……ところで平成はあと何ヶ月?

 

キ:来年の4月30日までですから、9ヶ月くらいですかね。

 

師:もう一年ないんだから、この平成のラスト9ヶ月をたっぷり楽しまないともったいない。
……そこで、ずばり!

 

キ:……ずばり?

 

師:「Hey! Say! J」をしようと言いたい。

 

キ:へい・せい・じぇい?
なんかどこかで聞いたことあるような……平成、ジェイ?

 

師:J・I・Y・U・K・E・N・K・Y・U!
自由研究!

 

キ:Jは自由研究の頭文字ですか!…ってか、また自由研究? (まあ夏に適したテーマだからいいですけど)

 

師:平成31年から、一年いちねん振り返っていく大人の「平成」自由研究です。
歴史的事件や出来事を調べるのは当然として、自分にとっての出来事も思い出して書き並べてさ。

 

キ:フェアリーさんにとっては、まさに平成が自分史みたいなものですからね。

 

師:この人の生まれたのが平成3年くらいでしょ。

 

キ:そうですね。

 

師:平成2年と元年はまだ生まれてないけれど、親御さんに当時の二人のことをインタビューしてさ。

 

キ:もしかしたら平成元年に出会って翌2年に結婚なんてことも…

 

師:当然あるでしょうね。もちろん。

 

キ:すごいドヤ顔!

 

師:「平成」自由研究を機に平成と自分とを振り返る。今まで知らなかった親御さんのアチチな時期まで踏みこめるチャンスでもある。

 

キ:チャンスかどうかはフェアリーさんの気持ち次第ですが、これをきっかけに家族の会話が活発になるかもしれないですね。

 

師:そう。元号が変わる瞬間だけ楽しむのはまだまだ子ども。大人は大人のやり方で新元号までの時間を骨の髄まで楽しまなくっちゃ。

 

キ:まさに、大人ならではの自由研究!

 

師:別に自分史じゃなくてもいいんだよ。野球に関する平成でもいいし、アイドルに関する平成でもいいじゃない。テーマはなんでもいいの。

 

キ:どんなことでも調べてみたら、新しいなにかが見えてくるかもしれないですもんね。

 

師:うん。それに、たとえ見えてこなくたっていいの。無駄に終わってもいいの。
……無駄なことって最高に楽しいから。それこそが本当の自由研究でしょ。

 

 

師いわく:

 

(写真・構成/キッチンミノル)※複製・転載を禁じます。

 

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※次回は8月21日(火)〜一の位「いちの日」に更新いたします。